2023年6月12日月曜日

【スマートウォッチレビュー】Amazfit GTR4を登山で使ってみたところ…

現在所有しているスマートウォッチ。左から、Amazfit T-REX2、Amazfit GTR4、Amazfit Stratos3、Garmin Forerunner 955、TicWatch Pro 3 Ultra、Amazfit Band7。Amazfitが多いですが、T-REX2とGTR4はメーカー提供品


2021年から登山でスマートウォッチを使い始めて以来、すっかり凝ってしまって、今では6本も所有するようになってしまった(導入第一号だったOPPO Watchは人に譲ってしまいました)。

そもそもは、「腕時計で地図を見たい」という動機だけで導入したのですが、使ってみると、心拍数や移動スピード、移動距離などが測れたり、睡眠の状態を計測してくれるなど、身体の状態を数値で確認できることが楽しくなり、現在では登山に限らず24時間365日身に付けている状況です。



山では比較テストのためにもっぱら両手時計スタイル。「ケイスケホンダのようだ」と同行者に言われました。



過去にも以下のような記事を書きました。

登山で使えるスマートウォッチを研究したい


【スマートウォッチレビュー】Amazfit T-REX 2は登山で使えるか



今回は新たに、最近よく使っているAmazfit GTR4というモデルをレビューしてみようと思います。

これがAmazfit GTR4(社外品のカバー付けてます)



これはT-REX2と同様、メーカーからの提供品。とくにアウトドア仕様というわけではないので関係ないかなと思っていたのですが、登山で使ってみたところ意外と使いやすいと感じたので以下レビューします。

GTR4は、Amazfitの核となるいちばんメインのモデル。定価はT-REX2のほうが上になるのですが、Amazfitブランドの本流王道を受け継ぐモデルとなると、こちらGTR4といえるでしょう。

外観はまったく普通の腕時計に見えますが、内部的にはT-REX2と同等で、使える機能はほぼ同じ。以下、主な仕様を比較してみます。


T-REX2GTR 4
定価35,800円33,000円
サイズ47.1 x 47.1 x 13.65 mm46×46×10.6mm
重量66.5g60g
ケース素材ポリマーアルミ合金
耐衝撃性MIL規格
防水性10気圧5気圧
操作タッチパネル/ボタンタッチパネル
ディスプレイAMOLED 1.39インチAMOLED 1.43インチ
GPS(GNSS)6
センサー3.04.0(最新)
OS1.02.0(最新)
駆動時間24日14日
GPS駆動時間最大58時間最大52時間





T-REX2と比べると、耐衝撃性と防水性、そしてバッテリー性能がやや劣るのですが、本体がコンパクトながら画面が大きくて見やすいところがメリットといえます。デザイン的に日常ユースがしやすいところも利点といえるでしょう。

以下、特によいと感じた部分を解説してみます。




薄いことは重要だ

センサーの突部を含む厚みは、実測でGTR4が12.8mm。一方、T-REX2は15.8mm。数字で比べてもあまりピンときませんが、山での使用上、GTR4の薄さはけっこう重要に感じました。


こうして比べてみると、数字以上に厚さの違いがよくわかると思います。



薄いことがなぜいいかというと、ひとつは、袖に引っかかりにくくなること。

寒い時期は腕時計は服の袖で覆っていることになるのですが、時計を見ようと腕を上げたとき、厚い時計は袖に引っかかりやすいのです。山用のウエアは、袖口がゴムシャーリングになっていたりベルクロが付いていたりすることが多いのでなおさらです。この引っかかり、行動中にはわりとストレスです。

T-REX2は厚めであることに加えてゴツッとしたデザインなので比較的引っかかりやすかったのですが、GTR4では明らかに引っかかることが減りました。



もうひとつのいい点は、体感が軽くなること。こちらは、Garmin Forerunner 955との比較をご覧ください。


バンドを含まない本体重量はどちらも35gで同等。しかしGarmin 955は厚さがあるぶん、重心が腕から離れるので、GTR4より振られや重さを感じます。さらにGarmin 955は写真でわかるように角張っているので、ここが袖に引っかかりやすい。


この薄型ボディ、使用時の快適性にかなり貢献していると感じます。薄いこと大切。




ディスプレイが見やすい

GTR4のディスプレイサイズは1.43インチ。これは現行のスマートウォッチのなかでは最大級。スマートウォッチは画面に表示される情報が多くなるので、ディスプレイは大きいほど有利で、このへんはスマートフォンと同様です。

T-REX2も1.39インチと大きめで不満はなかったのですが、GTR4はそれよりさらに見やすい印象。


こうして写真で見るとそれほど大きさに違いを感じませんが、フィールドで使った印象では、T-REX2より見え方がひとまわり大きく、ディスプレイサイズ0.04インチの差は感じられました。

登山中はそんなにまじまじと画面を見つめるわけではないので、ちらっと見ただけで必要な情報がわかる視認性の高さはGTR4の便利な点と感じています。




気負わず使えるスマートウォッチ

薄いこととディスプレイが大きいこと以外にも、GTR4は最新のセンサーやOSを積んでいるなど、T-REX2より進化している点があります。しかしそれらは実用上、体感できるような差はありませんでした。

バッテリー持ちについては、スペックどおり、T-REX2のほうが長持ちします。1泊2日の登山で使った場合、T-REX2は30%ほどしかバッテリー残量が減りませんが、GTR4では40%ほど減ります。とはいえ、充電なしで5日程度の山行に対応する計算なので、ほとんどの場合はこれでも十分でしょう。

ということで、日帰り登山などでは、気軽に使えるGTR4を持ち出す機会が最近は増えています。T-REX2は、パネルタッチだけでなく物理ボタンでも操作できるという優位性もあるので、手袋をしている時期や雨のときなどの使いやすさを考えると、やはりT-REX2のほうがなにかと安心ですが、気負わずさっと使えるという点ではGTR4も悪くありません。




山ではカスタムして使おう

ところで私は、GTR4を山で使ううえで、2点、カスタマイズをしています。

ひとつはカバー。登山では、岩にこすったりして腕時計はけっこう傷つきます。T-REX2みたいなアウトドア時計はキズがついてもそれがひとつの味となってあまり気にならないのですが、GTR4みたいなクリーンなデザインの時計は気になります。

そこで、Amazonで見つけた以下のカバーを付けるようにしました。これ、着脱が簡単なのに装着時はしっかりフィットしていい感じです。山でGTR4を使うならおすすめ。



もうひとつのカスタムポイントはボタン。公式ページを見ていただければわかるように、GTR4のボタン(竜頭)は本来、右上に付いています。しかし、右側に付いていると山では不都合な場合が少なくありません。


こういうふうに岩などに手をついたとき、手の甲でボタンが押されて意図しない操作が行なわれてしまうことがあるのです。

そこで私は、画面設定で表示を180度反転させて、ボタンが左下にくるようにして使っています。


これだと不意にボタンが押されて誤操作されることがなく、ストレスなく使えるようになりました。こういうのはスマートウォッチならではの利点です。ただし、この画面反転設定ができないスマートウォッチもあるので、そこはご注意。



Amazfit GTR4、日常から登山まで1本のスマートウォッチですませたいという人には、けっこういい選択なのではないかと思います。地図を見たり、GoogleやAppleなどのアプリを追加したりすることはできませんが、そのぶんシンプルで使いやすいです。私の持っているスマートウォッチのなかでは、操作のスムーズさ、安定性、スマホアプリの使いやすさなどはベスト。機械としての完成度が高いと感じています。





【付録】

以前、Garmin Forerunner 955とGTR4を比較したツイートをしていたのでご参考までに。




2023年6月6日火曜日

ROCK & SNOWはなぜつまらなくなったのか

 

「ロクスノ」はなぜつまらなくなったか|Tomahawk


このような記事を読んだ。

真面目な論考であり、指摘の多くは的を射ているとも感じる。かつて編集長を務めた者として、そして今でもこの雑誌の編集に少し関わっている者として、以下思うところをスピード執筆してみる(時間がないのでとりあえず気づいたことのみ。後で追記するかも)。



■「つまらなかった記事」シューズテスト
なぜこれが続いているかというと人気があるからである(もうひとつの理由は編集的に作るのがラクだから)。確かに自分も、最近のテストは工夫がなくて面白くないと感じる。しかし人気があるという事実を無視をしてはいけない。記事の作りは改善の余地ありと思うけれど。



■編集力の低下

(記事より引用)


すごいデータだ。貴重なデータでありがたい。

ただし、雑誌の編集者ってけっこうあいまいで、単純にマンパワーとしてカウントできないことがある。Editorなどとして名前が載っていても、ほとんど何もしていない人がいる場合もあるし、企画会議で意見を言うだけの人がいたりすることもあるし、ある部分において限定的に関わっているだけの人もいる。人数=マンパワーと必ずしもならないのだ。

そこらへんは雑誌によっても異なったりする。本当に実質的な編集者として機能している人だけに限定して名前を記す雑誌もあれば、ほとんどお友達レベルの人まで記す雑誌もある。ROCK & SNOWでいえば、比較的実情に合った記載をしていると思うが、それでも名前が載っている人の間でかなりの濃淡はある。

たとえば私も最近名前を載せてもらっているが、実際の働きは、企画会議に出席することと、各号1~2企画(2~15ページほど)を担当することくらい。編集者の働きとしてはけっこう限定的だと思うので、「ロクスノの編集やってます」と積極的に公言はしていない。

このへんは内部事情を知って精密な議論をしないとイマイチ意味がないことになってしまうので少し注意は必要かな。ちなみに言うと、現在のROCK & SNOWは実態的なマンパワーが減少傾向にあるのは確か。





とりあえず、違和感を抱いた部分のみ、ざっと書いてみた。それ以外の部分は、明らかに的外れというものはとくになく、少なくともひとつの意見として一度受け止める価値のあるものだとは思う。

さしあたり。






【2023.6.9追記】

元の記事にならって、個人的に面白かった記事を私も3つあげてみる。



●VOL. 024(2004年夏号):「OLD BUT GOLD  Mars 5.13d」

杉野保さんの伝説的な連載企画「OLD BUT GOLD」。クライミングの魅力と奥深さを表現できる書き手として、杉野さんの右に出る人物は存在しない。多くの人に強い影響を与え、以後のクライミングの流れを変えたとさえ思える有名な連載だが、私も連載当時は毎号、このページから読んでいた。そして連載史上頂点と私が信じる回がこれ。杉野さんのクライミング愛、吉田和正さんへの思い、すべてのパッションがつまっている。連載史上だけでなく、過去30年の間に書かれたクライミングテキストの頂点に輝く金字塔である。読んだことのない人は絶対に読んでほしい。


とにかく出だしの一文がカッコいい。

「引き潮を狙って、ルーフ下の磯に入り込む。」

こんな一文で始めるなんて、プロの作家でもなかなかできない。


そしてラストがまた最高である。

「吉田は、まだ追いかけている。決してつかまることのない青い鳥を。」

ちょっと、完璧すぎませんか、杉野さん!!





●VOL. 046(2009年冬号):「中嶋徹 トラッドへの一人旅」

当時15歳、英語もろくにできないのにたったひとりでトラッドクライミングの本場イギリスに乗り込み、当地の有名課題を総ナメにした記録。トラッドクライミングの金字塔として知られるビデオ「Hard Grit」をテープが伸びてしまうほど繰り返し見ていた私は、ビデオに出てきた有名課題を15歳の日本人の少年が次々に切って落とす姿に目を見張った。同時に、そのパフォーマンスのレベルの高さだけでなく、読み手に手汗握らせる文章力の高さにも驚かされた。

「クライミングにルールはありません。僕たちはボルトを否定することはできないのです。しかし自由であるからこそ、なんでもできるからこそ、ひとりひとりが責任ある行動をとることが求められているのです。それは、ほかのクライマーに対してであり、未来の世代に対してでもあります。
『高校生が生意気なことを言うな』と思う方もいらっしゃるかと思いますが、高校生に指摘されるほど、ひどい現状があると思います。」

ここを読んだときは背筋が伸びる思いがした。この高校生の言うことこそが正義だと。





●VOL. 072(2016年夏号):「厳冬期黒部横断32日間 剱沢大滝左壁ゴールデンピラー」

厳冬期に32日間もかけて黒部の山奥にある課題を登った3人の男の記録。記事を書いたのは3人のうちのひとり、佐藤裕介さん。10ページにもわたる長い記事で、読み終わったあと、私は放心状態に陥った。「すごいものを読んでしまった……」と。

この記事については、別の雑誌(PEAKS)に書いたことがあり、その感想が的確なので以下に引用しておく。

「6月に刊行された『ROCK & SNOW』というクライミング雑誌に、2016年の全アウトドア雑誌中ベストワンの記事が掲載されている。<中略> アウトドア雑誌という狭い世界のなかでも、一年間に掲載される全記事の数となれば膨大になるはずだ。もちろん私はそのすべてを読んでいるわけではないが、この記事がベストであることは疑う余地がない」

「私は物書きを職業としているが、ここまで力のある文章を書けたことはないし、これからも書けるとはまったく思えない。ライターという職業に絶望を覚えるほどだ――と感じることすらなく、あまりの別次元に、ただただ、すごいという感情しか湧いてこなかった」





<番外>

ちょっと毛色の違ったところで、以下ふたつのインタビューもメチャクチャ面白いのでおすすめ。


●VOL. 016(2002年夏号):「驚異、一本指キャンパスの秘密」

クライミングジム「ビースリー」の元祖オーナー・大島次郎のインタビューなんだけど、話し手も聞き手も自由奔放すぎて面白い。全編、以下のようなカオスが展開されている。

「――高校時代は何かしてたの?」
「ラグビー。ラガーマンですよ。ラガーといえば、サッポロの”ファインラガー”、あれニセモノですよ。1月23日発売で誕生日と一緒だったから『やったー、俺はやっぱりラガーの申し子だ』って大喜びして、箱で買って帰ってきたんです。そして、プシュッて開けて飲んでみたら、発泡酒じゃないですか。『なんだこりゃ!』って感じで。頭にきて全部地面に捨ててやりましたね。やっぱラガーはキリンですよ」




●VOL. 028(2005年夏号):「A DAY IN THE LIFE ソン・サンウォン」

当時22歳の若手トップクライマー・松島暁人が、同じく22歳の韓国トップクライマー、ソン・サンウォンをインタビュー。やたら「!」が多くて発言が短く、若者は国が違えど同じだな~と思えたインタビュー。

「――1年の契約金ってどのくらいなの? シークレットだったら言わなくていいよ」
「大丈夫、韓国のクライマーで知ってる人がけっこういるから、シークレットじゃないよ。300万円ちょっとだね」
「――300万! ウォンじゃないよね?」
「ちょっと待って。ん~、ネルソンとコロンで……そうね、300万円くらいだね」
「――じゃ、新しい車買えるね! 足りてる?」
「うん」
「――グッドか?」
「うん、グッドね!」