2019年3月19日火曜日

連載「山岳スーパースター列伝」最終回



雑誌『PEAKS』でやっていた人気連載「山岳スーパースター列伝」が、15日発売の4月号で終了しました。記事冒頭にも書きましたが、終了の理由はネタ切れ。もう紹介できる人がいなくなってしまったというわけです。


連載が始まったのは2013年5月号なので、まる6年間やっていたことになります。フリーになったばかりのころに始まった連載であり、初代の担当編集は、その数カ月前まで私の部下だった臺代裕夢という男でした(こやつ、つい最近、小学館ライトノベル大賞という文学賞で優秀賞を受賞しました!)。「山岳スーパースター列伝」という軽薄なタイトルは編集部がつけたものであり、私ではないのでよろしくお願いします。


連載では1回の休載をはさんで、計71人の登山史上の偉人について書き続けてきました。1回が約1700字あるので、計約12万字。おお~。われながらよく書いたな~。


書くにあたって毎回念頭においていたのは、読者に、偉人の実績よりも人物に興味をもってもらうようにすること。そのために、ダメなところを含めて人間くさいエピソードをできるだけ盛り込むようにしていました。だってすごい実績を教科書的に羅列したところで面白くないですからね。読者の記憶に残らなければ連載の価値はないと思って毎月書いていました。


そのため、71人の人選はそれなりに偏っています。人間くさい面を書こうとすると、私がなんらかの思い入れがある人しか書けないわけです。連載のテーマからすると、エベレスト初登頂者のヒラリーやテンジンなども出てきておかしくないわけですが、結局登場していません。シェルパ枠からは代わりにバブ・チリなんてマニアックな人を登場させたりしていました。


ところで、この連載のもうひとつの主役といっていい存在が、綿谷寛画伯によるイラストです。


画伯は登山をやる人ではありません。なので、連載開始当初は、人物の写真やら道具の説明やら、いろいろ資料をそろえて渡し、どんなイラストを描けば人物のイメージに合うか細かく指示していました。


が、画伯はその指示をことごとく無視して独自のイラストを仕上げてきます。ところがそれが、私がイメージしていたものよりもはるかによいのです。なので私はそのうち、人物の顔写真数枚と、どんな人なのかの簡単な説明1行くらい渡すだけになりました。あとは画伯におまかせしたほうがいいものになるという判断です。


それでも登山を知らないはずの画伯が、しかもイラストと原稿は同時進行だったので本文を読んでいるわけでもないのに、なぜこんなズバリのイメージを描くことができるのか、毎回本当に不思議でした。


最近のいちばんの傑作は、2019年3月号で岩崎元郎さんを取り上げたとき。岩崎さんの背後に「岩崎さ~ん」と呼びかけるハイカーが描かれておりました。こんな小細工、私は指示してませんよ! でも、中高年登山者に絶大な人気を誇った岩崎さんを表現するに、これ以上効果的な描き込みがあるでしょうか!? 画伯はどこでこんな絶妙なニュアンスを知ったのか……。




画伯はもともと『POPEYE』や『MEN'S CLUB』などで活躍していたファッションイラストの巨匠。そのイラストは、だれもが一度は見たことがあるんじゃないかと思います。本来、画伯、画伯となれなれしく呼べる存在ではありません。が、本人のメールアドレスからしてwatatani-gahaku@~なので、もういいんじゃないか(笑)。ということで、編集部との内輪ではつねに「画伯」と呼ばせていただいておりました。


綿谷画伯に描いていただいたおかげで、連載はぐっと格調高いものになったと思っております。画伯こそ真のプロ。そんな尊敬できるイラストレーターとコンビを組ませていただけたことは私の誇りであり、感謝のひと言であります。もう、71枚のイラストだけをまとめて画集を作りたいくらいです。


読者のみなさんもぜひ、画伯のイラストに注目して連載ページを見返してみてください。6年間ありがとうございました。




2019年3月3日日曜日

「私にも登れますか」には答えられません




昔、山と溪谷編集部にいたころに、こういう問い合わせの電話をよく受けた。


「私にも○○山は登れますか」


これは絶対に答えられない質問なんですよ。だって、登れるか登れないかというのは、人によって大きく変わってしまうから。電話をかけてきているのが登山経験豊富な人である場合と初心者とでは、答は180度変わってしまうこともあるわけです。


「140kmのスライダーは私にも打てますか」と聞かれたら、相手がプロ野球選手なら「打てるんじゃないでしょうか」と答えるだろうし、野球素人なら「無理だと思いますよ」と答えますよね。それと同じことなのです。


もちろん、だからといって「わかりません」とひと言で切って捨てるのではなく、電話をかけてきた人の登山経験を聞いたりして、可能性を探る会話はするわけですが、いずれにしろ最終的に結論を提示することはありません。そこで安易に「登れると思いますよ」とか「無理でしょうね」とか言ってしまうほうが、むしろ無責任かと思うのです。


だから七ツ石小屋のケースも、問い合わせをするなら、こう聞くべきなのであります。


× 「アイゼンないけど今週末なら登れますか」

○ 「いま登山道に積雪ありますか」


登れるか登れないかの判断はできないけれど、積雪があるかどうかは客観的事実なので答えられる。その事実をもとに行けるかどうかを判断するのはあくまで本人。というか、本人あるいは近しい人にしかその判断はできない。


がしかし、客観的事実から登れるかどうかを判断できる人は、そもそもこういう質問をしないだろうという矛盾にいま気づきました。ならば百歩譲ってこう聞いてほしい。


「雪山経験○回で、これまで××山とか△△山などに登りました。それくらいの経験で今週末七ツ石山に登ることについてどう思われますか?」


これならば、質問というより相談といった類のことになるので、もう少し実のあることを答えられる余地はあります。


とはいえ、山小屋や雑誌編集部、山岳ガイドなどは発言に責任が伴う立場なので、会ったこともない人に対して確定的なことは言わないし言えません。そこはやっぱりお忘れなくとしかいいようがないモヤモヤした結論になってしまいましたがよろしくお願いします。