2023年3月22日水曜日

ニトリの3000円のテントで雪山登山してみた

ニトリがなんと約3000円という破格のテントを販売しています。


1~2人用テント(HC)


近ごろはAmazonなどで中国製の格安テントが多く販売されていますが、それでも6000~7000円くらいはします。約3000円というのはさすがに聞いたことがない。



これを見つけた知人がこうツイートしていたのを見かけました。




興味を引かれた私はすぐさま反応。



なにしろ3000円であります。使えなくてすぐ捨てる羽目になっても惜しくない金額。その場でポチって注文してみました。




ニトリ3000円テントのスペック


早速届きました。ホームセンターなどで売っているキャンプ用品でよく見るような箱入りでした。


まずはスペックをチェックしてみよう。


フロアサイズ:短辺120cm×長辺200cm

天井高:110cm

重量:約1.4kg

付属品:張り綱4本、ペグ8本、収納袋


サイズ的には1~2人用といったところ。フライシートはなく、いわゆるシングルウォール設計です。天頂部に小さな「屋根シート」なるものが付いていますが、これはフライシートとはいえないでしょう。



箱から出してみるとこんな感じ。細長い収納袋にテント本体とポールが入っています。下は付属の張り綱とペグ。ペグは格安キャンプ用品によくある、曲げただけの丸鉄棒。



テントのフロア部分はブルーシートのような素材でした。昔、アメリカで8000円くらいで買ったコールマンのキャンプ用テントが同様な仕様でした。ちょっと硬くてガサガサするので収納性が悪いですが、防水性とか耐久性はとくに問題ありません。



ポールはこんな感じ。グラスファイバーのロッドを金属製の継ぎ具で連結させるタイプ。これも格安コールマンと同じ仕様なので個人的にはなじみがあります。



重量を測ってみたら1.34kgでした。カタログスペックは1.4kgなので、公称より軽いということになります。重量的にはアライテントの定番品「エアライズ1」と同じくらいなので、この手の格安テントにしてはかなり優秀。登山で使えるレベルの重さに抑えているといえます。



ただしこのままだとパッキングしにくいので、手持ちの収納袋に替えて、同時にしょぼいペグも手持ちの軽量なものに交換しました。




-10℃の八ヶ岳で実戦投入


やって来たのは3月中旬の八ヶ岳・黒百合平。標高は約2400m。テントを入手してからすぐに出かけることができなかったので厳冬期ではなくなってしまったし、北アルプスでもないけれど、まだまだ雪山という環境なのでまあいいでしょう。



ちょうど天気がよく、ほぼ無風でもあったので、日中は暖かさすら感じるほどだったのですが、日が陰ると急速に冷え込み、最低気温は-10℃ほど。



オーソドックスなクロスポール構造で、フライシートもないシングルウォールなので設営は簡単なのですが、少々問題も。テントのスリーブにポールを通す際、継ぎ具が引っかかりやすくてスムーズに通せないのです。これはこの形式のポールあるある。設営時に風が吹いていたりして余裕がない状況だと、けっこうイラつくポイントでしょうね。

一方、普通の登山用テントのポールはこういう段差のないスムーズな表面になっています。工作コストがかなりかさむと思うのですが、そうすることでスパッと一撃でポールを通せるので、コストをかけるだけの価値はあるというわけです。



天頂部はひもでポールを結んで固定。登山メーカーのテントはフックをかけるだけなどのワンタッチになっていることが多く、ここもやはり格安ならではの使い勝手の悪さが出てしまうポイントです。



テントのサイドウォールには「PAIR DOME TENT Montagna」という文字が。Montagnaというのはブランド名? それとも製品名? と思って調べてみたらこんなページが。ロゴが同じなので、作っているメーカーはここだと思われます。この会社がニトリに納品しているということなのでしょうか。



これが天頂部に付く「屋根シート」。なんでこんなパーツが? 



内側から見ると、テント本体の天頂部はメッシュになっています。ここから雨が直接居室内に入ってきてしまうので、屋根シートはそれを防ぐ役割を担っているわけです。



テント内部はこんな感じ。横幅が120cmあるので、ソロで使うにはかなり余裕があります。荷物が多くなりがちな雪山登山でも問題なし。靴を中に入れても邪魔にはなりません。



中から入口側を見たところ。スペースに余裕があって居心地はけっこういいです。



シングルウォールなので気になるのは防水性。ゴアテックスなどの防水素材が使われているわけではなく、どこまで濡れを防いでくれるのかは不明。縫い目にはシームテープが貼られているので濡れには配慮してあるようなのですが、フルコートしてあるわけではなく、中途半端なところでシームテープが途切れていたりしてやや不安。




フロアのブルーシート素材とサイドウォールの継ぎ目はシーム加工がありません。ここが防水されていないのはけっこうキツい。大雨になったらここから浸水してくるものと思われます。




撥水加工はされているようで、水は弾いてくれます。基本的に雨が降らない(雪になる)雪山環境であれば、防水性はそれほど問題にはならないでしょう。




が、雪山で使うことを考えると、問題は防水性よりもむしろ保温性です。

このテント、入口はメッシュパネルとメインパネルの二重になっており、メッシュパネルはフルクローズできるのですが、



メインパネル下側にはなぜかファスナーがなく、開けっぱなしになっています。なので矢印のような隙間ができてしまい、ここから外気がどんどん入ってきます。通気性良好とはいえるのですが、雪山では寒くてまったく具合が悪いことになってしまいます。




通気性がよすぎてスースーするところをのぞけば特に居心地は悪くなく、こんなところで-10℃の一夜を過ごしてみました。





一夜明けての感想

それなりに気温が低いことをのぞけば天気はきわめておだやかでほぼ風もなく、無事に朝を迎えることができました……と言いたいところなのですが、実際は寒くて夜24時前に目が覚めてしまい、その後は寒さで眠れなくなってしまいました。

が、これはテントのせいではなく、寝袋のせい。間違えてなんとハーフシュラフ(下半身だけの寝袋)を持ってきてしまったのです。ダウンジャケットは持っていましたが、それほど分厚いものではなかったのでさすがに不十分。久々に寒さで眠れないという体験をしてしまった。ちゃんとした雪山用寝袋を持ってきていれば、普通に朝まで熟睡できたことと思われます。



これは目が覚めた夜中に撮ったテント内部。サイドウォールに盛大に霜がついています。しかしシングルウォールテントならこんなもの。このニトリテントが特に霜が付きやすいわけではありません。

寒さに耐えられず、2時過ぎには寝ることを諦めて、朝食を作ることにしました。バーナーに火をつければ暖房にもなると思ったのです。

しかしバーナーの火をつけてもどうも暖かくならない。テントの通気性が良すぎて、暖気がどんどん外に逃げているようなのです。寒さに震えながらラーメンを作り、それを食べているうちにようやく身体が温まってきました。



【念のため注意】
テント内でバーナーを使用するのは、雪山登山では一般的に行なわれていることではありますが、実際に行なうときは換気に十分注意してください。一酸化炭素中毒で死亡したという事故が実際にありますし、私の知人の範囲でも死にかけたという話を何件か聞いたことがあります。テント内でのバーナー使用は厳禁としているテントメーカーも多く、十分な注意が必要です。




結論

こうして雪山で使ってみたわけですが、「ニトリの3000円テントは雪山で使えるか」と問われれば、「使えないことはない」という答えになります。だって、現に私は深刻なトラブルに陥ったわけでもなく、こうして無事に下山しているわけですから。

極論を言ってしまえば、雪山で使えないテントはないとも言えます。軽量化を追求して雪山でもツエルトで寝泊まりする人だっているくらいです。私も-20℃の南アルプスでツエルトひとつで座りビバークしたことがあります。死ぬほどつらかったですが、死にはしませんでした。それに比べれば、ニトリのテントは間違いなくはるかに快適です。

しかし、「おすすめするか」と問われれば、「おすすめはしない」と言わざるを得ません。登山で使うことを考えると、やはり防水性が気になります。このテントで大雨に降られたら、かなり悲惨な一夜を過ごすことになると予想されます。そのつらさは「3000円なんだから文句はいえない」というレベルではないと考えます。

登山用のツエルトやシェルターの類も雨や風への弱さという点ではニトリと同じかそれ以下なのですが、引き換えに圧倒的な軽量性というメリットがあります。その点ニトリは1.34kg。値段を考えればかなり健闘していますが、特別に軽いわけではありません。いかに格安といえど使用上のメリットがなく、結局買い換えてしまうことになると思われるのです。


ただし、キャンプなら別です。特に、雨が降ったら車やキャンプ場の施設にすぐ逃げ込めるような環境であれば、このテントでもアリだと思います。

というか、そもそもそういう用途のためのテントなのでしょう。登山で使うことを想定したものではないだろうし、ましてや雪山で使うなんてことは考えてもいないはずです。そんな酔狂なテストをした私が悪いということであります。


興味本位でやってみた実験、当たり前といえば当たり前な結論になりましたが、頭でわかっていることでもやらないよりはやってみたほうがいいんじゃないかというのが信条。何かの役に立ったでしょうか……???




【追記】

Amazonにも売ってました。たぶんこれ同じものだと思います。Amazonではカラーがいくつか選べるうえ、より小さいサイズ(横幅95cm)もあります。値段もわずかに安い。