2022年2月24日木曜日

日本で2番目に高い山って知ってる?

 

2番だって、いいじゃないですか 「日本No.2協会」立ち上げ:朝日新聞デジタル


日本で2番目に高い山・北岳(3193m)を擁する山梨県南アルプス市の有志がこういう団体を立ち上げたそうです。気持ちはよくわかる。なにしろ、標高第1位の富士山に比べて、北岳の知名度は悲しいくらい低いのだから。登山をやっていない人で「日本の標高2位の山は?」という問いに即座に答えられる人ってどれくらいいるんだろう。

このニュースを読んで、昔書いた記事を思い出した。以下がそれです。




東京・新宿の街を歩いていたときのこと。すぐ目の前を4、5人の男子高校生が歩いている。

「日本でさあ、2番目に高い山ってどこだか知ってる?」

都会の雑踏で、ふつうの高校生が発したこのひとことがいきなり耳に入ってきた。風景のひとつとしてしか目に入っていなかった高校生の存在が突然、気になってしかたがない。なんて答えるんだ? 僕は接近の度合いを強めた。

「知らね」

……やっぱり知らないよね。

答えたひとりが、クイズの主に聞く。

「で、どこなの?」
「いや、オレも知らない」
「じゃ、なんで聞くんだよ」
「いやあ、知ってるかなあと思ってさあ……」

キ・タ・ダ・ケだよ!

日本で2番目に高い山は南アルプスの北岳、標高は3193m。僕はそうしゃしゃり出ていきたい衝動を必死でこらえた。そのうちすぐに、高校生の話題は新しいケータイのことに変わっていった。

金メダリストの名前は多くの人が覚えているが、銀メダリストはすぐ忘れられてしまう。世の中はそんなものとわかってはいる。富士山の知名度にくらべて北岳のそれが比較にならないほど低いことも充分理解できる。しかし……。

北岳はもうちょっと注目されてもいい山ではないかと思うのだ。槍ヶ岳や剱岳の圧倒的な個性にはさすがに及ばないことは、南アルプスファンの僕でも認めざるを得ない。しかし白馬岳や穂高と比べてどうなのかといえばほぼ同等と考えている。穂高には高山植物の豊富さで圧勝だし、白馬岳にはコースのバリエーションで上回る。それに甲斐駒ヶ岳や間ノ岳など南北方向から北岳を見てほしい。ひときわ鋭く突き立った山容にびっくりするだろう。なにより、標高は北アルプスの山すべてをしのぐのだ。

個人的には、北岳という名前がよくないと思っている。あまりにも無個性にすぎやしないか。槍ヶ岳や剱岳、白馬岳などのオリジナリティにくらべてどうだ。どこかの裏山みたいな名前ではないか。国内2番目に高い山がこれだけ知られていないのは、この名前も大きく影響しているに違いないのだ。

ところで、南アルプスで北岳に次いで高い山はどこだかご存知だろうか。

間ノ岳である。

……ちょっと、南アルプスの山のネーミングをしたやつ出て来いと言いたい。「なにかの間にある山」って感じで(名前の由来は本当にそうらしい)、北岳以上にどうでもよさ満点ではないか。

実際にどうでもいい感じのピークならそれでもいい。しかし、北岳の山頂に立ったら南を見てほしい。目の前にそびえる堂々たる量感の山にだれもが目を奪われるはずなのだ。北アルプスでいえば薬師岳のような存在感。しかも標高は国内4番目なのだ。

ツートップが平凡すぎる名前であることが南アルプスの不運と信じている。しかし内容は薄っぺらではないことは保証する。新宿の高校生には求めないけれど、せめて山好きの人にはそれを知ってほしいのである。




これはPEAKSの南アルプス特集の冒頭に載せたエッセイの一部です。この話を「エピソード1」として、南アルプスの特徴を表す個人的エピソードを3つ書きました。ちなみに「2」は「巨大タンカー・赤石岳」、「3」は「高山裏のオヤジ」です。

この記事、締切直前に猛スピードで書きとばしたものなのだけど、なぜかよく書けていて、いまでもお気に入りの記事のひとつなのです。編集部内では「これ実話?」なんて疑われたけど、100%実話!

ちなみに文中に出てくる間ノ岳、この記事が出た数年後に標高が3190mに改訂されて、奥穂高岳と並ぶ国内第3位に昇格しております。



記事が掲載されている本はこれ↓



1 件のコメント:

  1. 爆笑。ありがとうございました。腰痛でクライミングできない週末が一気に楽しくなりました!

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