2015年4月15日水曜日

オーカクの新たなチャレンジ



きょう発売のPEAKSを見た人は気づいているだろうが、編集部の大格宗一郎が退社することになった。


大格は私が編集部にいたころに新卒で入ってきた男で、2年ほど同僚として働いた仲だ。
月刊誌の編集というのはいつも忙しく、みんなでひとつのものを作り上げるという関係上コミュニケーションも自然と密になるもので、これまで山と溪谷にしろPEAKSにしろ、雑誌編集部でいっしょに仕事をした人間は同志というか戦友的感覚が個人的に強い。
そのひとりが編集部を離れるというのは端的に言って寂しい(そういう自分が先に編集部を辞めているので勝手なもんだが)。


しかし次の職場はあのSPA!だという。
もともと就活時代からSPA!を志望していたそうで、中途の募集があったので受けてみたら受かったらしい。
どう見てもPEAKSよりSPA!のほうが大格に向いていることは私もよくわかるので、「よかったね」というほかない。


大格がPEAKS編集部に入ってきたのは2011年の春。
最初の自己紹介で「アイドルの研究が趣味です」とニヤケ顔で言う。「このツカミはきいたろ」と本人が内心で悦に入っているのが目に見えるようであった。なんだか妙に調子のいいところがあり、中身はあまりなさそうな男に見えた。
「こいつはあまり使えなさそうだな」
というのが私の第一印象だった。


その第一印象は半分当たっていて半分間違っていた。


大格の書く文章はダントツで面白かった。
いまやPEAKSの名物になっているコラム「オーカクチャレンジ」。
もともとは読者ページの片隅でひっそりと大格が始めたコーナーなのだが、当時、夜中の編集部で校了紙を読んでいた私は目が釘付けになり、読了した瞬間、「オーカク、おまえは天才だ!!」と叫んだ覚えがある。
そう感じたのは私だけでないはずだ。その後、「PEAKSはオーカクチャレンジから読みます」という声を何度となく聞いたことからもそれは証明されている。


一方で、ある程度ワクが決まった文章を書かせるとひどかった。
たとえば定例の情報ページで新しい登山用具を紹介する文章だとすると、大格が書く文章はいつも決まっている。こんな感じだ。

1)現在の登山用具についてどうでもいい枕言葉で始まる。
2)「しかし」ときて、その問題点をいくつか薄っぺらく語る。
3)「そこでこれである」と、新製品の紹介を始める。
4)「この夏、あなたも試してみてはいかがだろうか」と締める。

おまえはテレフォンショッピングか!と言いたいくらいの見事な様式美だ。
一時など8割くらいの文章が「いかがだろうか」で終わっているので、いい加減にしろとよく言っていた。
オーカクチャレンジみたいな魅力的な文章を書ける男が、情報ページとなるとどうしてこんな平均以下の文章しか書けないのか不思議でしかたなかった。


仕事の要領もいいとはいえなかった。
自分の仕事の段取りもぼろぼろであるうえ、何か頼み事をしても10回のうち7回は忘れる。あまりにも忘れることが多いので、そのうち私は重要なことは頼まないようになった。
ルーティーン的な仕事や事務的な作業には人三倍才能がない男だった。
大格の愛する野球にたとえれば、どんな球でもヒットにしてしまうイチローのようなアベレージヒッタータイプでは決してなく、当たれば飛ぶけど、当たらなければ全部三振に終わる近鉄のブライアントのようなやつだったといえるだろう。


この男は放し飼いにしてこそ生きるのだということが半年もすればわかってきた。
そのころ、大格の実家がマルタイラーメンの工場の近くだということを聞き、「じゃ、棒ラーメンの記事作って」と6ページ丸投げしたことがある。
半年の新人にとって6ページを一から作るのはかなりな大事である。
大格は福岡に現地取材に飛び、校了ぎりぎりまで粘って面白い記事を仕上げてくれた。
棒ラーメン愛好家インタビュー、マルタイ工場潜入ルポ、圧巻は棒ラーメン全40種類カタログ。棒ラーメンってこんなにあったんだ!と私は驚いた。読者もそうであったに違いない。
いまだかつて棒ラーメンについてここまで深く迫った記事はあっただろうか。
PEAKSのなかで個人的に記憶に残る記事はいくつかあるのだが、これはそのトップ10に入っている。


そんな大格であるが、私が編集部を辞めたあと、編集者として明らかな成長を見せた。
まず、電話やメールに確実に返事をしてくるようになったのは大きな進歩だ(当たり前のことと言わないでほしい)。
巻頭特集もまかされるようになり、彼なりに考え、がんばっていることは伝わってきていた。
打ち合わせをしても、以前はどうにも手応えのない反応しかなかったのだが、最近は的確なツッコミや独自なアイデアを入れてくるようになった。
掲載誌の発送は頼んでもまた忘れられそうで怖いので、相変わらず大格ではなくバイトの子に頼んではいたけれど。







SPA!の方々、ソツなく仕事をまわしてくれるオールマイティな編集者が欲しかったのなら、大格を採ったのは間違いです。
「とにかく面白い記事作ってくれ。よろしく!」とだけ言って放り出すことをすすめます。そうしたらきっとグラビアン魂に匹敵するような名物コーナーを作ってくれると思いますので。


ということで、久しぶりにSPA!買ってみようかな。
みなさんも読んでみてあげてください。
そして「いかがだろうか」で終わっている文章があったら、「オーカク、おまえがやるべき仕事はこれじゃないだろ!」とつっこんでやってください(笑)。





【おまけ】


これが記念すべき「オーカクチャレンジ」第1回。企画の内容をきちんと汲み取ってこのバカっぽいタイトルロゴを作ってくれたデザイナーのナイス仕事が光る。サブタイトルの「特別緊急企画」は結局最終回までそのままだった。(2011年10月号)


オーカクチャレンジの2号前に始まっていた幻の企画「PEAKSわらしべ長者」。企画に応募してくれた読者と物々交換を繰り返して登山用具を入手するというもの。大格が自分のアイデアで作った初の企画。(2011年8月号)


その次の号で早速終了。「理由はお察し下さい」を読んで、私はコーヒーを鼻から吹きそうになった。あとにも先にも、大格の文章を読んでいちばん笑ったのは実はこれだったりする。ちなみにオーカクチャレンジの「特別緊急企画」には、このわらしべ長者がいきなり企画倒れになったために緊急に始めた企画という意味が込められていたのである。(2011年9月号)

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