2021年1月27日水曜日

K2冬期初登頂と事実確認について

 1月16日、K2が冬期初登頂されました。そこでこんな記事を書きました。


"4人に1人が死ぬ山"K2の冬季初登頂 「ギャラも出ないのに山に登る意味はない」ネパール人が本気になった(森山憲一)


登頂のニュースを聞いてから、ネットニュースやSNSで流れてくる情報を見ながらぼんやりしていましたが、Number編集部から「書きませんか」と連絡をいただいてスイッチが入り、頭に浮かんだK2登頂経験者4人にすぐさまコンタクトして、30時間後くらいに書き上げました。


登頂経験者に聞いた話や花谷泰広さんのYouTubeがかなり参考になり、書くべきことが明確にイメージできたので、自分でもなかなかうまく書けたかなと思っております。


が、記事公開直後にこのような指摘がありました。



これを見つけたのは、山でテント泊していた真夜中。小便で目が覚めたときにスマホを見て発見し、「はっ!」と青くなりました。幸い電波が十分に通じていたのでネットリサーチして検証。結果、指摘はいずれも正しいことを把握しました。


そこでどう対応するべきか考え、訂正を入れるべきと結論。文面を考え、編集部の担当者にメールで連絡。全部終了したのは午前3時半。目が冴えて眠れなくなってしまったので、そのまま朝を迎えました。


その日中に該当の箇所は書き換えられ、現在は修正後の文章になっています。以下、どのようなミスがあり、どのように修正されたか解説します。



「死亡率」は入山した人の何割が死んだかを示す数字ではない


まず元の文章。記事では冒頭から3段落目です。


 一方で死亡率は高く、これまでの統計によれば、入山者の4人に1人が死んでいる。ほとんどの8000m峰で9割以上が生還しているのに対して、K2での死亡率は際だって高い。「最難の8000m峰」といわれるゆえんは数字でも裏付けられている。


これを以下のように変えました。


 一方で死亡率(死亡者数/登頂者数)は高く、これまでの統計によれば23%ほどにものぼる。ほかの多くの8000m峰では10%以下であるのに対して、K2での死亡率は際だって高い。「最難の8000m峰」といわれるゆえんは数字でも裏付けられている。


「死亡率」というのは英語で death rate や fatality rate と呼ばれるもの。8000m峰の危険度や難易度を比較するときによく使われる数字です。K2やアンナプルナ、ナンガパルバットが突出して高く、その数値は過去に何度も見た記憶がありました。原稿を書くときに具体的な数字を竹内洋岳さんのサイトで確認したところ、K2は23%(竹内さんのサイトでは「生存率」として77.1%と表記)。過去に見たことのある数字と大差なかったので、「4人に1人」という表現を使いました。


が、この死亡率の正体は、死亡者数を登頂者数で割ったもの。そこには、途中撤退した人の数はカウントされておりません。したがって「入山者の4人に1人」という表現は明らかに間違いなわけです。だって、途中撤退した人はおそらく登頂者より多いのだから。「いくらK2といえども、入山者の4人に1人も死んでるわけないだろ」と、書くときに気がつかなければいけなかった。


そこで本文は以上のように書き換えてもらったわけですが、記事タイトルには "4人に1人" が残っています。厳密にはここも変える必要があるのですが、タイトル付けは編集部権限であるし、タイトルを変更するのは難しいと思うので、そこは編集部におまかせしました。幸いタイトルには「入山者の」という言葉は入っていなかったし、象徴的な表現として、ぎりぎり許されるか……と納得していますが、本来はアウトでしょうね。


あと、じつはもうひとつ忸怩たる部分があります。23%という死亡率は2018年までのもの。翌2019年はK2登頂豊作の年で、30人ほどが登頂に成功したようです。一方で死亡者はゼロと思われます。つまり、最新の死亡率は20%ほどになるはずなのです(ネパールチームの今回の初登頂でさらに下がったはず)。ただし2019年の正確なデータが見つけられず、そこはスルーしてしまいました。ここも厳密にはアウト案件ですね……。



ミンマ・シェルパは何人もいる


ふたつめのミス。


記事3ページ目で、ミンマ・ギャルジェ・シェルパというクライマーを紹介しています。現在は修正されていますが、もともとの文章ではこのミンマ・ギャルジェが8000m峰を14山全部登っていると書いていました。


[修正前]

今回のもうひとりのリーダー、ミンマ・ギャルジェ・シェルパも、8000m峰14山をすべて登っており

[修正後]

今回のもうひとりのリーダー、ミンマ・ギャルジェ・シェルパも、8000m峰を13山登っており


なぜこういうミスが起こったかというと、今回の登頂メンバーのなかに「ミンマ・ギャブ・シェルパ」という人物がいて、14山を全部登ったのはギャブのほうだったのです。まさかそんなことがあるとは思いもよらず、ギャルジェとギャブを完全に混同していました。


このへんの情報ソースはほとんど英語。アルファベットだと Mingma Gyalje Sherpa と Mingma Gyabu Sherpa。しかもギャルジェは「Mingma G」と名乗ったり表記していたりするケースが多く、ギャブの存在を知らなかった私は同一人物視してしまっていました。


ちなみに今回のチームにはミンマ・テンジ・シェルパという、「第三のミンマ・シェルパ」もいます。シェルパの名前ってバリエーションが少なく、同姓同名とか同じような名前の人が多いのです。ライター泣かせですね。



ところで指摘をしてくれた「ひゅ~む」さんという人は、山写さん騒動のときにも、ヒマラヤンデータベースを駆使して完璧な証明をしていた人物。世の中にはこういう情報通がいるので、ネットで記事を出すときは気が抜けません。



記事中でふれた花谷泰広さんの動画はこちら。ヒマラヤ経験者でないと語れない話で、しかもとてもわかりやすいです。




4 件のコメント:

  1. 「世の中にはこういう情報通がいるので、ネットで記事を出すときは気が抜けません。」
    気が抜けないはおかしくありませんか?
    こういう情報通のおかげで読者は間違った情報から守られ、発信者も未来永劫恥をかき続ける事を防げるのではないですか?

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    1. 確かにちょっとネガティブな印象を与える表現でした。そういう意図はなく、むしろ、こんな専門的な箇所にもすぐさま指摘を入れてくるその情報力に敬服したくらいです。ここはそれほど気を遣って書いていたわけではないので、言葉のチョイスを誤りました。

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    2. どう考えても森山さんのその一言にはそういう「嫌味」とか「皮肉」のような意図は無いかと。。。
      少なくとも僕にはその一言にはひゅ〜むさんに対する森山さんの感謝とリスペクトの気持ちしか感じられませんでしたけど。

      よくクリティカルシンキング(批判的思考)が大切だとか言われてるけど、ネット上で見かける発言の多くは単に素直な見方ができないシニカルシンキング(ひねくれ思考、偏屈思考)とでもいうべきものがほとんどであるような気がする。

      栗城くんや山写さんなんかに対する発言にもそういう種類のものがよく混じってるけど、ネット上に散見される見当違いなクリティカル、いやシニカルな発言もここまで来るとちょっとウザいかな。

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    3. 嫌味ととられてもおかしくない表現だと自分は思う。

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