2024年4月5日金曜日

YouTubeの遭難チャンネルが最悪だ



遭難をテーマにしたYouTubeチャンネルについてこんなツイートをしたところ、「何が悪いのかわからない」という意見を散見しました。


そこで以下、この手のチャンネルの問題について説明してみます。



人の不幸を金儲けの道具に使うな

まず、遭難した人の遺族や知人はとても悲しく苦しい思いを抱えています。そのときに、軽薄なエンタメもしくは小銭稼ぎの道具として故人が使われているコンテンツを目にしたらどう思うでしょう? 私ならころしてやりたいほどの怒りを覚えます。それがこうしたコンテンツがダメである第一の理由です。




3番目は私の知人です。マジで腹立ちました


「本チャンネルは過去の事例を知り、再発防止に役立てていただくことを目的としております。事故の関係者を冒涜、侮辱するといった意図は一切ございません」


という断り書き(言い訳)を入れているところも多いですが、こんなサムネイル作っておいてそれは通らないですよ。



ここまで読んでそれでも問題があると思えない人は、以下を読んでも意味がないと思うのでここで離脱してください。



写真や動画を盗用するな

次に、写真や動画の盗用です。サムネイルや動画内で他人の写真や動画を無断で使っているのが目立ちます。これは私自身がされたことがありますし、同様の経験をもつ知人も何人かいます。


たとえばこれは私の知っている人で、動画の内容とは全く関係なく勝手に顔写真を使われています


ただし最近はAI画像を利用することが多く、盗用は少数派になってきているようです。盗用をすると通報されてチャンネルBANのリスクがあるため、対策しているということなのでしょうか。必要な写真を探して盗用するよりAIに作らせたほうが簡単ですしね。



動画やるならちゃんと調べろ

ダメな理由3番目は、内容が不正確であることです。ここはチャンネルによって差があるので一概にはいえませんが、登山をほとんど知らない人が作っていると思われるものもあります。


たとえばピッケルについて説明しているときにこんな画像を載せるんですよ。これはツルハシだっつーの!






最低チャンネル増殖の背景

ところで今回、この手の遭難チャンネルについて少し調べてみたところ、いくつか興味深いことがわかりました。


私が見つけただけでも20個くらいの遭難チャンネルが存在するのですが、そのほとんどは2023年9月以降に始まっています。そしてそのどれもが動画の構成がほぼ同じです。AI画像もしくはイラストを使って画面を構成し、ナレーションソフトが台本を読み上げるというもの。


この界隈ではどうもこのチャンネルが一番老舗かつ大手のようですが、他のチャンネルはこれの作りをパクっているようです。

山岳遭難ファイル

ちなみにこのチャンネルは比較的まともでした。見るならこのチャンネルがよいと思われます。他のチャンネルはどうせこれの劣化コピーだし。



逆に私が見たなかで一番タチが悪いと感じたのがこのチャンネルです。サムネイルが最悪なうえにけっこう再生回数が回っていて、悪影響が大きいと思われます。

生きて山から帰るには【山岳遭難解説】



調べている過程でこんなのも発見しました。サイトの売買を仲介するサイトで、遭難チャンネルが売りに出されています。チャンネルを作ってある程度軌道に乗せたところで売って利益を得るビジネスモデルなのでしょうか。昨年9月以降に急増した裏にはこういう仕組みがあるのかもしれません。



売られていたチャンネルはおそらくこれです。

登山者の教訓【山岳遭難事故に学ぶ】




これらは登山を歪める社会悪である

さて、以下に書くことは私の印象ですが、こういう動画を楽しんで見ているのは、登山をやらない人にこそ多いように感じました。登山の知識がない人にこういう動画が大量に見られてしまうのは社会的悪影響が大きいように思うのですがどうでしょうか。


だって、

・無駄に恐怖やミスのみをあおり

・内容の正確性は担保されず

・ノーチェックコピーで大量生産される


こういう動画なわけです。そこに理念なんかなく、自身の小遣い稼ぎ目的があるだけです。そんなものから有益な学びなんか得られるわけないでしょ。むしろ悪影響のほうが深刻ですよ。


これを書くために見ているだけでうんざりでしたが、こういう最悪文化がこれ以上はびこることのないように私自身注視していこうと思うし、自分にできることを考えていこうと思います。



*掲載したサムネイル画像は本来なら出典を記すことが引用の必要条件ですが、PVを送るのが不愉快なのであえて記しません



【付録】最悪チャンネルの見分け方

遭難系YouTube、避けたほうがよいチャンネルを見分ける指標を発見したので共有します。以下の3つにひとつでも当てはまるチャンネルは要注意。3つがそろっているところは最悪レベル確定です。


1)サムネイル画像の煽りがひどい

ここは主観判断になりますが、刺激性を過度に高めたサムネイルにしているところはインチキ度が高いです。

・ボカシの入った顔写真

・「大丈夫っしょ♪」など当事者の言葉を捏造

・「遺体」「腐乱」などショッキングなワード

これらの有無が刺激性の判定ポイントです。


2)動画公開頻度が高い

1カ月に4本以上動画を公開しているチャンネルは、クラウドソーシングなどで外注して品質無視の大量生産をしている可能性が高いです。


3)参考文献が記されていない

動画の概要欄に、どの資料を参考にしたのか書いていないチャンネルはアウト。資料名を具体的に記していないところは真面目に動画制作をしていないと見なしてよいと思います。

*「複数のニュース記事を参考にしています」などの具体性がない文はダメ



【追記1】

「デイリー新潮」に関連記事を書きました

故人を冒涜する「遭難系YouTube」が人気 登山ライターの怒りと警鐘(全文) | デイリー新潮


【追記2】

こちらは遭難チャンネルの問題点についてわかりやすく面白く説明してくれています。必見です。

12 件のコメント:

  1. 山岳系はキャラクターが解説するゆっくり動画の方が古くからあります
    しかし自身の山行記録だったり、自身も登山をされてる方がキャラクターを介して動画にしているケースもあり、そういった方々は登山の知識や自身の体験なども交えてきちんと運営されています。

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  2. 本質的には人の不幸を消費している、というのは全くその通りだと思います(特にサムネ)し、コメント欄でも、登山されない方による、山に"なんて"登るもんじゃないと改めて確信した、と言った書き込みが散見されるのは、勿体無いし残念だなと思います。

    他方、事の性質として、ただただ最悪な動画を最悪な人間達が視聴している、とまでは言い切れないような気もします。多少登山歴がある人なら、些細な道迷いや食糧/水分不足、足場が悪く滑落しそうになった等の経験はあるでしょうし、また山行の途中で、山舐めてんのかと言いたくなるような登山客に遭遇したことも必ずあるでしょう。そうした記憶を呼び覚まし、今一度身を引き締めて山に登るきっかけくらいにはなるのではと思います。

    いずれにせよ、登山の魅力とともに、安全な登山のために留意すべき点が正確に分かりやすく伝わるようなコンテンツを、プロがたくさん作ることが大事なように思います。


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  3. 確かにものによってかなり程度の差はあって、有益なものもありますよね。ただし一見よくできていても、実は別の書籍や記事の内容を丸パクリしていて、フリーライドの度が過ぎるものもあるので要注意なところです。

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    1. ご自身のブログも似たようなものです
      人が死んだら他人に話題にされる
      ただこれだけの話

      他人が登山というコンテンツにハイエナのように群がるのが気に食わないのはわかりますが、ただそれだけのことなのですよ

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    2. 金銭を目的にしただけの度を超したものは社会的に害悪だということを私は言っています。「それだけのこと」という無常観を表明しても意味はないと考えます。

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  4. 子供の頃から山岳ノンフィクションが好きで、文字を読むのが辛くなってからはゆっくりと学ぶ山での悲劇
    さんを視聴しています。
    こちらはYouTubeの山岳事故系の中では視点が良心的ですし、初心者に優しい作りかつ製作者自身も山登りをされているのが伝わるので、ライトハイカーとしては共感が持てました。
    一連のtweet(X)で名前が挙げられているものよりずっと古いのに、他の諸々と一緒くたにされてしまう可能性がありファンとしては心外です。
    その分野で発言力のある方は一つの発言から良いコンテンツまで炎上させてしまうことももう少しご配慮頂きたく思います。
    いきなり厚かましく申し上げて失礼いたしましたが、心情を汲み取っていただけると幸いです。

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    1. なお、このコメントまで見にきた酔狂な方のために付記しておくと、ゆっくりと学ぶ〜さんだと地形図を出してルート考察しているので、自分が登ったとしたら?と当てはめて考えられるため、より自分に引きつけて視聴できて学びがあります。

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    2. ゆっくり系はちょっと系統が違うので今回あまり念頭に置いていなかったのですが、「ゆっくりと学ぶ山での悲劇」見てみました。おかしいと感じるところもあおりがひどいと思えるところも比較的少なめで、これならば特に問題はないと思います。ネタ元にした参考文献の明記は必要だと思いますが。

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    3. 「ゆっくりと学ぶ山での悲劇」、その後もう少し見てみたところ評価は下がりました。サムネイルの扇情性、参考資料の無視、金銭目的と思える投稿頻度など、あまりいいチャンネルとは思えませんでした。

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  5. メーデーや世界まる見えにも意見してどうぞ

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  6. 森山さんの指摘の通り、最近は遭難チャンネルの増加に驚かされています。
    人目を引くために、おどろおどろしい表現がほとんどです。
    どれも過去に大きく報道された遭難ばかりであり、長年登山をされた人にとって記憶の中にある出来事です。

    遭難チャンネルで表現された内容は、過去に出されたコンテンツの焼き直しでしかなく、遭難報告書等を読み込んで作られたものは皆無です。
    そのため転載を繰り返し、内容が事実とは違うことが多い。

    遭難事故の検証は常に事後検証であり、当事者でなければ本当のことは分かりません。
    当事者ではなく、関係者でもない人間が他人のコンテンツからパクって作ったチャンネルがあふれてきている昨今に、私も危惧をしています。

    「山登りは恐ろしい、遭難者は皆な無謀な自殺志願者だ、との表現には表層的視点しかありません。
    「本チャンネルは過去の事例を知り、再発防止に役立てていただくことを目的としております。事故の関係者を冒涜、侮辱するといった意図は一切ございません」という断り文句は免罪符にはなりえないでしょう。

    このような不正確で無責任な情報が多くなっても、装備が良くなっても登攀する人間が自分で正しい情報を得て、真摯な態度で向かわねば事故・遭難は無くならないと思います。
    私も過去の遭難情報を知ることは必要だし、忘れ去られることで同じような失敗が起きて欲しくないと思います。
    しかし、経験の浅い登山者にコンテンツの善し悪しがつくでしょうか?

    初心者に優しいとか、製作者も登山をしているとの意見も目立ちますが、私は違うと思うざるを得ません。
    「軽薄なエンタメもしくは小銭稼ぎの道具として故人が使われているコンテンツ」と森山さんは表現されていますが、その通りであると私も思います。

    YouTubeでも良心的で正確なサイトがほとんどですが、問題のある遭難チャンネルの増加には憂慮せざるを得ません。

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    1. コメントありがとうございます。私も同じような問題意識を抱えています。遭難動画チャンネルの多くは金銭目当ての業者のようですね。

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