2016年1月17日日曜日

登山は、数ある選択肢の中から最良のものを選び出せるかどうか

『岳人』を読んでいたら、いい言葉があったのでメモ。

結局登山は、体が動くかどうか以前に、数ある選択肢の中から、最良のものを的確に選び出せるかどうかである。(中略)選択肢がたくさんあって、どれを選んでも問題のない山は、簡単な山。的確に選択できれば問題ない山が、中級の山。唯一の選択肢すら多少のリスクを含んでいるのが、難しい山、ということになるのだろうか。
(2015年10月号「今夜も焚き火を見つめながら」服部文祥)

つい最近、雑誌に「登山の実力を決めるのは、体力・技術・判断力の3要素」というようなことを書いたばかりなので、かなりピンときました。
服部さんは判断力のことを言っているのだけど、これが第一であることは、そのとおりだよね。
でもガイドブックのグレード表記には、体力と技術の指標は書いてあっても判断力の指標は書いていない。
そこがいちばん重要なんだけど、数値化はしにくいからなあ。


私もずっと同じように考えていたのだけど、
最近、やっぱり体力も重要だと思うようにもなりました。
体力がないと、正しい判断ができなくなる。
体が疲れると、考える能力が奪われるわけです。
登山経験が豊富なベテランが遭難するときは、こういうことなんじゃないでしょうか。


40代になってから、体力とは意識的に維持しないと衰えていくのだということを身をもって知りました。
判断力はあるつもりなんだけど、疲れてそれを生かせないような経験も何度かしたので、今年は体力増強をテーマにやっていきたいと思っています。

2016年1月15日金曜日

「ウエリ・シュテック」は間違いだったぜ!



現代最強のアルパインクライマー——といってほぼ間違いない、スイスのウエリ・シュテック。
きょう、思わぬところで会うことができました。
マウンテンハードウェアの展示会に行ったところ、ゲストとして来ていたのです。
知らなかったので、ちょっと得した気分。


動画は、昨年秋にアイガー北壁のスピード記録を打ち立てたときのもの。
標高差1800mの北壁を2時間22分50秒で登っています。


アイガー北壁って、ヨーロッパアルプス三大北壁のなかでもいちばん難しいといわれていて、通常は2日かかるというところ。「通常」っていったって、日本の通常の登山者じゃ登れないですよ。かなり力のあるアルパインクライマーじゃないと無理です。しかもそれでも2日です。


動画を見ればびっくりなんだけど、シュテックは空身に近いような格好で、ロープを使わずに、「走るように」登ってます。
もう意味がわかりません。
普通の登山道だって、一般的な登山者が1800m登るとしたら、5〜6時間はかかるんですよ!
雪の付いた岩壁を2時間22分って……。


「ロープは使わないの?」
と聞いたら、
「持ってない。オールフリーソロ」
ということでした。
私がやったら確実に自殺ものですな……。


展示会では、シュテックが完全監修したウエアが展示されていました。
本人からいろいろ細かい部分も説明してもらって、実際、これがさすがによく作り込まれているんですが、悪いけど絶対に売れないだろうな。
なんというか、F1カーをそのまま市販してしまっているような製品で、これが必要な人って日本に50人くらいしかいないと思うんですよ。


マウンテンハードウェアって、こういうトンガった製品のエッジを丸めずにそのまま出してくる、ビッグブランドらしからぬやんちゃなところがあるのです。
私も、ティム・エメットというクライマーが監修したミクサクションジャケットという画期的なアウターシェルを愛用していて大変気に入っているのですが、これも1年でなくなってしまいました(売れなかったんだろうな)。


あ、それよりもシュテック。
重要なことを聞きました。
これまで、ROCK & SNOW時代から、雑誌では彼の名前を「ウエリ・シュテック」と表記していたのですが、マウンテンハードウェアの資料では「ウーリー・ステック」となっています。
綴りUeli Steckからするとウエリ〜のほうが正しいように思えるんだけど、ずっと気になっていたので、この機会に本人に直接聞いてみました。
すると、「ウーリー」ということでした。
「eは発音しないの?」と聞いたら、「そう」と言っていたので、明らかに「ウエリ」ではないですね。


外国の言葉をどう表記するかについては、以前のエントリーでいろいろ理屈をこねましたが、人名については本人がいうことが絶対です。
だから本日以降、彼の名前を表記するときは「ウーリー・ステック」に変えることにしました。
これまで「ウエリ」と書いていた人、みんなよろしく!