2018年4月3日火曜日

2017年に取材したクライマー15人

なんと4カ月ぶりのブログ更新。今年初の更新となってしまいました。あけましておめでとうございます。


年末にやっておこうと思っていながらのびのびになってしまって気になっていた企画がありまして、ようやくスキができたのでここで片付けておこうと思います。


2017年に取材させてもらったクライマー一覧。数えてみたら、1年間で15人(そのうち3人は2回)を取材していました。下は14歳から上は48歳まで(取材当時)。人工壁のスポーツクライマーからゴリゴリの岩場派まで多種多様。


クライマーの取材、いまいちばん楽しい仕事なのです。みんな「登りたい!」という純粋なモチベーションにあふれていて、そういう人に会うのは、こちらもすごい刺激になります。心が洗われるようです。


では、取材日順にいきましょう。




2月

伊藤ふたば



1月に行なわれたボルダリング・ジャパンカップで、野口啓代・野中生萌の2大巨頭を抑えて優勝し、2017年いっきに注目が集まった14歳。


この1年前にも取材させてもらっていたのだけど、そのときとは環境が激変。地元盛岡の山岳協会が取材を取り仕切るようになり、単独取材は許可が出ず、テレビや新聞などの記者が多数集まるなかでの合同取材でした。



この写真がいちばん現場の雰囲気を示してるかな。四方から無言でカメラを向けてくる無数の報道カメラマンに加えて、記者はというと、「好きな食べ物はなんですか」みたいな質問ばかり。クライミングに大して興味もないのに大人の事情で取材を続ける報道陣に囲まれて、ひとり置いてきぼりのような14歳の女の子。


これがオリンピックのホープの定めとはいえ、あんまりかわいそうに思えて、くだらない雑談含めて意識的に声をかけてあげるようにしていました。あれから1年。もうこういう状況には慣れたかもしれないけど、負けるな、ふたばちゃん!


記事はこれに






大場美和





こういう動画とか


「ファイト不発」のCMとか



で有名になった、19歳のユースクライマー。動画のイメージどおり、おっとりぽわんとした女性でした。取材は彼女がホームとしている横浜のクライミングジム、プロジェクトで。じつはここ、のちほど出てくる小山田大さんのジム。ほわっとした10代の女性と、世界最強ボルダラーの組み合わせは意外に思えましたが、行ってみて納得しました。


大場さんは小学生だか中学生だかのころに、地元のジムに来た小山田さんに接して、人柄に自分と通じるものを感じたそうです。小山田さんは、パブリックなイメージはストイックで気難しそうですが、素顔は子どものように無邪気な人物。その裏表のないところに惹かれて、進学先を決めるときにプロジェクトに近い大学を選んだということでした。


2016年は、コンペの成績に伸び悩んでいたようでしたが、秋に小山田さんに誘われてドイツの岩場ツアーに行き、岩場に新たな楽しみを見出したそうです。


小山田さん自身が、コンペから岩場に転身してクライマーとして開花した人物。スポーツ化が進む現在のクライミングは、競技者としていったん壁に当たると袋小路に入ってしまいがちですが、本来クライミングは多様なベクトルをもったもの。それを身をもって知る師匠に恵まれたのは、大場さんの大きな財産のように思えました。


記事はこちらで読めます(要PDFダウンロード)




村井隆一



外岩の若き刺客。「小山田大を超えるのはこいつだ」とささやかれるほどの才能。大学を卒業し、アルバイトしていたジムAPEXに春から就職するタイミングでの取材になりました。


2016年に岩場での大活躍で注目された村井さんですが、『インドアボルダリングブック』という本の取材だったので、聞く内容はジムのこと。ええ~、いま村井隆一を取材するなら岩場のこと聞かないとヘンでしょ~と思ったのですが、担当編集部員Nが村井さんのファンで、ぜひ登場させたいというのでジムのことを聞いてきました。村井さん初対面だったのですが、クレバーな人で、本の趣旨を理解してちゃんと意味あること語ってくれました。


村井さん、近ごろは岩場での活躍が圧倒的に目立っていましたが、もともと競技クライミングのナショナルチームの一員でもあります。今年2月には、久しぶりにコンペの場でも爆発。ボルダリング・ジャパンカップで楢崎智亜さんをも抑えて2位に入りました。やはり才能は底知れないです。




小山田 大



泣く子も黙る最強ボルダラー。国内外で初登した課題の難しさは他の追随を許さず、40歳となっても日本のボルダリング界に君臨しています。


この岩場の申し子になぜか、ジムのことを聞いてきました。理由は、これまた編集部の希望によるもの。ビッグネームを登場させたいという気持ちはわかるが、企画内容との相性というものもあるだろ~と思いつつ取材。が、岩場の申し子とはいえ、ジムの経営者でもあり、人工壁でクライミングを覚えた第一世代ということもあり、普段とは違った角度でいろいろ面白い話が聞けました。




室井登喜男




なんでこの人をインドアボルダリングムックで?3連発の3人目は、なんと室井登喜男。日本の岩場ボルダリングを現在のかたちに作りあげた人物といっても過言ではありません。


いま日本を代表するエリアのひとつになっている御岳は、この人が自費出版で作ったルート図集をきっかけに、人気エリアとなりました。もうひとつの一大エリア、瑞牆に至っては、訪れる人などだれもいなかった時代に、ひとりでコツコツと通って1000本以上の課題を初登することで現在の姿になったのであります。まさに伝説の男。


そんな男にジムのことを聞くのは気が引けましたが、素顔の室井さんって、やたら腰が低く、柔軟な人なんですよ(体も異常にやわらかい)。「岩場にはジムにない魅力があるし、ジムには岩場では体験できないおもしろさがある」という言葉が印象的でした。




3月

渡辺沙亜里



いまコンペで、いちばん”魅せる”クライミングをしてくれる女性クライマーはこの人でしょう。ガッツあふれる登りは思わず応援したくなります。天才少女として騒がれ、23歳で結婚・出産、25歳で再びコンペの第一線に戻ってきたという、激動のクライミング人生。


子どもをもつ身でありながら、アスリートとしても活躍する日々について、福岡まで行って聞いてきました。夫はこれまた有名強強クライマーの渡辺数馬さん。福岡でジップロックというジムを夫婦でやっています。



伊藤・村井・小山田・室井・渡辺さんの記事はこちらに収録






4月

倉上慶大



いまいちばんヤバい男。ただでさえ危険なことで名高い湯川の「白髪鬼」(5.13d R)というルートを、ソロで登る!(ロープは使用)ので写真撮ってほしいと頼まれて行ってきました。


これは何かの取材というわけではなくプライベート。しかしルートがルートだけに、こちらも気合と細心の注意をもって臨みました。結果は目を覆いたくなるようなグラウンドフォール。カムが3本くらい吹っ飛びました。


幸い足首のねんざだけですみ、2週間後くらいに早くも再トライして、白髪鬼のダイレクトフィニッシュとなる「燈明」(5.13d/14a R)というラインまで完成させてしまいました(このときは私は不在)。


倉上さんはヤバいクライマーとして知られていますが、素顔はきわめて常識人かつ、絵に描いたような好青年で愛すべき男。ところが自身でも制御不能なほどのモチベーションモンスターで、やりたいプロジェクトがまだまだいくつもあるそうです。大ケガだけはしないようにと見守るのみです。


この雑誌にこのときの写真が使われています。


それからアメリカのクライミングメディア「Alpinist」のウェブに記事が出ました。Alpinistといえば、世界でもっとも格調高いクライミング雑誌。ここに自分の名前が載ったというのは感激。倉上さんのおかげです。ありがとう。




澤田 実



アルパインクライマーであり山岳ガイド。澤田さんが使っているグレゴリーザックの広告企画として記事を書かせてもらいました。


澤田さんは私と同年代で、北海道大学探検部出身。同じく大学探検部出身の私は一方的に親近感を抱いておりました。探検部出身の登山家やクライマーはなんとなく共通した雰囲気があるような気がします。ひとことでいえば自由。それが悪いほうに出ると私や角幡唯介のようになり、いいほうに出ると澤田さんのようなキャラクターになるようです。


ところでこの記事、ちょっとした手違いがあり、一度完成していながらお蔵入りになってしまった別バージョンがあります。自分的にはそちらのほうが気に入っていたので、機会があれば公開したい。小川山レイバックギター初登(=ギターを背負っての初登。ついでに中間のレッジで尾崎豊を熱唱)の話も出てきますよ。


記事はこちらです。





5月

今泉結太



自分としても毎回楽しみな『Guddei research』(好日山荘情報誌)での次世代クライマーの連載。八王子で行なわれたワールドカップに16歳という男子最年少で出場した今泉結太くんを取材しました。ヤンチャな「ザ・男子高校生」という感じでしたが、なかなかイケメンで、侍ギタリストのMIYAVIになんか似てるなと思いました。


ところで今泉くん、基本は競技クライマーなのですが、将来的には岩場指向とのこと。彼のSNSも、最近はすっかり岩場の話が中心。次に出てくる青木達哉さんがクライミング師匠で、「ティミー、ティミー(青木さんの愛称)」とタメ口で慕う青木さんにくっついて、岩場によく行っているそうです。


世界的なアルピニストのいるジムなんてそうはなく、恵まれているといえるでしょう。どういうジムで育つかというのは、クライマーとしてのその後を大きく左右するのだなあとも感じました。


記事はこちらで読めます(要PDFダウンロード)




青木達哉



今泉くんの翌週に小川山で取材させてもらったのが、今泉くんのクライミング師匠、青木達哉さん。K2の日本人最年少登頂者、ピオレドール受賞者、つくばスポーレの店長など、さまざまな肩書きをもつクライマーです。


これはマムートの広告記事だったのですが、取材はマラ岩「ペタシマン」(5.13c)で本気トライ。登れませんでしたが、いいものを見せてもらいました。近ごろクライマー取材は自分で写真も撮ることが多いのですが、この取材では私はビレイ役。撮影は、スーパーアルパインクライマーとしても知られる高柳傑さんでした。


記事はこちらに





小山田大



再び小山田さんであります。今度は本業というべき岩場の話を聞きに行ってきました。取材地は、小山田さんがエリア開拓に中心的にかかわった、岐阜の笠置山。かなり暖かくて、本気で登るにはもう暑すぎるという時期でしたが、エリア整備作業のかたわら、現地の東屋でのんびりと話を聞きました。


「ぼくスポーツきらいなんですよ」という言葉が印象的で、この人は本当にスポーツマンではなくアーティスト気質の人なんだなという思いを強くしました。こういう人がトップに立っているというのが、クライミングというものの面白さや豊かさを現しているようにも思うのです。




6月

安間佐千



2012年・2013年とワールドカップ連覇を果たした「世界のサチ」。2015年ごろから活動の場を完全に岩場に移しています。あれほど実績を残した競技をすっぱりやめたのはなぜか、そして岩場の魅力はなんなのかということを聞きました。


ハイボルダーに興味があるという意外な話も聞けましたが、このときはどうも方向性に迷っているようにも見えました。が、その後、年末から今年にかけて、5.15a、5.15bと国内最難グレードを相次いで更新。新たな目標を見出して、最近はまたノリノリに見えます。


ところでこの取材、奥多摩の大沢ボルダーで行なったのですが、本当は瑞牆山でやる予定だったのです。


朝、瑞牆で集合して、さあ行こうかというときに、安間さんが「ああっ!!」と絶叫。なにかと思ったら、シューズを家に置き忘れてきたとのこと。なにか手立てはないか、いろいろ考えましたが、結局シューズを取りに帰るほかないという結論になり、そこから時間的に転戦できる場として、大沢ボルダーになったというわけです。次の村井さんも瑞牆だったので、エリアがかぶらずにすみ、結果的にはむしろラッキーでありました。


撮影は、photo山さんこと山本浩明さん。10年以上前からお世話になっているボルダリング写真の巨匠です。




村井隆一



そしてこれもまた二度目の村井隆一さん。瑞牆山で、フォトセッション的な取材をさせてもらいました。撮影は、初めて組むカメラマンの茂田羽生さん。


村井さんが取り組んでいる「Decided」という激ハード課題から、「インドラ」などの有名課題で撮影。茂田さん、クライミング撮影は経験がないと言ってましたが、インドラの写真などはかなり印象的に仕上がっています。


しかしこの取材、今度は私が大寝坊。村井さんと茂田さんを数時間も待たせてしまいました。取材に寝坊したなど近年記憶になく、すっかり油断していました。以来、それまで寝るときには仕事部屋に置いたままにしていた携帯電話は、枕元に置くようになりました。村井さんと茂田さん、その節はすみませんでした。


小山田・安間・村井さんの記事はこちらに収録。
どれも4~6ページあるので、読み応えあります。





8月

中嶋徹×橋本今史




アメリカ・ビショップにある「Lucid Dreaming」という激ムズ課題に、2年間通い続けて成功した中島徹さんと、その一部始終をムービー作品に仕上げた橋本今史さんの対談原稿を作りました。


詳細はリンク先を見てほしいのですが、原稿作成時に発見したことがひとつ。中島さんは声の通りがよく、話し方も論理的な一方、橋本さんはなんだかふにゃふにゃしています。だから対談を聞いていたときは、圧倒的に中島さんの発言が記憶に残ったのですが、文字に起こしてみると、説得力抜群に聞こえた中島さんの発言が思ったより内容が薄かったり、逆に、橋本さんがじつは深いことを言っていたりしたことを発見しました。同じ内容でも、しゃべるのと文字にするのでは、受け取り方が驚くほど変わるということにあらためて気づいた取材でした。


対談はこちら。SPECIAL TALK SESSIONというページに対談は収録されています。




原田 海




現在、世界最高の選手層の厚さを誇り、世界で勝つより日本で勝つほうが難しいといえるほどの男子ボルダリング界で、つい最近もオリンピック強化選手枠を勝ち取った19歳(取材時は18歳)。ルックスはなんだかチャラそうなのですが、実際に会ってみると、伏し目がちでおとなしく真面目そう。中身と見た目にギャップがあるタイプでした。


驚いたのは、4年くらい前までコンペの存在も海外の有名クライマーなどの名も知らなかったということ。外の情報をほとんど知らないままに、地元のジムでひたすらクライミングしていただけというのです。初めてのコンペが初リードだった(しかもそれで国体入賞)というのも驚き。


記事はこちら



11月

小島果琳



岐阜に住む16歳。小学生時代にコンペで圧勝する姿を見たことがあり、そのときから注目していました。


4年ぶりに会いましたが、クライマーとしての成長、人としての成長など、とても考えさせられ、思いのほか深い取材になりました。記事を読んだお父様から、娘に対する思いあふれる、じーんとくる言葉をいただいたことも感激的でした。ホームジムの「グッぼる」もとてもいいジムだと思いました。あたたかく支えてくれる人は宝ですね。がんばれカリンちゃん。応援してますよ。


記事はこちらからPDF版が購入できるほか、好日山荘各店で冊子が購入できます。




12月

中嶋 徹



そして再び中嶋さん。Lucid Dreaming成功へのメンタルについて詳しく聞きました。メンタルという言葉にしにくいものを、めちゃくちゃわかりやすくしゃべってくれました。もう、すばらしいのひとことです。中嶋徹最高。クライマーにとって大いにヒントとなる金言がつまったインタビューになりました。この記事は必読かと思います。


取材は、京都大学のクライミングウォール(通称京大ウォール)で。有名な吉田寮の横にあり、この吉田寮がまたインパクト絶大。日本とは思えない風景です。記事冒頭の写真もここで撮りました。


記事はこちらに








以上が2017年に取材させてもらった人たちです。


2018年の今年も、すでにふたりを取材済み。ひとりはこの人。


高校生クライマーの土肥圭太くん。この写真、カッコいいでしょ!? 近年一の自信作。土肥くん自身もかなりイケメンであり、人気が出そうです。つい最近、オリンピック強化選手枠にも滑り込みました。自信なさげなことを言っていながら、結果的にはデカいことをやってのける。記事で書いたことそのままを早くも地で行ってます。4月10日に好日山荘で発売開始の『Guddei research』に記事は載っています。




もうひとりは、なんとこの人であります。


驚異のフリーソロイスト、ヨセミテのエルキャピタンをボルダリングした男(実際に、「エルキャピタンは1000mのV7だね」と言ってました)、アレックス・オノルド。つい最近取材したばっかり。6月発売の『ROCK & SNOW』にがっつり記事が載るほか、PEAKSとかにもニュース的な記事が出る予定。ご期待ください。私も楽しみ。


2017年11月27日月曜日

The World's Best Belayer





ザ・ワールズ・ベスト・ビレイヤー(世界最高のビレイヤー)


クライミングギアメーカーのペツルが作ったバカ動画です。Ray Verseau(レイ・ベルソー? ルベルソをもじった名前と思われます)という、世界最高のビレイ技術を持った男を紹介するというもの。


デイブ・グラハムとかクリス・シャーマとか、世界のクライミングスターが多数出てきて、「ヤツは最高だよ」などと語ります。どんな墜落も止めてしまう技術があるうえに、ヘルメットのバイザーにモニター的なものが仕込まれていて、落下距離やグラウンドフォールの確率などを瞬時に映し出してくれるという、スゴいギアも持っています。もちろん全部ジョークです。


笑いどころはたくさんあるのですが、個人的にツボだったのは、ゴルゴ13のようなアタッシュケースに愛用のデバイスがずらりと収められているところや、早撃ちガンマンのようにグリグリをカシャーンとセットするところ、そして、終盤、ニール・グレシャムが「彼は最高なんだが、問題はギャラが高いことだ」などと大真面目な顔で語っているあたり。


バカだな~と笑って見ていただければそれでOKという動画ですが、終盤、なんと私がチラッと登場しています。9分11秒くらいのところ。1月にグリグリ+のメディアツアーで行ったバルセロナのクリス・シャーマ・ジムで撮影されました。カメラマンとRay(本名Jean Siuen)が近寄ってきて、「Jeanを映画スターかなんかと思って、ミーハーにセルフィーでもやってくれないか」と言うのです。そのあと、カメラに向かって、「私はこの映像を使用することを許可します」みたいなことを言わされました。こんな動画になるとは知らなかったなあ~。面白いから全然OKですが。


それにしても、こんなアホなことにこんな時間と労力をかける欧米人のお笑い精神、私は大好きであります。第3弾も期待しております。


ちなみに、元ネタというか、ペツルのバカビレイ動画の第1弾はこちら。これは逆に「ワースト・ビレイヤー」。お笑いなんですが、ビレイ技術の教材としても使えます。これも面白いですよ。






2017年11月22日水曜日

「校正」と「確認」は違うぜよ

【メディア業界の専門的な話です】

最近、というかここ7~8年くらい、「校正確認」という言葉を見聞きする機会が増えました。記事を作る際に協力してもらった人や企業・団体などに、内容に問題がないか確認してもらう作業のことを指しています。しかしこの言葉、違和感がありまして、個人的には使わないようにしています。


なぜかというと。


「校正」というのは、誤字や脱字など、文章上のミスを正す作業を指します。「生年月日が違ってます」とか「価格が間違ってます」とか「こんなこと言ってません」とか、そういう事実を正す作業は、「校正」ではなく、たんなる「確認」であるからです。


ところが、だれが言い始めたのか、私の周りでは日常的に聞きます。編集者などに「校正確認すんでますか」と聞かれるたびに、「ええ、『確認』ずみです」などと、意地を張って校正という言葉を使わないようにしたりしているのですが、あまりの多さに面倒で流すときもあります。


そんな細かい言葉の問題にこだわらなくてもいいのかもしれないけれど、こだわりたい理由があります。それは、「校正確認お願いします」と頼むと、「えっ、あんたが書いた文章のミスをおれが正さなきゃいけないの?」と受け取る人がいるから。「そんなやついないよ」と思う人は、日常的に校正という言葉を使っていて、校正という言葉に対する感覚が麻痺しているのでしょう。普通の人は日常で校正なんて言葉は滅多に使わないので、「校正お願いします」と言われたら、辞書どおりの意味にとってしまうものです。


だから、「校正確認」やめようぜ、という話でした。「校正確認撲滅委員会」でも立ち上げようかな。同志募集。


*これ、もしかしたら私の周りだけで起こっている事象かもしれません。同じ出版・メディア業界でも、私の付き合いのないところでは「なんじゃそりゃ、そんな変な言い方しないよ」というところが大半という可能性もあります。



2017年11月19日日曜日

富士山にヘルメットって必要なんだろうか

富士登山、頭は守れるか


こういう記事を読んだ。要するに、富士山でヘルメット普及活動が進んでいるが、登山者の利用はかんばしくないという内容。


ここ数年、富士山でやけにヘルメットがアツく語られているけれど、個人的には疑問に感じています。富士山にヘルメットって必要なんだろうか?と。


そりゃもちろん、かぶることによって安全性が高まることは間違いないけれど、それは100あるリスクを98に減らすようなものであって、その一方で犠牲にするものが大きすぎるように思うのです。もしかしたら、ケガのリスクは2減っても、熱中症になるリスクが10ぐらい増えて、トータルではかえってリスクを抱え込む結果になるんじゃないかと思えるほど、得られるメリットは薄い。


富士山でヘルメットの着用が声高に叫ばれるようになったのは、2014年の御嶽山の噴火事故以後のこと。確かに御嶽の噴火のときは、ヘルメットの有無が生死を分けることもあったようです。ただ、ああいう噴火事故は非常にレアなケースであって、それへの備えとして新たに道具を用意するというのは現実的な選択とは思えません(富士山の噴火可能性が有意に高まっているという事実があるなら、話はまったく別ですが)


落石や滑落に備えてかぶりましょうというのならまだわかるけれど、いったい富士山で、頭部に致命的なダメージを負った事故ってどれくらいあるんでしょうか。ここの検証は、少なくとも私は見たことがありません。上の記事にも「山梨県警によると、今年7~8月の遭難者のうち約6割が転落や滑落、転倒による事故だった」と思わせぶりな記述があるだけで、それとヘルメットとの関係性はぼんやりとスルーされています。


自分の経験からすると、富士山でヘルメットっていらないと思うし、仮に必要なんだとしたら、日本の多くの山でも同じようにヘルメットが必要になってしまう。


記事では、登山者がヘルメットをかぶらない理由として、「夏場で暑いからか、ファッション性がないからか、他にかぶっている人が少ないからか」という、地元職員のコメントを紹介していますが、全部そのとおりだと思います。


もうひとつ重要なのは値段。登山用のヘルメットは1万円前後もして高いのです。近ごろは軽量化と通気性アップとデザイン性アップが進んで、かぶっていてもストレスを感じないものが増えましたが、そういうものこそ高い。ホームセンターで売っている安全帽(いわゆるドカヘル)なら1000円くらいで買えるものもありますが、それはかぶり心地悪いし、重いし、蒸れるし、なにより、あまりにもカッコ悪い(安全帽屋さんすみません)。


要するに、富士山でヘルメットをかぶるという行為は、コストパフォーマンスが低すぎると思うわけです。安全性をコストパフォーマンスで語るのはいいことではないけれど、低いリスクに備えるためにほかのすべてを犠牲にしてもいいというものでもないでしょう。そのへんの現実を無視した施策は、あまりいい結果を生まないと思うんですよね。

【補足】
ここでいう「コスト」とはお金のことばかりではないです。「ヘルメットを導入することで負わなければならないマイナス要因すべて」です。装備の重量増もそうだし、快適性低下、ファッション性低下もすべて含んでいます。




ヘルメットについてちょろっと調べていたら、こんなものを発見しました。この値段ならギリ許容範囲(しかもサングラス付き!)。クライミングで使わないなら、自転車用ヘルメットは通気性が高くて軽くて、夏山登山用ヘルメットとしてはじつはかなり快適なのです。ドカヘルみたいなものかぶるよりは断然おすすめです。





2017年10月23日月曜日

もはや「地図読み」は終わった技術なのかもしれない

先日、越後駒ヶ岳に登ってきました。持っていった地図は、『山と高原地図』の電子版。スマホで見るやつです。1枚500円と安いことと(紙版の半額)、山行前夜でも買える便利さなどから、最近はもっぱらこれを利用しています(プラス、国土地理院サイトからプリントした地形図を持つのが最近の自分的定番)。


現場でそれを見ていたときに、いっしょに行った人と話したんですが、もしかして、「もう地図読みって、大多数の人には不要な技術になったんじゃないのか?」


なにしろ、スマホの画面はこれなわけです。

「コレ」で示した青いマークが現在地表示(ちなみに上下がオレンジ色なのは、電池残量が少ないことの警告です。やばいやばい笑)


もうこれを見たら、現在地は一撃でわかるわけです。地図が読めなかろうが、どんなにどんくさいヤツだろうが、これなら間違えようがない。しかも現在のGPSは精度が高く、ほとんどズレがない。地形図とコンパスを使って現在地を割り出すよりよほど正確なのです。


かつて、ガーミン等のGPS受信機が登場し始めたころは(20年近く前)、画面には北緯や東経の数字が表示されるだけで、普通の人が使いこなせるものではとてもありませんでした。地図が表示されるようになってからはだいぶ使いやすくなりましたが、価格が5万円前後かそれ以上、それに地図ソフトがまた高価で、普通の登山者にすすめられるものではありませんでした。だから私も、地図読み技術はまだ重要だと思っていました。


ところが、いまは『山と高原地図』以外にも、山で使えるスマホ地図アプリがたくさんあります。これらはアプリも地図データも無料かあるいは安価。測位精度もいまや専用受信機と変わらず。画面表示は専用受信機より数段きれいで見やすい。操作は手慣れたフリックやピンチで可能。数年前までは、インターフェースがわかりにくいものが多かったのですが、だいぶ洗練されてきました。となると、使わない手はないんじゃないのかと。


登山雑誌では、地図読み特集というのは鉄板企画で、これをやると売上がだいたい伸びます。それくらい多くの人が地図を読めるようになりたいと思っているわけですよね。ところが、地図読みというのはなかなか難しい技術で、そうそう一朝一夕には身につきません。ましてや本を読んだだけでわかるものでもないのです。ならば、スマホ一発で解決してしまうほうが話が早いし、求める結果(道迷いの防止)を得られるのではないか。それがもうだれにでも可能な時代になったのではないか。




きょうフェイスブックでたまたま見かけた投稿に、こんなのがありました。書いているのは、「ジオグラフィカ」というGPSアプリの開発元なのですが、書いてあることはほぼ全面的に同意です。




「読図にとってGPSは入口であり先生であり、アドバイザーです」

「(スマホGPSは山でも)普通に使えます。圏外でも機内モードでも使えます。谷間でも(機種による差はあるけど)測位します」

「読図は普通、手段であり目的ではありません。読図が目的の登山があってもいいでしょうが、そうでない登山もあります」

「測位衛星が何十機と飛んでいる現代において、山岳遭難の4割が道迷い遭難だなんてどうかしてます」


――おっしゃるとおりかと。




念のため書いておくと、私自身は読図が大好きで大得意であります。地図を駆使して道なき山にルートを見出し進んでいく登山が大好きです。あらゆる登山ジャンルのなかで、これがいちばん得意といってもよいほどです。微妙な起伏と地図の等高線を読み取り、コンパスが指す方角、目の前の植生、経験によるカンなども組み合わせて、難しいセクションをクリアしたときなど、よっしゃー!!と叫びたくなります。


私が大事にしてきた、そういう登山の楽しみが、スマホ一発で無意味になってしまうのは、味気なくもあり、寂しい思いもします。


ただしそういう楽しみは、いまや一部のマニア(私など)や、一部の特殊用途を必要とする人のための技術になり、大多数の人にとっては基本的に不要なものになりつつある。昔のカメラはピントや露出などの知識がないとまともに写らなかったけれど、いまは全自動でだれもが一定のクオリティの写真を撮れる。スマホで写真を撮っている人に「露出とピントを自分で決められなければ写真とはいえない」と言うのがナンセンスであるように、「地図読みの技術は登山に必須だ」という常識も時代の遺物になりつつあるのではないか。


だからもしかしたら、登山雑誌も「地図読み特集」はもうやめて、「スマホアプリ徹底使いこなし術」を特集したほうが役に立つのではなかろうか。越後駒であらためてそんなことを思ったのでした。