2015年9月19日土曜日

剱岳北方稜線



先日発売されたばかりのPEAKS10月号に、高橋庄太郎さんと共同執筆のかたちで剱岳北方稜線の記事を書きました。
庄太郎さんとは北アルプスの難ルートをよくいっしょに行っていて、
2009年の西穂高~奥穂高、2010年の槍ヶ岳北鎌尾根に続いて、これで三部作完成。


記事は計10ページ。ルートガイドや装備計画なども細かくやった甲斐もあり、いまのところ周囲では評判がよく、「面白かった」とか「オレも行きたい」という声を多く聞くので、記事の補足的情報を書いておきます。



アプローチの立山雷鳥平。行ったのは去年の9月27日~29日。去年は紅葉が早めで、9月27日でほぼピークって感じでした。いまのところ今年も早そうだな。




いきなり飛んで剱岳山頂。誌面には登場しなかった亀田正人カメラマンです。こういうハード系の撮影では現在のところ彼か杉村航の独壇場。でもギャラは変わらないのでかわいそう。山の取材もコースの難易度に応じた危険手当とか特殊技術料とかあればいいのに。




剱山頂から最初のピーク、長次郎ノ頭。遠目には岩壁のように見えて登れんのかな?と思えるのだけど、赤線のようにピークを巻くルートがとれる。2mくらい垂直の箇所があるのだけど、強引に行っちゃえるし、残置のロープもあるので問題なし。




長次郎ノ頭を越えると、こんな感じのギザギザの稜線を行く。といっても稜線上を歩くところはほとんどなく(ギザギザすぎて歩くの困難)、終始基本的に写真のように長次郎谷側(東側)を巻くように歩いていく。ちなみにこのすぐ先が、2年前にカメラマン新井和也が事故死したところ。私にとっては一生忘れられない場所でもあります。




ここが悪名高い池ノ谷ガリー。ガラガラで一歩踏むごとに崩れるような感じ。上から後続者が来たらちょっとイヤな感じだ。




池ノ谷ガリー全景。こうして見るとすごい傾斜に見えるな。




池ノ谷ガリーを下りきったところが三ノ窓。こんなふうにテントスペースが数カ所あって、ビバークするならここ。ただし水はないよ。




三ノ窓から西側をのぞき込むと、これまた悪名高い池ノ谷左俣。ものすごいV字谷だ。




三ノ窓からは小窓ノ王というピークに向かって登り返していく。このピークがまた長次郎ノ頭以上に威圧的に見えるのだけど、赤線のように絶妙なルートで登っていくことができる。通称「発射台」といわれているところ。まさにルートファインディングの妙を感じることができるところで、こういうの大好き。




発射台も遠目にはすごい傾斜に見えるのだけど、取り付いてみるとこんな感じで、意外と苦労なく登れてしまうのです。



亀田撮影

小窓ノ王を越えると問題の雪渓トラバース。このコース中いちばんヤバいところだと思います。私たちが行ったときは雪渓がここまで小さくなり、しかも先行者のトレースががっちり残っていたので、ノーアイゼンでも通過できました。7月とか8月だったら雪渓の幅がもっと広く、しかも数カ所出てくるらしいので、アイゼン装着+アンザイレンは必須だと思います。ピッケルも持つべきでしょうね。

ちなみにこのときは、この雪渓用に20mロープと170gという超軽量簡易ハーネス(倒産してしまったダックス製。類似商品がなくて重宝してたのに涙)、スリングとカラビナ数個ずつを持っていきましたが、結果的に使わずじまいでした。

ヤバかったらロープを使うつもりだったんだけど、支点探しはちょっと苦労するかも。確保支点に使える岩とか木とかあまりいいものがないのです。180cmとか240cmとかの細くて長めのスリングを持っていけば、大きな岩に無理やり巻いて使うこともできるかもしれないけれど、いずれにしろ工夫が必要です。各人がピッケルを持っていれば、雪渓に刺して支点にするのがベストかと思います。




小窓まで来ればもうひと安心。ここは本当にのんびりできる平和な場所です。




小窓雪渓。ここを下ります。ご覧のとおりの傾斜なので、アイゼンはなくても大して問題はないです。



亀田撮影

小窓からはできれば池ノ平山を通って池ノ平小屋まで行きたいと目論んでおりました。通常は雪渓から行きますが、ライン的には池ノ平山経由のほうが尾根通しでルートを完結できて美しい。でも小窓から見上げる池ノ平山は思ったより傾斜が強くてヤブでも苦労しそうなのでやめました。早く池ノ平小屋に着いてビールを飲みたいという誘惑に負けたのです。




小窓雪渓自体は歩きやすいのですが、問題はここ。雪渓を離れて左岸の登山道に入るのですが、この入り口がわかりにくい! 赤ペンキで●とか「上り口」とか岩に書いてあるのですが、ガスが出ていたりしたら見つけるのは至難と思われます。ひとつの目安は写真奥に見える滝。これが見えてきたら左岸にとにかく注意だ!




雪渓から登山道に移るところ。




翌朝、池ノ平小屋付近から見た池ノ平山。池ノ平小屋からは黒部ダムに下山するだけなのですが、庄太郎さんは早朝、「ちょっと池ノ平山行ってきます」と言ってここを登っていきました。「すぐ追いつくから先行ってて」というので、私と亀田は先に下りました。「すぐ追いつくから」といっても、池ノ平山まで往復のコースタイムは約2時間。プラス2時間は通常ならなかなか追いつけない差になるのですが、本当にすぐ追いついてきました。

庄太郎さんはとにかく歩くのが速くて、年齢的には私と3つしか違わないのだけど、体力的には3倍くらいありそうです。プロフィールによく「年間山行日数100日を超える」とか書いているけど、それは本当で、とにかくちょっとでも時間があれば山に行っているという男なのです。北方稜線みたいなルートはスピードが上がらないのでいいのだけど、普通の登山道をいっしょに歩くとついていくのが大変よ!




朝はけっこう寒くて、薄く霜がおりていました。




ハシゴ谷乗越に立つと、山に囲まれたスタジアムのような内蔵助平がきれいに見えました。あとふたがんばりくらいで黒部ダムだ。





ということで山行は終了。
しかし誌面にも書いたのだけど、剱岳北方稜線というのは長大な尾根で、私たちが歩いたコースはそのほんのさわりでしかないのです。地図上で見るとこんな感じ(下のほうのちょろっとした赤線)。





一方、北方稜線全線となるとこんなに長いのです。


このほとんどの区間は登山道がなく、踏破はきわめて困難なものになります。


しかしつい最近、この全線踏破の記録がパタゴニアのブログに載りました。
だれだ、そんな酔狂なことをやったのは、と思ったら、知ってる人でした。
加藤直之、谷口けい、上田幸雄の3人。
みんなツヨツヨのクライマーなのですが、ちょっと普通じゃないこともよくやる人たちです。
1週間ヤブこぎを続けるようなこんな登山、普通の人はやりません。
40代の大人3人がこんなバカげた登山をやってくれるなんて。
こういう冒険心というか遊び心、本当に尊敬します。彼らはすごい。






2015年9月6日日曜日

登れるかどうかわからない山は面白い




『岳人』9月号を読んでいて、いたく共感したフレーズがあったのでメモ。


未知未踏のものを登ることほど最高なことはない。未知未踏というのは、それが登れるのかどうかすら、わからない。答えがあるかわからない問題を解くようなものだ。
「島に残された未知未踏を登る」小阪健一郎・文


「答えがあるかどうかわからない問題を解くようなもの」


これですよ、これ。
行く手に何が出てくるかわからない山登りというのは面白い。
それこそが山登りの最大の面白さなんだと思う(つい最近も似たようなこと書いたな……)。


とくに沢登りというのはこの面白さを最も端的に味わえる登山形態なのだけど、
それを最大限に体感するために、わざとルートの下調べをしないで行く人もいるくらい。
バカバカしいなと思いつつ、気持ちは十分わかるのです。


大昔、アフリカのジャングルで未踏の岩塔を登ったことがあります。
先行きに何が出てくるかわからず、そもそも登れるのかもわからない。
過去に人間が通ったことがないところを行くというのは、ものすごく怖いことで、胸が締め付けられるようなプレッシャーを感じながら登っていました。





しかしそれだけに、登れたときの感動は、ほかの山登りの100倍は大きかったことを憶えています。
そして、初登という行為がいかに大変か、そして第二登とは天と地ほどの差がある行為であることも身をもって理解したのでした。


私たちが登った岩塔も、岳人の記事にある離島の岩や滝も、未踏とはいえ一般的に見ればまあチンケっちゃチンケですよ。
どうでもいいような重箱の隅つつきといえなくもありません。
でも、この記事を書いた小阪さんという人は、未踏の場所を行く最高の面白さを知っているのだと思います。
山登りに求めているものが私と同じ感じで、好みが合いそうな気がします。
はたからは怪しい存在と見られているかもしれないけど、応援してますよ!