2020年6月7日日曜日

【登山4択クイズ】結果発表

先日、このような登山クイズを作って公開しました。


登山4択クイズ


公開以降、2週間で2946人もの方がトライしてくれました。ありがとうございます! 作った甲斐があったというものです。






そもそもこのクイズは、これのマネをしたものでした。

クライミング4択クイズを作ってみた!


これはMickipedia(植田幹也)さんという人が作ったものなのですが、やってみたらすごく面白くて、「登山版もできるじゃん!」と思いついて作ってみたというものです。


このMickipediaさんは、クイズ公開後、結果の分析レポートまで出していて、それがまたすごく面白かったので、これまたマネして、以下、登山4択クイズの結果分析をレポートしようと思います。



【警告】

以下、完全にクイズのネタバレを含みますので、まだクイズをやっていない方は、ぜひやってみてから以下を読み進めることをおすすめします。結果分析が10倍面白く読めると思いますので。













よろしいでしょうか。


では結果レポートを初めます。




回答者数は2946人、平均点は30点満点で13.12点でした(6月6日22時時点)。


ちょっと難しかったですかね……。基本的に自分が知っていることしか問題として頭に浮かばないので、客観的な難易度がいまいち見当がつかなかったんです。


Mickipedeiaさんのクライミングクイズの平均点が15.43点だったので、なんとなくの体感値としてそれくらいの難易度を目指したつもりだったんですが、少し難しくなりすぎたみたい。


随所に引っかけ問題とか、たとえネット検索してもまずわからないような難問とかも入れたので、29点以上の「生き字引」クラスをゲットする人はいないだろうと思っていました。


が、予想に反して35人も! 満点獲得者が現れたときは本当に驚いたのですが、何度もトライしている人がいたようで、高得点ゾーンに少なくない人がいるのはそのせいかと思われます(複数回トライを禁じるつもりはなく、逆に何度もやりたい人は納得いくまでやってほしかったので、全然問題はないです)。


直接知らせていただいて、私が把握しているなかでのオンサイト最高点は28点。初見でこのクイズ28問正解するのはマジですごいと思います。私には無理だな。仮に他人が作った同程度の難易度のクイズを自分がやったら、22点くらいじゃないかなと見積もってました。


一方、7点以下は「逆にすごい」クラスと設定していました。4択クイズなので、全問適当に答えたとしても、確率的に7.5問は正解できるようになっています。その数学的確率を超えて外し続ける引きの強さは、まさに「逆にすごい」。このナイスなクラス設定もMickipediaさんをマネしております。




正答数人数順位上位率クラス
00人
逆にすごい
10人
20人
33人2943位100.00%
48人2934位99.90%
528人2907位99.60%
672人2834位98.70%
7114人2721位96.20%
8170人2551位92.30%
高尾山
9226人2325位86.60%
10257人2068位78.90%
丹沢
11297人1771位70.20%
12248人1523位60.10%
13301人1222位51.70%
14250人972位41.40%
15230人742位33.00%
北アルプス
16195人547位25.20%
17152人395位18.50%
18101人294位13.40%
1971人223位9.90%
2039人184位7.50%
山岳ガイド
2147人137位6.20%
2217人120位4.60%
2323人97位4.00%
248人89位3.30%
258人81位3.00%
8000m峰登山家
2620人61位2.70%
277人54位2.00%
2818人36位1.80%
2917人19位1.20%
生き字引
3018人1位0.60%


得点分布はこうなっています。細かい数字が合わないような気がしますが気にしないでください。Mickipediaさんのほうでは出していた偏差値も出したかったんですが、偏差値の計算方法が難しくてどうしても理解できず、断念しました。


これを見ると、19問正解までが上位10%以内に入ってしまうのだから、やっぱり難しすぎましたね。得点分布のグラフを見ると、Mickipediaさんのクイズは左右均等にきれいな山を描いているのに対して、今回のクイズは左に寄ったいびつな形をしています。それから、なぜか真ん中(12問正解)がガクッと少なくて、頂上が陥没あるいは双耳峰的な形に。これはなぜなんだろう? 理由がわかりません。







問題ごとの正答率

カテゴリー/レベル問題正答率
問1 山Lv.1登山者数80.7%
問2 山Lv.2百名山でない山53.5%
問3 山Lv.3槍ヶ岳の標高43.8%
問4 山Lv.4鷲羽岳56.1%
問5 山Lv.5最高峰が低い県57.7%
問6 山Lv.6一尺八寸山22.3%
問7 技術Lv.1パッキングのセオリー75.9%
問8 技術Lv.23000mの気温70.3%
問9 技術Lv.3必要な水の量70.7%
問10 技術Lv.4雪崩埋没時の生存時間61.9%
問11 技術Lv.5雪渓のルート41.0%
問12 技術Lv.6ヤブこぎグレード20.3%
問13 ギアLv.1防水でない素材57.6%
問14 ギアLv.2クランポン51.5%
問15 ギアLv.3パタゴニアのロゴ48.9%
問16 ギアLv.4デニール46.9%
問17 ギアLv.5パーテックス34.8%
問18 ギアLv.6カネボウのザック39.9%
問19 登山史Lv.1エベレスト初登頂44.5%
問20 登山史Lv.2剱岳初登頂55.6%
問21 登山史Lv.3日本アルプス命名者13.5%
問22 登山史Lv.48000m14座18.6%
問23 登山史Lv.5上高地のバス24.8%
問24 登山史Lv.6谷川岳衝立岩15.9%
問25 その他Lv.1古い登山雑誌50.4%
問26 その他Lv.2山岳遭難者数30.4%
問27 その他Lv.3日本山岳・スポーツクライミング協会41.9%
問28 その他Lv.4アイガー・サンクション26.8%
問29 その他Lv.5股旅の山29.7%
問30 その他Lv.6さかいやスポーツ26.6%


正答率が25%を下回ったものに色を付けました。こうして見ると、登山史がネックになったことがわかります。クイズをやってくれた人の感想として「後半が難しかった」というものが目立っていたのですが、数字にしてみるとそれは明らか。自分的には前半と難易度を変えたつもりはなかったので、私の知識は登山史とか雑学系に偏っていることがうかがえます。


本当は、レベル1の正答率が80%~90%、6が20%前後で、段階的に正答率が下がっていくのが美しいと思うし、Mickipediaさんの結果はまさにそうなっているんですが、私のは必ずしもそうはなっていないところが、クイズ作成の精度の低さを表しているなと反省。







注目問題の結果解説

個人的に思い入れのあった問題や、結果が予想外だった問題をいくつかピックアップします。




これ、意外と知っている人多いんですね。沖縄と答える人が多いんじゃないかと思ってました。







これはけっこう自信作。グレードの基準がまさか「いまだかつて体験したこともないような猛烈なヤブ」とは思いますまい。私もグレードの存在は知っていましたが、基準までは覚えていませんでした。いきなりこのクイズ出されて正答する自信はありません。







レベル1にしては正答率が低かった問題。これはフューチャーライトが迷わせてしまいましたね。これ、昨年登場したばかりでまだ知名度が高くない素材なのです。レベル1なら、ネオシェルとかハイベントとかエントラントにしておくべきでした。







これもレベルを失敗した問題。解説にも書いたとおり、ストッキングでなじみの単位なので、女性には常識だそうです。







これなんでこんなに正答率高いの!? 「カネボウがザック作ってたなんてだれも知らないだろ~」と思って自信満々に出したのに。けっこう知られている事実なんでしょうか!? それとも、他の選択肢から推測しやすかったのかな。







これは8割9割正解するだろうと思っていたのですが意外。ヒラリーとテンジンというのは、小学校あたりで習ったような覚えもあって、登山史というより一般常識だと思っていたんですが、いまの若い人には知られていない事実なんでしょうかね。







正答率13.5%。今回の最難課題となったのがこれ。すぐ下に有名な名前があるので、圧倒的にそちらに引っ張られています。私はガウランドわりと知っていたのでなんとなくレベル3か4くらいかなと思ったのですが、考えてみりゃガウランドなんて知ってる人限られますね。







有名な人が選択肢にあるとそちらに引っ張られるというのは、ここでも同様な傾向が見られました。ククチカって、80年代には新聞記事にもなったりしてわりと有名だったと思うのだけど、すでに歴史の彼方に埋もれてしまったようであります……。







これ意外と知られていないんだなあというのが感想。しかしこれも考えてみれば、雑誌の創刊年なんて普通は知らないか。私は元山と溪谷編集部員なので、創刊年を覚えていて当たり前。レベル設定を間違えました。







今回最大の自信作。この知識をドヤりたいがためにクイズを作ったといったも過言ではありません。「地球最大」はわからないだろう~。「銀河系最大」という選択肢も自信作で、こちらを選ぶ人がけっこういるんじゃないかなと予想していましたが、案の定けっこういて私は満足です。


ちなみに証拠はこれ。70年代のさかいやはパンクでした。








まとめ


クイズを作りながらつくづく感じたのが、Mickipediaさんの作ったクライミングクイズの完成度の高さ。Googleフォームを利用したことも、全30問にしたことも、4択にしたことも、カテゴリーやレベル分けのやり方も、すべてが具合がよく、変える部分を思いつきませんでした。比べてみてもらえばわかりますが、私が作った登山クイズは、まんまクライミングクイズのフォーマットにのっとっています。


面白いと感じた方は、ぜひオリジナルのクイズを作ってみてください。このMickipediaフォーマットは非常に優れているので、これをマネすればOKです。Googleフォームもとても優れています。私は初めて使ったのですが、直感的にすぐわかりました。これ以外のこともできるようなので、カスタマイズもいろいろできます。


気が向いたら第二弾作ります。
それでは!



2020年5月16日土曜日

「登山再開に向けた知識」を読んで思ったこと


登山再開に向けた知識(計画と準備編)


登山をよく知る医師、大城和恵さんが作ったこの提言が先日来話題になっています。新型コロナウイルスの感染をいかに防ぎながら登山をするか、その注意点について医師としての見地からまとめたというものです。


一読しての私の感想;



感染者が大量発生したダイヤモンドプリンセス号では、トイレの床に次いで枕から多くのウイルスが検出されたそうです。そこで、これからは山小屋泊でも自分の寝袋を持参しようと提言されています。


ただ、寝袋持参というのは少しハードルが高いので、枕カバーやシーツではどうでしょうか。カバーだけだったらウイルスが突き通してしまって意味ないというのであればダメなんですが、多少なりともウイルスの防御効果があるのであれば、カバーやシーツのほうが現実的な落とし所になるのではないかと。家庭で使っているものをそのまま持っていってもいいかもしれないし、アウトドア用のものだったらかなり軽量コンパクトなものがあります。


ちなみに私のおすすめはシートゥサミットの製品。枕はものすごく軽いのに頭の載せ心地がとてもよく、山小屋泊だけでなくテント登山者にもかなりおすすめ。シーツはシルク系のライナーが肌ざわりがよくて軽くていいですが、コスパ重視派はノーブランドのコットンや化繊のものでもいいでしょう(ちょっと重くなりますが)。











【5月17日追記】
この素人案はダメみたいです。大城さんが上記提言の補足として5月16日に公開したQ&Aによれば、「インナーシュラフ等を使用して、共用の寝袋を使うことは、インナーの素材に関わらず、感染リスクを減らすことはできません」とのこと。寝ている間等に無意識に共用の布団にふれたりしてしまうからだそうです。詳しくはこちらを参照。

【7月10日追記】
厳密を求めれば上記の通りですが、シーツなどでもないよりはずっとマシのようです。山小屋でも、可能であれば寝袋やシュラフシーツを持ってきてほしいとしているところがかなりあります。





***


ところで、この提言をめぐって、山小屋界隈が荒れているようです。


この提言書、全25ページのうち11ページが山小屋事業者に向けてのもので、登山者向けというより山小屋事業者向けの内容になっています。しかしこれが徹底的すぎて「こんなのできるわけない」「現実を無視している」と、山小屋関係者から大不評だというのです。


不評だけならまだいいのですが、長野県ではこれをガイドラインとして各山小屋に対策を要請しているといいます。その結果、「実行できないので休業するしかない」という議論になっているところもあるそうです。


大城さんは医師として、考えられる対策をすべて網羅したのだと思いますが、ひとたびその手を離れると、いつの間にか「全部やらなきゃダメだ」という金科玉条になって流通していき、現実との齟齬をきたす。そんなだれも幸せにならない不幸な状況になってしまっているようです。


この提言に書かれていることを山小屋がすべて実行するのは、私も無理だと思っています。このなかから実行可能な対策のみ行なっていくというのが、提言の現実的な活用法でしょう。


で、そのとき、どういうことを優先的にやれば対策効果が高まるのかが素人にはわからないので、もっとも重要な対策5項目くらいにしぼった簡易提言書があるといいなと思いました。電子機器などでは、分厚い取扱説明書に加えて、重要なことだけにしぼった簡易説明書が付いていることがありますが、ああいうイメージ。


今回の提言書はVersion.1となっているので、Version.2あるいはVersion.1_aなどというかたちで、そういう簡易バージョンができればよいのではないでしょうか。



2020年4月29日水曜日

今シーズンは見たことがないほど登山者が少なくなるかもしれない




4月中旬、八ヶ岳の赤岳鉱泉が11月まで休業することを発表。大胆な決断に驚かされたが、富士山吉田ルートの山小屋も今年は休業することに決定したらしい。


今後注目されるのは、北アルプスの山小屋の動向だろうか。北アルプスの山小屋は例年、早いところはゴールデンウイークから営業を開始し、10~11月くらいまで営業している。今年はすでにゴールデンウイークの営業は休止が発表されているが、その後のことは未定である。


北アルプスの5月と6月はもともと登山者が少ないので、山小屋が営業しているか否かは登山者にとって影響が少ないといえるけれど、7月からの夏山シーズンがどうなるか。これはかなり注目されるところだ。


北アルプスでいえば、仮に全山小屋が夏の営業を休止したら、登山者の数は例年の半分くらいになるのではないか(富士山では2~3割に落ち込んでもおかしくないと思う。逆に南アルプスは減ったところで7割くらいにとどまるような気がする)。


となると、ひとつのことを思い出す。


昔、6月の平日に穂高に登ったことがある。天気がイマイチだったこともあってか、登山者の姿はほとんど見かけず、涸沢にはテントは1張もなく、まるで無人空間のようだった。


そこで見た風景に私は圧倒された。むき出しの自然と圧倒的な造形美。やっぱりこれは日本一の山岳風景なんじゃないか。明治時代に初めてここに来た人はさぞかし驚いたことだろう……。


それまで涸沢には何度も来たことがあったのだけど、そんなことを感じたことはなかった。そこで私は、これまでは登山者の姿に気を取られて、目の前の自然をいかに見ていなかったかということに気づいた。人がいるということが、山が本来持っている迫力をいかに損なってしまうかということに気づいたのである。


登山者の数が半分に減ってしまうというのは、ここ数十年で例がないこと。もしかしたら今年は、現代人には体験することができなかった北アルプスの姿を拝める千載一遇のチャンスなのではないか。


チャンスなどと言うと、生き残りをかけて究極の選択を迫られている山小屋の方々に大変失礼な言い方になってしまうし、そもそもこういう状態が続いたら私も職を失う可能性すらあるわけだけど、単純に一登山者の目線からすると、こういうことも考えてしまう。




ただし、人が入らないと山は格段に難しくなるということも申し添えておきたい。6月だからといって装備をナメていたこともあって、このときの穂高で私は死ぬ思いをした。30年以上の登山歴のなかで、2番目にやばかったのがこのときだ(1番目の話はまたいずれ)。





これは上記の6月ではなく、別の年の7月に撮った写真なので、雪の状況など誤解なきよう(6月はもっと残雪が多いです)


2020年4月28日火曜日

感情に訴えかける言葉は難しい

【この記事は玉城デニー知事を批判する意図はまったくないことを先にお断りしておきます】


「収束後に笑顔で沖縄を訪れてください」玉城知事、GW訪問自粛を再度呼び掛け - 毎日新聞


このニュースをテレビで見ていた妻が「笑顔で訪れてくださいはおかしくない?」と言いました。私はとくに気にしないで見ていたのですが、言われてみればそのとおりだ。


これは、コロナウイルス感染拡大防止のため、ゴールデンウイークに沖縄に来ないでほしいと玉城知事が訴えるコメントを報じたものなのですが、その前の文章を含めるとこう言っています。


”どうか今は来沖を我慢していただき、沖縄に帰省することを控えていただき、収束後には是非、笑顔で沖縄を訪れてください。”


妻が言うには、「笑顔で訪れてください」ではなく、「笑顔でお迎えしたい」というべきだと。沖縄に来ないでほしいということに重ねて、笑顔で訪れてほしいとまで要望するのはやや傲慢に聞こえてしまうというのです。



「どうか今は来沖を我慢していただき、沖縄に帰省することを控えていただき、収束後には是非、笑顔で沖縄を訪れてください。」

 ↓

「どうか今は来沖を我慢していただき、沖縄に帰省することも控えていただけないでしょうか。収束後には必ず、笑顔でお迎えすることをお約束いたします。」



確かに後者のほうが爽やかで好感度が高く聞こえる。


まあ、私は気づかなかったくらいで微妙な違いではあるのですが、気づく人は気づくし、聞く人に与えるニュアンスの違いがあることは確か。


日常の会話ではどちらでもいいような違いですが、要望やお詫び、センシティブなテーマのときなどには、こういう微妙な違いに気を配れるかどうかが、問題の解決を左右することもあります。私はお詫び文を書くときには、助詞は「が」がいいのか「を」がいいのかレベルで吟味することもあります。それによって人に与える印象が変わってしまうこともあるからです。


たかが言葉ですが、されど言葉。自分も言葉を扱う者として気をつけたいところです。





*テレビのニュースでは、上記のコメントしか放映していませんでしたが、実際は玉城知事はそれに続いて「その時は最大限の『うとぅいむち』、おもてなしで皆様をお迎えさせていただきます」と言っていたそうです。玉城知事はおそらくこのへんのニュアンスの違いをある程度意識していたであろうことと、報道の切り取りの危うさを感じました。


2020年2月27日木曜日

経歴詐称記事のあとがき的なもの


「山写」なる人物のこと


こういう記事を書きました。


登山ライターとしてこういうことに関わるのは、気が進むものではありません。そもそも人の批判をするのは気が重い行為であるし、やたら時間と神経を使うわりにいいことがあまりないからです。ネット上でへんな誹謗中傷を書かれたりもします。


以前、栗城史多さんについて私が書いた記事がかなり注目されたことがありました。以来、登山の正義を追求する”山岳警察“としての役割を期待されているような気がするのですが、積極的にやりたいとは思いません。というのも、それをしたことろで、私には実利がないからです。


私が仕事をしている登山・クライミングメディアというのは、趣味レジャーのものであって、基本的には読者のためになるポジティブな情報を提供することがテーマであります。そこでは闇を暴くようなネガティブな記事はあまり好まれません。私が文春の記者だったら違うのでしょうが、登山界では、微妙な案件にすぐ首を突っ込む危ないライターとして避けられてしまうおそれがあります。


それでもこういうことをやってしまうのは、第一に、本当のことを知りたいからです。正義ではありません。求めているのは真実です。私は真実を知りたいという欲求が人より強いのだと思います。デマや嘘に踊らされることがものすごく苦痛なのです。自分が踊らされるのもいやだし、踊らされている人の姿を見るのもいやだ。


東日本大震災で原発事故があったときや、STAP細胞事件があったときなどは(最近ではコロナウイルスも)、自分には判断不能な情報が飛び交い、何が真実なのかまったくわからない状況が続いて、個人的にはとてもストレスでした。本当のことが知りたい!


首を突っ込む第二の理由は、本当のことを伝えるのが専門家の仕事だろうと思っているからです。原発事故のときもSTAP細胞のときも、おそらく真実はここだとわかっていた専門家はいたはずだと思います。でも伝え方が下手だったり、内部者ならではのしがらみがあったり、さらには陰謀論が好きな人が事態を混乱させたりして、そういう人の声が表に強く出てこなかったのでないか。


山写さんの件でいえば、私にはすぐわかってしまったような嘘でした。でも、こんな稚拙な(と私には思える)嘘でも、カンチェンジュンガとマナスルの違いを知らず、ヒマラヤン・データベースなど存在すら知らない人にはわからないのだ。ということを、5ちゃんねるやツイッターで交わされている議論を見ていて強く感じました。これは栗城さんの件のときに感じた感覚とまったく同じものでした。


そこでは、意図的な嘘や間違った思い込みでも、伝え方が巧みであれば世論は容易に流されてしまう。ならば、だれの目にも動かしようがない真実を、事情をよく知っている専門家がガツンと立ててやらなければいけない。それがこの世界でメシを食っている人間の使命であろう。


カッコよくいえば、そういうことが、こういうことをやってしまう動機です。所詮、自己満足ではあります。でも、だれかの役に立っていることを願っているし信じてもいます。


2020年2月26日水曜日

「山写」なる人物のこと

先日、山岳写真の分野で経歴詐称事件が発覚しました。詐称していたのは、「山写」と名乗って山岳写真家として活動していた人物。顔と本名を公表していないので何者なのかがよくわからないのですが、ツイッターで1万人以上のフォロワーを抱え、各種企業とコラボして山岳写真のセミナーなども開催し、ある種のインフルエンサー的な存在となっていました。


登山と写真で仕事をしている人。rel="nofollow"


一般にはあまり知られていないと思われるのですが、登山と写真両方に関心のある人たちにはそれなりに影響力と存在感を持っていたと思います。とくにここ一年ほどは、ファイントラックの山岳写真用ジャケットの開発に協力したり、ペンタックスとコラボしたセミナーが開催されたり、YAMAPで連載が始まったりなど、活動が本格化していました。


本人が自称している経歴は以下のようなもの:


・20代は海外で山岳写真の修行をつむ

・現在は海外の組織に所属する立場。日本の山岳風景の撮影と、山岳写真の啓蒙のため帰国して活動している

・自身の写真作品は海外で高額で取引されている

・登山実績も豊富。これまでにエベレスト、マカルー、カンチェンジュンガ、モンブランなど多くの海外高峰に登る

・フリークライミングもうまく、これまでの最高グレードはオンサイト5.12b

・WEBディレクター/デザイナーとしての顔も持ち、さまざまなプロジェクトに参画してきた

・平湯温泉で各種広報、地方創生的な事業を行なってきた


年齢は30代と思われるのですが、こうして並べてみるとスーパーマンというか、そんな人いるの!?って感じです。






私が初めてこの人の存在を知ったのは、2016年、この記事を見たことがきっかけでした。


登山用ザックに一眼レフと大量のレンズをパッキングをする方法rel="nofollow"


まず引っかかったのがブログのタイトル「登山と写真で仕事をしている人。」


私は職業柄、登山と写真で仕事をしている人はたいてい知っているのですが、こんな人がいることはまったく知らなかった。登山と写真で仕事をしている人というのは大変少なく、私のような山岳ライター/編集者にとっては、常時大募集しているような人材であります。しかもブログを見ると、かなり登れるようであり、年齢も若そうだ。これは貴重人材!


ところが、記事をよく読んでみると、なにかがおかしい。とくに、カメラの予備ボディを持っていないところと、荷物が多すぎるということに違和感を抱きました。私の知っている山岳カメラマンは、山中での故障に備えて予備のカメラボディを必ず持っていたし、撮影機材をできるだけ持つために、登山装備は限界まで切り詰める人がほとんどでした。それに比べると、どうもプロっぽくない。


そのへんの疑問をFacebookに投げてみると、知り合いが「それ、たぶん平湯の人だよ」と教えてくれました。平湯温泉の観光協会で仕事をしている人だというのです。平湯というのは北アルプスの玄関口となる町。なんらか写真の心得がある山好きの職員が、写真素材を自分で撮影して観光協会の仕事をしているということなのか。なるほど、それなら「登山と写真で仕事をしている人。」というタイトルもあり得ると納得して、しばらくは存在を忘れていました。


再びその存在を意識するようになったのは、2017年末か2018年初頭ごろ。この人がカンチェンジュンガを登ったらしいという話がSNSで回ってきたのを目にしたときでした。――えっ、カンチェンジュンガ!? 


カンチェンジュンガというのは、ヒマラヤ8000m峰のなかでも難しい山で、日本人でここに登ったことのある人はそう多くはありません。


あらためてプロフィールを見てみると、すでにエベレストとマカルーにも登ったことになっている。エベレスト、マカルー、カンチェンジュンガの3山に登ったことがある日本人となると、ごく限られるはず。そんな人を知らないということはあるだろうか……。


これが、同じ8000m峰でも、エベレスト、チョー・オユー、マナスルの3山を登ったということだったら、ここまで違和感は抱かなかったと思います。この3山はガイド登山が発達していて、いまや日本人登頂者なんて無数にいるからです。しかしカンチェンジュンガとマカルーは違う。


そこで、ヒマラヤの登山者がほぼすべて記録されている「ヒマラヤン・データベース」を見てみました。案の定、それらしき人物の記載が見つからない。名前と年齢がわからないのではっきりしたことはいえないけれど、これはかぎりなく嘘っぽいのではないか……。





【ここでおまけ】

ヒマラヤン・データベースというのは、エリザベス・ホーリーという伝説的な山岳ジャーナリストが始めたもので、世界中の山岳メディアが第一級の参考資料としているものです。その網羅性と正確性は驚くべきもの。ただし閲覧の仕方がちょっとわかりにくい。私も使うたびに忘れていて困っていたのですが、今回、ある人が非常にわかりやすく使い方をまとめてくれていたので、自分の備忘録を兼ねて掲載しておきます。引用が長くなるので、先に進みたい人はとばしてかまいません。


ちなみにこの一連ツイートはツイッター上で発見したものなので、この「ひゅ〜む」さんが何者なのか私にはわかりません。が、記述内容からしてヒマラヤ登山に詳しい人と思われます。


















【ここから本文再開】

これで俄然、この山写なる人の言うことが眉唾っぽく感じられてきました。あらためて見ると、登山実績のほかの経歴も、上に書いたようにキラ星のような実績が並ぶにもかかわらず、それが事実だと信じるに足る具体的な記述がほとんどありません。


なんなんだろな、この人は……。


と思っているうちに、山写さんがセミナーを開催するという情報を得ました。どういう人なのか見てみたいという好奇心で、私はセミナーに応募してみました。まあ、さすがに好奇心だけでは応募はしなかったところですが、セミナーのテーマがちょうど私が知りたかったこと(Lightroomを使った色調調整の方法)だったことと、ちょうど購入を考えていたモニターを使えるということが後押しになりました。


セミナー会場で実際に目にした山写さんの印象をひと言で言うと、「ああ、これはやっぱり登っていないな」というものでした。


8000m峰を3山登り、フリークライミングでも5.12をオンサイトする人といえば、日本のトップクライマーの一角といっていい実力です。国内最高の”猛者の集い”とされるWCM(ウィンタークライマーズミーティング)に参加する資格が十分にあるといえるでしょう。


そのレベルの人たちには一様のある”雰囲気”があります。まず体型。細身で全体にキュッと引き締まった体格をしています。立ち方もシュッとしているというか。筋肉が引き締まっているため、スッと立っているだけで関節が正しい位置におさまっているんでしょうね。そして手がゴツい。日焼けするため肌が浅黒い人が多いのも特徴です。


対して山写さんはごく普通の人でした。トップクライマー特有の雰囲気がまったくないのです。見た目だけでわかるのかと思われるでしょうが、トップクライマーにたくさん会ってきた経験があれば、違和感はすぐ感じ取れます。会って得られる情報というのはものすごく多く、それは言葉にはならなくても、感覚的な確信をもたらすにはとても重要なのです。


とはいえもちろん、それは私の主観でしかないので、これだけで登っていないと公に決めつけることはできません。ただし、自分のなかでの評価としてはもう十分でした。「この人は自分で言っているような登山はしていない」と。


余談ですが、セミナー自体はよいものでした。ひとりに1台パソコンが用意されていて、実際に操作しながら解説を聞けるのでわかりやすく、自分的には得るもののあるセミナーでした。3時間みっちり、山写さんが全部自分で作ったという36ページのテキスト付き(パワーポイントのホチキス止めとかじゃなくて、ちゃんとオールカラー印刷してある冊子)。かなり力の入ったものであったことは付言しておきます。しかも参加費無料!




経歴を詐称していると個人的には確信したので、以降は関わり合いを持たないようにしていました。私が仕事上で付き合いのある会社や個人が山写さんとも付き合っていて、そういうのを横目で見ながら「大丈夫なのかな……」と思いつつも、部外者が口出しをするのも気が引けるので、あくまで横目で見るだけにとどめていました。


そういう期間が1年半ほど続いたのち、今年に入ってから「ちょっとこれはまずいかも」と思い始めました。


ひとつは、山写さんが活動の場を広げ、影響力を強めてきたこと。実体のない経歴を土台にした人が影響力を持つのは、どんな事情があったとしてもいいことではありません。


ふたつ目は、私が新たに連載を始めたYAMAP MAGAZINEで山写さんも連載を始めたこと。山写さんはかなりド派手な詐称をしていたので、バレるのは時間の問題だと思っていました。そんな地雷みたいな人が同じメディアで連載をしていれば、こちらも巻き添えを食うおそれがある。立ち上がったばかりのYAMAP MAGAZINEにとっては、時間を置くほど、嘘が爆発したときの痛手は深くなるだろう。


さらにこれ。


これからエベレストに挑戦しようとしている新進の山岳写真家に、ドヤ顔でエールを送っている。これはちょっと見ていられなかったな。


どういうつもりなのか知らないが、この上田さんという写真家に対してあまりにも失礼でしょう。他人の話題に乗っかって「サミッターのフォトグラファー」と言いたかっただけなんじゃないのか。


上田さんはアマダブラムやマナスルに登っている人。山写さんの怪しさには気付いていたと思うし、その人物から公の場でこうして先輩面でコメントされたときの感情を想像するとやるせないものがあります。




自分には関係ないし……と見過ごしてもいられなくなってきたなと考え始めたころ、山写さんのあるツイートが目に入りました。ネットの掲示板で誹謗中傷されているので訴訟を起こすというのです。検索してみると、5ちゃんねるのカメラカテゴリーにそのスレッドはありました。


中を見てみると、山写さんの経歴がおかしいという議論で燃えさかっていました。ああ、ついに地雷が爆発するときがきたのかな。


掲示板の指摘はかなり具体的なものもあって、訴訟を起こすと言っていたわりには第三者からしても山写さんに分が悪く見えました。そのうち山写さんのツイッターでも弱々しい発言が目立ってきました。しかし、経歴が虚偽なのかどうかについてはのらりくらりと明言を避け、一方で、5ちゃんねるで言われていることも匿名掲示板であるがゆえに決定的な説得力に欠け、白黒はっきりしないまま、議論はなんとなくフェードアウトしていきそうになっていました。


それまでずっとネット上の議論を見物していた私は、ここで我慢できなくなってつい口を出してしまいました。



ツイッター上で尋ねたのは、登山歴は山写さんが公に発表していることなので、その返答は公の場でしてもらう必要があると考えたからです。そして3山を登頂したかどうかについて尋ねたのは、はい/いいえで答えられるシンプルな質問にしたかったから。解釈の余地を残す複雑な質問をすると、あいまいな答で逃げられるからです。


回答はこの場で欲しかったのですが、DM(1対1のクローズドなメッセージ)で来ました。本人曰く、3山いずれも登頂していないということでした。その結果を私が公開したのがこれです。




そしてこちらは山写さん本人のツイート。




DMでは、登頂していないのならどこまで登ったのかとも聞きました。標高で答えてくれましたが、それは所属組織の守秘義務にあたるので公表しないでくれと言われたのでここには書きません。では所属組織の名前を教えてほしいとも聞きましたが、それも言えないとのことでした。


全然納得はできませんが、自称していた登山実績のうち最重要なものが虚偽であったことを証明できただけで十分なので、それ以上は突っ込みませんでした。


ひとつ私の印象を付け加えるならば。


答えてくれた最高到達高度もおそらく事実ではないでしょう。エベレスト、マカルー、カンチェンジュンガには行ってもいないと私は想像しています。仮に行っていたとしても、トレッキングで行ける範囲で山麓からの撮影にとどまっているはず。しかしその写真すら一枚も見たことがないのだから、そもそも行ったことがないと判断するのが常道というものだと思います。


これ以降、山写さんは1日に数十ツイートもしていたツイッターでぱったり口を閉ざしてしまいました。その間に5ちゃんねる上では、山写さんが過去に書いたブログなどが次々に発掘されて、登山実績のほかにも、自称していたさまざまな経歴が8割方虚偽であったことがほぼほぼ証明されてしまいました。


なんだか、かのショーンK事件を見ているようでしたが、ショーンK氏にしろ山写氏にしろ、なぜこんな危うい経歴で表舞台に出ていこうとしたのか、そこはまったくわかりません。


当初は軽い気持ちで盛って話していたことが意外に疑われることもなく、それに気をよくして次第にエスカレートしていくうちに自分でも整合性がとれなくなっていった……ということなのかとも想像しますが、本当のところはなにもわからないですね……。







最後に山写さんについて擁護もすると、基本的には能力のある人なんだと思います(他人に対して上から目線な言い方ですが)。セミナーが充実していたことは上に書きましたし、平湯温泉にいたころに乗鞍岳で登山道整備プロジェクトを仕切った実績も事実のようです。


そして私がブログやツイッターを見て驚いていたのは、経験がないはずのことをよくここまでリアルに書けるなということ。大ポカも随所にあったにせよ、先鋭登山やクライミングについてけっこう細かいことを正しく書いていたことも多かったのです。おそらく、想像力に長けた人なんだと思います。ライターや編集者にたまにいるのですが、あまり知らない分野のことでも、いくつか資料を読んだだけで、その世界の核心や微妙なニュアンスを正確につかめる勘のいい人がいるんです。山写さんにもその匂いを感じました。


あとは、たとえそれぞれがトップレベルではなくても、ウェブに強くて、写真が撮れて、登山のことをわかっている。この3つが揃っている人材は登山業界ではとても貴重です。その力は正しく発揮されれば、欲しがる会社はたくさんあるはず。おかしな嘘で台無しにしてしまうのはもったいないとも思っています。






*本論とは離れた部分で個人的な思いをあとがき的に書きました。

経歴詐称記事のあとがき的なもの