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2023年6月12日月曜日

【スマートウォッチレビュー】Amazfit GTR4を登山で使ってみたところ…

現在所有しているスマートウォッチ。左から、Amazfit T-REX2、Amazfit GTR4、Amazfit Stratos3、Garmin Forerunner 955、TicWatch Pro 3 Ultra、Amazfit Band7。Amazfitが多いですが、T-REX2とGTR4はメーカー提供品


2021年から登山でスマートウォッチを使い始めて以来、すっかり凝ってしまって、今では6本も所有するようになってしまった(導入第一号だったOPPO Watchは人に譲ってしまいました)。

そもそもは、「腕時計で地図を見たい」という動機だけで導入したのですが、使ってみると、心拍数や移動スピード、移動距離などが測れたり、睡眠の状態を計測してくれるなど、身体の状態を数値で確認できることが楽しくなり、現在では登山に限らず24時間365日身に付けている状況です。



山では比較テストのためにもっぱら両手時計スタイル。「ケイスケホンダのようだ」と同行者に言われました。



過去にも以下のような記事を書きました。

登山で使えるスマートウォッチを研究したい


【スマートウォッチレビュー】Amazfit T-REX 2は登山で使えるか



今回は新たに、最近よく使っているAmazfit GTR4というモデルをレビューしてみようと思います。

これがAmazfit GTR4(社外品のカバー付けてます)



これはT-REX2と同様、メーカーからの提供品。とくにアウトドア仕様というわけではないので関係ないかなと思っていたのですが、登山で使ってみたところ意外と使いやすいと感じたので以下レビューします。

GTR4は、Amazfitの核となるいちばんメインのモデル。定価はT-REX2のほうが上になるのですが、Amazfitブランドの本流王道を受け継ぐモデルとなると、こちらGTR4といえるでしょう。

外観はまったく普通の腕時計に見えますが、内部的にはT-REX2と同等で、使える機能はほぼ同じ。以下、主な仕様を比較してみます。


T-REX2GTR 4
定価35,800円33,000円
サイズ47.1 x 47.1 x 13.65 mm46×46×10.6mm
重量66.5g60g
ケース素材ポリマーアルミ合金
耐衝撃性MIL規格
防水性10気圧5気圧
操作タッチパネル/ボタンタッチパネル
ディスプレイAMOLED 1.39インチAMOLED 1.43インチ
GPS(GNSS)6
センサー3.04.0(最新)
OS1.02.0(最新)
駆動時間24日14日
GPS駆動時間最大58時間最大52時間





T-REX2と比べると、耐衝撃性と防水性、そしてバッテリー性能がやや劣るのですが、本体がコンパクトながら画面が大きくて見やすいところがメリットといえます。デザイン的に日常ユースがしやすいところも利点といえるでしょう。

以下、特によいと感じた部分を解説してみます。




薄いことは重要だ

センサーの突部を含む厚みは、実測でGTR4が12.8mm。一方、T-REX2は15.8mm。数字で比べてもあまりピンときませんが、山での使用上、GTR4の薄さはけっこう重要に感じました。


こうして比べてみると、数字以上に厚さの違いがよくわかると思います。



薄いことがなぜいいかというと、ひとつは、袖に引っかかりにくくなること。

寒い時期は腕時計は服の袖で覆っていることになるのですが、時計を見ようと腕を上げたとき、厚い時計は袖に引っかかりやすいのです。山用のウエアは、袖口がゴムシャーリングになっていたりベルクロが付いていたりすることが多いのでなおさらです。この引っかかり、行動中にはわりとストレスです。

T-REX2は厚めであることに加えてゴツッとしたデザインなので比較的引っかかりやすかったのですが、GTR4では明らかに引っかかることが減りました。



もうひとつのいい点は、体感が軽くなること。こちらは、Garmin Forerunner 955との比較をご覧ください。


バンドを含まない本体重量はどちらも35gで同等。しかしGarmin 955は厚さがあるぶん、重心が腕から離れるので、GTR4より振られや重さを感じます。さらにGarmin 955は写真でわかるように角張っているので、ここが袖に引っかかりやすい。


この薄型ボディ、使用時の快適性にかなり貢献していると感じます。薄いこと大切。




ディスプレイが見やすい

GTR4のディスプレイサイズは1.43インチ。これは現行のスマートウォッチのなかでは最大級。スマートウォッチは画面に表示される情報が多くなるので、ディスプレイは大きいほど有利で、このへんはスマートフォンと同様です。

T-REX2も1.39インチと大きめで不満はなかったのですが、GTR4はそれよりさらに見やすい印象。


こうして写真で見るとそれほど大きさに違いを感じませんが、フィールドで使った印象では、T-REX2より見え方がひとまわり大きく、ディスプレイサイズ0.04インチの差は感じられました。

登山中はそんなにまじまじと画面を見つめるわけではないので、ちらっと見ただけで必要な情報がわかる視認性の高さはGTR4の便利な点と感じています。




気負わず使えるスマートウォッチ

薄いこととディスプレイが大きいこと以外にも、GTR4は最新のセンサーやOSを積んでいるなど、T-REX2より進化している点があります。しかしそれらは実用上、体感できるような差はありませんでした。

バッテリー持ちについては、スペックどおり、T-REX2のほうが長持ちします。1泊2日の登山で使った場合、T-REX2は30%ほどしかバッテリー残量が減りませんが、GTR4では40%ほど減ります。とはいえ、充電なしで5日程度の山行に対応する計算なので、ほとんどの場合はこれでも十分でしょう。

ということで、日帰り登山などでは、気軽に使えるGTR4を持ち出す機会が最近は増えています。T-REX2は、パネルタッチだけでなく物理ボタンでも操作できるという優位性もあるので、手袋をしている時期や雨のときなどの使いやすさを考えると、やはりT-REX2のほうがなにかと安心ですが、気負わずさっと使えるという点ではGTR4も悪くありません。




山ではカスタムして使おう

ところで私は、GTR4を山で使ううえで、2点、カスタマイズをしています。

ひとつはカバー。登山では、岩にこすったりして腕時計はけっこう傷つきます。T-REX2みたいなアウトドア時計はキズがついてもそれがひとつの味となってあまり気にならないのですが、GTR4みたいなクリーンなデザインの時計は気になります。

そこで、Amazonで見つけた以下のカバーを付けるようにしました。これ、着脱が簡単なのに装着時はしっかりフィットしていい感じです。山でGTR4を使うならおすすめ。



もうひとつのカスタムポイントはボタン。公式ページを見ていただければわかるように、GTR4のボタン(竜頭)は本来、右上に付いています。しかし、右側に付いていると山では不都合な場合が少なくありません。


こういうふうに岩などに手をついたとき、手の甲でボタンが押されて意図しない操作が行なわれてしまうことがあるのです。

そこで私は、画面設定で表示を180度反転させて、ボタンが左下にくるようにして使っています。


これだと不意にボタンが押されて誤操作されることがなく、ストレスなく使えるようになりました。こういうのはスマートウォッチならではの利点です。ただし、この画面反転設定ができないスマートウォッチもあるので、そこはご注意。



Amazfit GTR4、日常から登山まで1本のスマートウォッチですませたいという人には、けっこういい選択なのではないかと思います。地図を見たり、GoogleやAppleなどのアプリを追加したりすることはできませんが、そのぶんシンプルで使いやすいです。私の持っているスマートウォッチのなかでは、操作のスムーズさ、安定性、スマホアプリの使いやすさなどはベスト。機械としての完成度が高いと感じています。





【付録】

以前、Garmin Forerunner 955とGTR4を比較したツイートをしていたのでご参考までに。




2022年10月5日水曜日

【スマートウォッチレビュー】Amazfit T-REX 2は登山で使えるか

久しぶりの読者様還元レビュー(意味はこの記事冒頭に)。



先日、このような記事を書きました。

登山で使えるスマートウォッチを研究したい



すると、記事を読んだAmazfit(アマズフィット)PR担当の方から連絡があり、一度アマズフィットのスマートウォッチを使ってみてもらえないかとのこと。使用にあたってとくに縛りはなく、気に入ればなんらか記事にしてもらえるとうれしい程度の条件だったので、喜んで使わせていただくことにしました。


該当機種はAmazfit T-REX 2。今年発売された新型スマートウォッチで、アウトドア使用を意識したモデルとのこと。ガーミン・インスティンクト2スント5ピークの競合になりそうなモデルです。


これを1カ月、ほぼ付けっぱなしで使ってみました。使い心地などだいたいわかったので、以下詳しくレビューしてみたいと思います。





その前に。

スマートウォッチは、現状、大きく分けて以下の3つがあります。

アップルウォッチ
グーグル Wear OS系
その他(独自OS系)

はiOSとAndroidみたいなもので、本質的な違いはないのですが、は決定的に異なるポイントがあります。それは原則的にアプリの追加ができないということ。

はスマホのようにさまざまなアプリを自由にインストールできる一方、はできません。つまり、ヤマレコやYAMAPなどの登山アプリを使うことはできないわけです。そしてT-REX 2はに当たります。

もうひとつお断りを。スマートウォッチは機能がものすごく多岐にわたり、使い方次第で評価はがらりと変わるので、ひと口にいいとか悪いとかいいにくいものでもあります。この記事ではあくまで「登山で使ったときにどうか」という観点でレビューしていますので、その点ご留意を。




機能全部盛り

アマズフィットはアウトドア界ではなじみがありませんが、スマートウォッチ界隈では知られたブランド。シャオミのスマートウォッチ(スマートバンド)も中身はここが作っていたりするそうで、技術力には定評のある会社のようです(Amazonのニセモノのように聞こえるので、ブランド名はどうかと個人的には思うけど)。

T-REX 2はこのアマズフィットのフラッグシップにあたり、最新の機能がこれでもかと詰め込まれています。

登山では長らくABCウォッチ(Altimeter=高度計、Barometer=気圧計、Compass=コンパスを備えた腕時計)が定番とされてきましたが、T-REX 2はこのABC機能に加えて、GPS、心拍計、歩数計、パルスオキシメーターまで備えた「全部盛り」的な腕時計になっています。





これは登山中の表示画面。現在時刻、気圧、心拍数、標高が表示されていますが、これは私の設定で、ほかにも表示するデータは好みに応じて自由に変えられます。

歩行距離とか歩行時間、歩行スピード、歩数、傾斜角、消費カロリーなどまで選べます。個人的には血中酸素飽和度の数値も表示させたいのだけど、それは選べないみたい。

画面はスマホにもよく使われているAMOLEDという有機ELディスプレイで、普通の液晶よりコントラストが高く、かなり見やすいです。





光の強い晴天下では液晶画面は見にくくなってしまうことがありますが、AMOLEDディスプレイならかなりマシ。コントラストが下がりますがこれくらいには見えます。

要はスマホ画面と同じようなものなので、夕方や夜間でもまったく問題なく画面を確認できます。山での見やすさは十分と感じました。





ちなみに、通常時の文字盤画面は好みでいかようにも変えられます。私は冒頭の写真の文字盤で使っていますが、そのほかにも現時点で100種類以上選択肢があります。このへんはスマートウォッチならではというところ。

こういうクラシックなデザインも

いかにもデジタルガジェット風

こんなのも選べる






ルートナビゲーションは使えるか?

T-REX 2の売りのひとつに、ルートナビゲーション機能があります。ルートから外れたときに警告を出してくれたり、正しいルートへの復帰を示してくれるというものです。




これは問題なくルートをトレースできている場合。緑の線は歩きたいルート、白い線が歩いてきたライン、そして矢印が現在地を示しています。地名や等高線は表示されないので、正確な現在地がわかるわけではありませんが、歩きながらパッと見て、問題なく登山ができているか確認するくらいには使えます。





これはルートを外した場合。緑の線から明らかに離れていっていますよね。コースロストしているのが視覚的にわかりやすい。





ルートを外れると、電子音とバイブレーションで知らせてくれます。画面もこんな具合になるのでわかりやすい。これらは正しいルートに復帰するまで5分間隔くらいで定期的に知らせてくれるので、気付かないということはないでしょう。

なお、画面に「逸脱追跡」とありますが、これは「ルート逸脱」のこと。「正しいルートから0.09km(90m)離れていますよ」という意味です。このように日本語化がいまいち甘い部分があります。これについては後述。





こうして無事、本来のルート(緑線)に復帰。めでたし。




こんな感じで使えるので、道迷いが心配な初心者や、コースロストしやすいルートに行くときなどには便利かと思います。

ただし個人的には「あれば確かに便利だけど、そこまで劇的に貴重な機能ではない」というのが感想です。

というのは、スマホのヤマレコやYAMAPアプリでも同じことはできるから。T-REX 2でないと実現できない機能というわけではないのです。T-REX 2のアドバンテージがあるとすれば、手首にバイブレーションで知らせてくれるので、スマホよりコースロストしたことに気づきやすいということくらいでしょうか。

もうひとつの難点は、事前にルートデータを設定しておかなければいけないこと。デジタルガジェットが苦手な人は、ここが面倒に感じるかもしれない。あと、当然ながら、山中でルートを変更したときはこのナビゲーションは機能しません。現場でルートデータを設定し直すこともできなくはありませんが、あまり現実的ではないでしょう。

ただし以上は普通の登山での話。トレイルランニングでは絶大な威力を発揮するだろうと感じました。トレランでは悠長に地図読みをしている余裕がないので、腕時計だけでナビゲーションをコントロールできるのはものすごく便利なはず。とくに、コースが決まっているレースなどでは必須の装備といってもいいんじゃないでしょうか(トレランレースでは公式でコースのgpxデータを配布しているそうなので、やってる人の間ではすでに常識なのかも)。

あと、ディスプレイのクオリティが高いので、ナビゲーション画面がガーミン等の液晶より見やすいのもいいところですね。





さて、以下は、1カ月使ってみての私の全体的な感想を述べてみます。



【いいところ1】バッテリー持ちがよい

T-REX 2でもっとも気に入ったところがこれ。

スマートウォッチの最大の泣き所がバッテリーであります。アップルウォッチは原則的に毎日充電が必要だし、Wear OS系も、最強クラスのTicWatch Pro 3 Ultra GPSやGalaxy Watch 5 Proでもせいぜい2日まで。3日は持ちません。

それに対してT-REX 2はメーカー公称で24日間バッテリーが持ちます。まあ、これは機能をほとんど使わない最大値みたいなもので、実際に使っているとそこまでは持ちませんが、私の場合で15日間は持ちました(デフォルト設定で24時間付けっぱなし。2日に1回1時間ほどランニングなどをした)。日常生活でもこれだけ持ってくれれば十分と感じます。

登山では長時間GPSを動かすので15日も持ちませんが、1週間くらいまでの登山なら対応できそうです。

具体的に言うと、GPSを動かして8時間歩いたときのバッテリー消費は13%でした。GPSをオフにすればバッテリー消費は劇的に少なくなるので、登山での1日(24時間)の標準的な消費量は計算上約17%。登山で普通に使って6日は持つ計算です。

なお、デフォルトではGPSが高精度設定になっています。この設定で7時間山を歩いたら24%減りました。上に書いた13%は、低精度に設定したときのもの。通常の登山であれば、この設定でも全然問題ないくらいの精度が出たので、低精度設定で使うことをおすすめします。




【いいところ2】物理ボタンでも操作可能

T-REX 2は、100m相当の防水性、-30℃でも動作する耐寒性、米軍MIL規格準拠の耐衝撃性など、アウトドアで役立つタフネス機能を全面に売りにしています。もちろんそれらは登山の現場でありがたい機能なのですが、個人的にもっとも便利に感じたのは、物理ボタンで操作可能になっているところでした。

スマートウォッチはスマホのように画面タッチで操作するものが多いのですが、山では、画面や指が濡れていたり、手袋をしていたりなどして、タッチ操作ができないことがよくあります。

その点、T-REX 2には物理ボタンが4つも付いていて、ほとんどすべての操作をボタンでもできるようになっています。これはとくに雨の日や冬山で便利に感じるポイントなのではないかと思われます。


逆にコンディションのいいときなら普通にタッチで操作したほうがラク。状況に応じてどちらの操作方法も選べるのがT-REX 2ならではのいいところと感じます。




【いいところ3】デジタル機器としての完成度が高い

これはあくまで私が使ったことのあるスマートウォッチと比較しての話なので、アップルウォッチとかはもっといいのかもしれませんが……。

とりあえず、OPPO WatchとTicWatch Pro 3 Ultra GPSと比べると、T-REX 2の使用感の高さは断然上でした。タッチ操作がスムーズで、各種項目の表示も見やすくデザインされており、そのうえバッテリー持ちもいいときて、ストレスに感じるところがほとんどありません。

スマートウォッチを使うにあたっては、ペアリングするスマホアプリの出来も重要なのですが、こちらもとても使いやすい。さすがスマートウォッチ界で評価の高いメーカーと感じました。




【悪いところ1】デザインがごつい

外観のデザインはGショックとかプロトレックを彷彿とさせるもので、まさにヘビーデューティでミルスペックなイメージ。男子大好きという感じです。

カシオ系よりはシックにまとまっていると思うのですが、ごついことには変わりなく、好みは分かれそう。とくに女性受けはほぼ期待できないと思われます。

ライバルのガーミン・インスティンクト2もごつめではありますが、もっと角が丸いし、女性向けのカラーも選べます。T-REX 2も、もうちょっとユニセックスなデザインでもよかったんじゃないか……。




【悪いところ2】日本語化が甘い

上に書いた「逸脱追跡」のように、日本語表記が最適化されていないところがたまにあります。ほとんどは推測できてしまうので実用上の問題はあまりないのですが、積極的に変えてほしいところもあります。

そのひとつがこれ。


ワークアウトモードの選択画面なのですが、「クライミング」と「ハイキング」が並んでいます。クライミングは岩登りのことかと思いきや、内容はハイキングと同じでした。おそらくMountain Climbing(登山と同義)をカタカナ化してしまったものだと思われます。ここはちょっと混乱するので変えてほしいな。

まあ、こういう部分はスマホと同様、アップデートで修正できるのがスマートウォッチのいいところでもあるので、アップデートを期待します。




【悪いところ3】値段が高い

43,780円。これは正直、微妙な値付けと感じます。

もちろん、アップルウォッチやガーミン・フェニックスなどはもっと高く、どちらも十数万円なんてとんでもないものもありますが、それはこれまでに築いてきたブランドの信頼感あってこそ。アマズフィットというよく知らないブランドに4万超えをヒョイッと払えるかといわれると、普通は苦しい感じがします。

ガチンコのライバル機となるガーミン・インスティンクト2と価格差があまりないのも痛い。内容的には決してインスティンクト2に負けていないと思うのですが、相手はなにしろアウトドア界で圧倒的な知名度を誇るガーミン。ならばこちらはせめて3万円台、できれば3万円台前半であればよかったのですが……。

と、ここまで書いてきたところで調べてみたら、Amazonのタイムセールではこれまで2度、37,213円で売られていました。この価格なら納得できます。タイムセールは8月と9月の月末に行なわれていたので、購入を考えている人は月末をねらうことをおすすめします(10月以降もタイムセールやるかどうかは知りませんが)。



【2023.1.15追記】

Amazonやヨドバシカメラなどではだいぶ販売価格が下がってきていて、2万円台でも買えるようになっています。この価格なら文句の付けようがなし。圧倒的にコストパフォーマンス高いと思います。




総評

文句も書きましたが、総じて気に入りました。そもそも私がスマートウォッチを使い始めた理由でもあるヤマレコアプリが使えないという大難点はありますが、それを差し引いても使い勝手のよさが上回った印象です。

結果、私のメイン山時計はこれにチェンジすることにしました。せっかく買ったTicWatch Pro 3 Ultraはどうしようということになるのですが、シビアな地図読みが必要な山行専用機として生かそうと思います。



最後に、おそらく比較する人が多いガーミン・インスティンクト2との比較表を置いておきます。

インスティンクト2は使ったことがないので細かいことはわかりませんが、スペック的にはほぼ互角。ディスプレイのクオリティとタッチ操作可能という点でT-REX 2、軽量コンパクト性とSuica対応、そしてカラーやサイズバリエーションの多さという点でインスティンクト2というのが大きな違いでしょうか。あと、1万数千円高くなりますが、インスティンクト2にはソーラー充電が可能なタイプもあります。これはガーミンならではの圧倒的な魅力ですね。



Amazfit T-REX2Garmin Instinct2
本体サイズ47.1 x 47.1 x 13.65 mm45.0 x 45.0 x 14.5 mm
重量66.5g52g
ディスプレイカラーAMOLEDモノクロMIP液晶
ディスプレイ解像度454×454pix176×176pix
操作タッチパネル/ボタンボタン
防水10ATM10ATM
GPS5GNSS4GNSS(北斗非対応)
心拍計
高度計
電子コンパス
血中酸素
Suica×
ナビゲーション
駆動時間24日28日
GPS駆動時間最大58時間最大70時間






【2022.11.7追記】

T-REX2とインスティンクト2の登山での使い勝手を詳しく紹介している記事発見。細かい設定など参考になります。

アウトドアウォッチの人気機種「Amazfit T-Rex 2」と「Garmin Instinct 2」を徹底比較してみた


2018年8月2日木曜日

【登山靴レビュー】モンベル・アルパインクルーザー2000



読者還元レビュー第二弾(意味はこの記事冒頭に)。


メーカーから提供された登山用具について、忖度ぬきで正直な感想をレポートします。今回は、モンベルの新作トレッキングブーツ、アルパインクルーザー2000


提供を受けた際は、正直、まったく期待していませんでした。というのも、モンベルの靴というのは、完成度が総じて低くて、いい印象を抱いたことがほとんどなかったからです。ウエアやギアについては、あんなにスキのない製品を作れるのに、靴はどうしてこのレベルなんだろう? と疑問に思っていたくらいです。


が、このブーツは、従来のモンベル靴の印象を一変する意欲作だと感じました。モンベルの靴は明らかに変わった。開発陣の明確な意識変化が伝わってくるようです。見た目はやけに地味なのですが、中身は、今シーズンの目玉ブーツのひとつといってもいいほどの出来です。これはレポートする価値があるだろうと思い、ペンをとった(キーボードを叩く)次第です。




フィット感のよい足型の採用


従来のモンベル靴の最大の欠点は、広すぎる足型にあったと個人的には思っています。そして単に幅広なだけでなく、箱のような形というか、メリハリに欠ける足型でした。人間の足は、複雑な3D形状をしているので、それに忠実に添った足型をしている靴が「フィット感がよい」といわれるわけですが、それに対してモンベルの靴は、長靴的な雑さがありました。


幅の広さは、「幅広が多い」といわれている日本人の足に合わせた結果だとは思うのですが、それにしても広すぎた。幅広の靴は、店頭で履いたときは当たるところがなくてラクに感じるけれど、山を歩くと、足が靴の中でズレて歩きにくい。私は幅広のほうだけど、それでもモンベルの靴は広すぎると感じていました。これがぴったりくる人って、どれだけ足が広いんだろうかと。


が、アルパインクルーザー2000は足型が一変。なにより変わったのは、土踏まずからカカトにかけて。幅を絞り、左右からカカトをしっかり固定。拇指球まわりのワイズは私でも問題ない適度なゆとりを残しつつ、つま先もやや絞って指先の力を引き出す形に。要するに、スポルティバやアゾロに代表される、グラマラスで現代的なイタリアンフィットに変わったのです。


この変化は、じつは昨年から感じておりました。昨年発売されたアプローチシューズ、クラッグホッパーがこの足型でした。「あれ、モンベルにしてはやけにフィット感がいいぞ」と驚いた覚えがあります。この靴、隠れた名作でして、ガイドやクライマーなど、実際に履いた人には総じて評価が高く、私自身も際どい場所での勝負シューズとして愛用しております。モンベル靴の足型変更は、この靴あたりから始まっていたと思われます。


もっさりした鈍重なフィットから、歩行安定感の高い洗練された足型に。これが、まず指摘したいアルパインクルーザー2000の評価ポイントです。





史上最高レベルのフリクション


これがこの靴の最大評価ポイント。おそらく私は、この靴より滑りにくいソールを備えたトレッキングブーツを履いたことはありません。というくらい、この靴のソール、滑らないです。


体感的には、ファイブテンのステルスソールより滑りにくいです。ステルスソールというのは、フリクション性能に定評のあるクライミングシューズ界No.1のソール。それより滑りにくいと感じさせるのだからすごいです。


たとえば、こういう濡れた岩の上。普通のトレッキングブーツなら、ズベッと滑ってしまうところですが、アルパインクルーザーはぐぐっと粘って踏ん張ってくれるのです。実際、ここでは滑りませんでした。



ほかにも、岩やら木の根やら、登山道ではいくつもの滑りポイントに遭遇しますが、明らかに滑りにくい。もちろん限界はありますが、その限界が高いという感じ。






これがその滑らないソール、トレールグリッパー。もう何年も前からモンベルの靴に採用されているので、とくに新機能というわけではなく、知る人は知っていたのでしょうが、自分的には新鮮な驚きでした。この性能はもっと知られるべきなんじゃないの?


ソールパターンに特徴はありませんが、さわってみると、普通のビブラムソールなどよりやわらかい感じがします。粘りがあるというか。このゴム質が、滑りにくさの秘訣であることは間違いないでしょう。


しかし、やわらかいということは、減りが早いと予想されます。クライミングシューズでも、フリクションと耐久性がトレードオフということは常識。履き続けたときにどうなるかはやや疑問でもあります。が、昨年から履いている、同じトレールグリッパーソールを備えたクラッグホッパーが、まだまだ十分ということを考えれば、許容範囲の耐久性は備えていると思われます。


まあともあれ、この爆発的なフリクション性能は一度体感してみる価値はあると思います。この性能があれば、多少耐久性が劣ったとしても、個人的にはOKです。





全体のバランスはイマイチ?

いいことばかり書きましたが、もちろん完璧な靴ではありません。履いていて気になったのは、少しやわらかすぎるように感じられるところ。これはゴムのやわらかさのことではなくて、靴全体の剛性の話。





たとえば、こういう段差で、もう少しカチッと踏ん張ってほしいのですが、実際にはグニャッとヨレてしまうんですよね。とくに問題を感じるのが下りのときで、靴がやわらかすぎて足が疲れるような感覚があります。


これは、硬ければよいのかというと、そう単純な話ではありません。たとえば、私が持っているサロモンのミッドカットブーツは、アルパインクルーザーよりやわらかいですが、同じような登山道を歩いても、「やわらかすぎる」みたいな違和感を覚えることはありません。逆に、アゾロのブーツでもっと硬いものも持っていますが、これもやはり違和感はありません。


たぶん、アルパインクルーザーは、アッパーとソールの剛性バランスがよくないのだと思われます。アッパーは革製で比較的しっかりしているのに対して、シャンクを含めたソール全体が少しやわらかすぎるのでしょう。


このへんは微妙かつ感覚的な話で、私が言っていることが合っているかどうかはわかりません。しかし違和感を覚えたことは事実なので、指摘しておきました。





思うに、靴作りって、感覚的なすりあわせが重要な職人的な世界なのではないでしょうか。大資本メーカーがお金をかけて開発しても、伝統ブランドの靴の完成度になかなかおよばないのは、そこに理由があるんじゃないかと。


余談ですが、7〜8年前だったか、長年スポルティバでクライミングシューズ開発に中心的に携わっていた人がスカルパに移籍した途端、スカルパのクオリティが急上昇し、いまやファイブテン・スポルティバの2強に肩を並べるほどに成長したという事実があります。


このハイテク時代、靴作りって、まだまだこういう職人的・感覚的な部分がものをいう分野のようが気がします。モンベルも、靴メーカーとしては後発の部類。微妙な完成度を磨き上げる部分においては、まだ他メーカーにかなわないんじゃないでしょうか。ザンバランとかローバーの靴って、特別なことはなにも感じないけど、問題もなにも感じないもんね。


まあしかし、問題はあれ、トレールグリッパーソールのフリクション性能は圧倒的な魅力です。滑りにくい登山靴が欲しい人には、自信をもっておすすめできます。一度お試しあれ。




【余談】


私のアルパインクルーザーは、革の質感がちょっと違って見えるかもしれません。これは、ワックスを塗っているからです。裏出し革のブーツ(アルパインクルーザーはヌバック)にワックスを塗るべきかどうかは諸説ありますが、私は塗る派です。撥水性が高まることと、耐久性アップにも役立つような気がしています。


ただし、ワックスを塗ると見た目の印象が大きく変わって重厚な感じになるので、裏出し革の軽快な印象が好きな人は要注意です。



2017年9月18日月曜日

驚異のハイフリクションシューズ




感動した!!


いやもう、すんごいのであるフリクションが!!!!


登山道具でこれだけ劇的な効果に感激したのは、パタゴニアのナノ・エア・フーディ以来でであろうか。モンベルの沢登りシューズ、サワートレッカーRS。もっと正確にいえば、それに使われている「アクアグリッパー」というソールの威力にである!!!



これがアクアグリッパーソール



先週、群馬のナルミズ沢に沢登りに行った。沢登りに行くのは久しぶりで、私の沢用シューズはもうぼろかったので新調することにした。そこで選んだのがサワートレッカーRS。前々からラバーソールを備えた沢用シューズを試してみたいと思っていたので、これにしてみたというわけである。


とはいえ、ラバーソールの沢靴なんて使えるのか?という疑問というか不安も大きく、買って失敗という結果も半分覚悟していた。周囲で使っている人からは「けっこういい」という評判を聞いてはいたものの、沢といえばフェルトソール絶対世代の自分にとっては、ラバーソールがいいと言われたって、とてもじゃないけど信用できなかったのである。


ところが!


ホントにこれが滑らない。濡れた岩を踏んでも滑らないラバーソールなんて!! なんだこの感覚。信じられない!!! 最初はおそるおそる歩いていたが、こいつは信用できるぞ!


さらに驚かされたのは、滝を高巻いたとき。泥やヤブの急斜面の安定感たるや! フェルトソールの弱点はここで、濡れた岩の上ではいいけれど、高巻きで不安定になるのだけど、サワートレッカーRSはめちゃくちゃ安定して歩ける!


たとえばこういうシーン。トラバース斜面で笹の茎を斜めに踏みつけていかざるを得ないようなとき。登山で遭遇するあらゆる路面のなかで、もっともやっかいな一瞬といっても過言ではありません。が! ここでもグッと踏ん張ってグリップしてくれるのです。こんな靴初めて。これは驚きの体験であります。





一般登山道でも、道に横たわる木の根を踏んで、ズベッと横滑りしたこと、登山をしている人なら必ず一度は体験しているんじゃないでしょうか。だからそういうところは不用意に踏まないようにしているはずですが、このアクアグリッパーは、そんなところでもグリップしてくれるのである! これは革命ですよ、革命!

こういうところ




さらにさらに、これまたフェルトソールが苦手とするエッジングもやりやすい! だから傾斜のある滝が登りやすい!


エッジングというのはこういうやつ。小さな角にソールのエッジだけで立つこと


こういうシーンでじつに頼りになるのである



検証・フリクション


さて、問題はそれ以外の部分。沢歩きの大半を占める、ツルツルした岩にベタ置きしたときのフリクション。ここはもちろん、フェルトソールにはかなわない。とくに、コケに覆われていたり、ヌメリがある岩では、フェルトと明らかな差がある。モンベルではこんな比較表をカタログに載せています。



ただし、コケやヌメリのある岩は見ればわかるので、問題は大きくないと感じた。それに聞いていたほどコケに弱くはなく、個人的体感としてはこんな感じか(ウールフェルトは履いたことがないのでわからない)。




実際にどんなところまでOKだったか、体感を載せてみる。


これくらいの傾斜と濡れ具合なら十分いける


楽勝


左(濡れている)はOK。右の色が濃い部分は注意が必要


コケの部分を踏まなければOK


これは滑る。注意深くいけば大丈夫だけど、これ以上傾斜が強いときびしい




こんな感じかな。伝わりますでしょうか?




総評


ラバーソール、沢登りで十分使えると感じました。コケなどフェルトに劣る部分はもちろんあるのだけど、草付や泥路面での強さ・エッジングのしやすさ・一般登山道の歩きやすさは、すべてにおいてフェルトを大きく上回る。行程トータルでの安定性・快適性はフェルトより上だというのが私の感想です。


ただし、フェルトより足の置き場を正確に選ぶ必要があるので、どちらかというと中上級者向けなのかな。――と、遡行中は思っていたのだけど、あとで考え直しました。沢登りでいちばん危険なのは高巻きであり、ここでスリップして落ちて死亡という事故はあとを絶ちません。河原でツルンと滑るのはケツを打って痛いとか、せいぜい打撲や捻挫ですみますが、高巻きでのスリップは致命的です。ここで圧倒的な安定感をもつラバーソールは、むしろ初心者向けなのではないでしょうか。


ところでこのアクアグリッパー、実際に作っているのはTRAX(トラックス)というソールメーカーらしく、このメーカー、イボルブのクライミングシューズにソールを提供している会社でもあるんですよね。フリクション命のクライミングシューズ業界で生き残ってきただけに、驚異のフリクションも納得です。




ただし懸念ポイントがふたつ。


フリクション性能と耐久性がトレードオフの関係にあるのは、クライミングシューズでは常識。ゴムはやわらかく粘りをもたせればフリクションが高くなるけれど、減りが速くなる。さわってみればわかるけど、アクアグリッパーもすごい粘りのあるゴムです。どこまでもつかはわからない。ただ、フェルトだって耐久性は大して高くないのだから、ここはそんなに問題にはならないような気もする。


もうひとつは、ナルミズ沢にはマッチしていたけど、ほかの沢でどうかということ。ナルミズ沢はコケ少なめの沢だったのです。奥多摩あたりのヌルヌルコケコケの沢ではきびしかったという話も聞きます。まあ、このへんはしばらくフェルトも併用しつつ、ようすを見るという感じかな。




ラバーソール沢シューズ、別に新製品というわけではなくて、何年も前から登場しているわけで、すでに使っている人からすれば、なにをいまさらという感じかもしれないけど、あまりに感動したので興奮ぎみの文章もご容赦を。


以上、ナルミズ沢からお伝えしました!


2017年5月23日火曜日

スポルティバvsアゾロvsスカルパ履き比べ

登山ライターをしていると、「これ使ってみてください」と、メーカーから製品を提供されることがときおりあります。会社員編集者時代はこういうことあまりなかったのですが、フリーになってから明らかに増えました。


ライターというのは中立であるべき存在なので、提供を受けるときにはいつも躊躇があります。提供にあたってなにか条件があることはほとんどなく、せいぜい使用感のレポートを提出するくらいなのですが、もらってしまうとそこに人情が発生してしまうのが人間というもので、わずかながらも中立性が崩れるおそれがあるからです。


その一方で、さまざまな登山道具を使った経験というのは、アウトプットのクオリティに直結するもの。2種類の靴しか履いたことがない人と、10種類を履いた経験がある人では、靴について書ける文章の深みは明らかに異なってきます。だから、中立性をいくらか失っても経験を増やすことのほうが大事だ――と心の中で折り合いをつけて提供を受けている私であります。


とはいえ後ろめたさは正直あるので、提供によって得られた成果をここで還元することによって、その心のやましさを少しでも解消したいと思います。




ライトアルパインブーツ3種履き比べ

左からトランゴ、エルブルース、レベル


昨年、以下ふたつのブーツの提供を受けました。




どちらもセミワンタッチアイゼン対応で、雪渓や岩稜系に強い、「ライトアルパインブーツ」なんて(私に)呼ばれているカテゴリーの靴です。私が以前から愛用している「スポルティバ/トランゴS EVO GORE-TEX」の競合といえるモデルです。


昨夏から今年にかけて、山でこの3つを履き比べてみました。用途がかぶる3つの靴を同時に所有している登山者は滅多にいないはずなので、このレポートは価値があるはず。これも提供を受けなければ実現できなかったことですと言い訳をしておきます。




まずはスペック比較

トランゴ
45,360円(税込み)
重量=カタログ値700g(42)/実測値723g(42)

レベル
46,440円(税込み)
重量=カタログ値660g(42)/実測値682g(42)

エルブルース
48,600円(税込み)
重量=カタログ値800g(UK8)/実測値787g(UK8)


定価は大差なし。店頭での実売もほとんど値引きはされていないようなので、同価格帯の靴といっていいでしょう。



重さは少し差があって、エルブルースがいちばん重く、レベルがいちばん軽い。持ってみた感じや履いた体感も数字どおりに感じます。




足型

汚くてすみません


これが私の足。他の人と比較したことがないのでよくわかりませんが、幅広みたいです。足に合いやすいメーカーはスポルティバ、サロモンなど。逆に合わないのはザンバラン、ノースフェイス(細すぎる)、そしてモンベル、シリオ(幅広すぎる)など。足の実寸は約25cm、ふだんの靴のサイズは26.0cm。登山靴はだいたいEU42(26.5〜27.0cm相当)を履いてます。


さて、3つの靴の足型はこんな感じです(違いがわかりやすいようにデフォルメしています)。




トランゴは外観は細身に見えますが、ワイズ(拇指球まわりの幅)はじつはけっこう広く、私の足でもぴったりおさまります。逆に土踏まずから踵にかけてはキュッと締まっています。先端も絞られているため、キュッボンキュッというグラマラスな足型。踵がタイトでホールド性がよいのもお気に入りのポイントで、このために足との一体感がとても高く、体感重量も軽く感じます。これはスポルティバのほかのモデルでも共通している足型で、さすがクライミングシューズのトップメーカーだと感じられるところ。


次にエルブルース。方向性としてはトランゴに似ているけれど、そのグラマー加減をややマイルドにした感じ。ワイズはトランゴより気持ち狭いような気がするけれど、自分的には悪くないです。アゾロの靴はもう1足持っているけれど、それも同じような足型でした。スポルティバの足型はぴったりしすぎてやや窮屈に感じる人もいると思うので、こちらのほうが万人向けといえるかもしれません。


最後にレベル。これがいちばんストレート。悪く言えば「ずんどう」な足型。ワイズはトランゴ並みで、つま先はそれより余裕があります。そして土踏まずから踵にかけても幅には余裕があります。私の場合は、土踏まずまわりが少し余ってしまい、靴ひもで思い切り締め上げても完璧にフィットはしませんでした。甲まわりにもう少しボリュームのある人のほうが合いそうです。スカルパの雪山用登山靴「モンブラン」も似たような足型だったので、これがスカルパラストなのでしょう。


サイズは3つともEU42。どれも私にはほぼベストサイズだと思いますが、わずかな違いはあります。スカルパ>アゾロ>スポルティバという具合で、スカルパがいちばんサイズが大きく感じます。まあ、わずかな差なので気にするほどのことはありませんが、ずーっとスカルパを履いてきてこれからスポルティバに変えようという人は、念のため1サイズ上(私でいえば43)も試してみるといいかもしれません。




足首のフィット感

私はくるぶしまわりの形が普通じゃないのか、ここが擦れたり痛くなったりすることが多く、足首を動かしたときに変に当たったりしないかというのは必ずチェックするポイントなのです。


そしてこれはレベルの圧勝でした。すき間なくフィットし、しかし自在に動くこの柔軟性は、あまりに気持ちよくてクセになりそう。ストレスは完全にゼロです。というか、これより足首がフィットするハイカットブーツはこれまで履いたことがないかも。トランゴもかなりいい線いっているのですが、レベルには負けます。トランゴの発売は2005年。対してレベルは2014年。9年の間の技術の進歩というものでしょうか。

アッパーとタン(ベロ)が一体化したような独特の構造。
「ソックフィット」とスカルパでは呼んでいて、まさにソックスを履いているような感覚。


逆にエルブルースは期待外れ。3足のなかでいちばん新しい靴なのに足首にはとくに工夫が見られず、作りも履いた感じも、新しさのない鈍重なもの。フィットもよくなく、最初は痛みも出ました(タンの位置を調整したりしてごまかしているうちになじんできたのか、痛みは半日で消えました)。革新性を売りにしていたアゾロだけにここはもう少しがんばってほしかったところ。ただ、レベルとトランゴの足首が素晴らしいので辛口になりましたが、一般的な水準からいえばこれが普通です。

左からトランゴ、レベル、エルブルース。
こうして見ただけでは違いはわからないですね。




歩行感

へんな言い方になりますが、この3つのなかではエルブルースがいちばん「まともな靴」に感じました。トランゴとレベルは良くも悪くもクセがあります。


まず、エルブルースは硬い。全体に硬めの靴です。しかしソールが硬いだけでなくアッパーも硬めなので、バランスがとれています。この結果、歩行感が自然なのです。ソールが硬くて後ろに蹴り出す歩き方はしづらいので、一歩一歩踏みしめるようないわゆる「登山靴歩き」に自然となります。歩き方が自然なせいか、靴が硬いわりには、フラットな道歩きも苦になりませんでした。ソールの形状もフラットすぎず、歩行向きにチューニングされています。正統派の登山靴という印象です。


それに対してトランゴは、ソールはエルブルース並みに硬いけれど、アッパーはかなりやわらかく、いびつなバランスの靴になっています。なまじ軽くてアッパーがやわらかいため、つい「蹴り出し歩き」をしてしまうのですが、そうするとソールの硬さがじゃまをします。結果、どうもギクシャクした歩きになってしまい、そのせいだと思うのですが、フラット路面を長く歩くといつも足の裏が痛くなります。変な力が入ってしまっている証拠だと思います。しかしトランゴのこの変なバランスは意図的なものなのです。それについては後述。


あ、ちなみに、ここで「ソールが硬い」と言っているのは、アウトソールのゴム質のことではなくて、シャンクを含めた靴底の柔軟性のことです。靴の先端と踵部分を持って思いっきり曲げてみたときにどれだけ曲がるか、みたいなこと。そして、硬いとかやわらかいとか言ってますが、普通のトレッキングブーツと比べれば、この3つどれも硬いです。「硬い」「やわらかい」は3つのなかで比較した表現なのでご注意を。


さて、話を戻して、レベルはどうかというと、この手の靴にしてはソールもアッパーもやわらかく、これは意外でした。見た目的にもスペック的にも、トランゴと同じような履き心地を想像していたのですが、それよりずっとやわらかいです。雪渓の上を歩いたことはまだないのですが、急傾斜の雪渓でどうなのかな?と疑うくらい。ただしこのやわらかさのためフラット路面の歩行感はとてもよく、林道歩きも問題ありませんでした。上高地から横尾までトランゴで歩くのは勘弁願いたいですが、レベルならいけそうです。


足裏感覚(路面の凹凸などを感知できる性能)が高いのもレベルの特徴で、ふくらんだ岩や木の根を踏んだときに瞬間的に微妙なコントロールが可能です。ソールがわずかにしなって粘る感覚もあり、エルブルースやトランゴに比べて、濡れた岩や木を踏んでも突然滑ることが少ないような気がします。ただし3つのなかでサポート性はいちばん低く、ローカットシューズのような感覚すらあります。荷物が重いと厳しいかもしれません。




急傾斜地の登攀性能

ここがこの手の靴の真骨頂というべきポイント。急傾斜地での安定性を最優先に開発し、フラットな路面での歩行性能はある程度捨てているわけなので、ここがこの種の靴の価値を決めるポイントなわけです。


トランゴを初めて履いたときのことをよく覚えています。槍ヶ岳の北鎌尾根を登りにいったときなのですが、上高地から水俣乗越を越えてアプローチ。ここまではフラットでよく整備された道が中心で、足が疲れ、「うわ、この靴、失敗したかな」と思っていたんですが、北鎌沢から北鎌尾根に取り付くと印象は一変。急傾斜地や岩場での安定性は抜群で、途中の岩でボルダリングして遊んだくらいです。


ここで生きてくるのが、靴底の硬さと軽さ。急傾斜地の登りでは、靴底全体で接地できないようなシチュエーションが増え、足裏前半分だけとか、ときにはつま先だけで小さな足場に立ち込んでいくケースが増えるわけです。このとき、やわらかい靴だとぐにゃっとなってしまって不安定なんですよね。

こういう感じ。右は普通のトレッキングブーツ。
踏み込むと靴が曲がってしまって、小さい足場に立ちにくいのだ。



さてそこで、3足の靴底の硬さを比べてみました。



踵の部分を持って、思いっきり体重をかけています。それでもエルブルースはほとんど曲がりません。トランゴは少し曲がる。レベルはもうちょっと曲がる。右下の一般的なトレッキングブーツは、めちゃめちゃ曲がります。この3足と比べると、ぐにゃぐにゃというくらいです(これでも日常用の靴よりはだいぶ硬めなんですけどね)。この硬さは、雪渓を歩くときにも重要で、硬い靴ほど安定します。


ただし、硬ければ硬いほど登りやすいかというと、話はそう単純でもなく、体感としてはトランゴがいちばん急傾斜に強いです。エルブルースはがっしりした作りをしているぶん重いので、トランゴとレベルに比べると足上げの軽快性に劣るのです。急傾斜地ではこの「軽さ」はけっこう重要であります。トランゴがソールを固める一方、アッパーは軽くやわらかく仕上げているのはこのためなのでしょう。


レベルは、急傾斜地ではやや硬さが足りないように感じたんですが、やわらかいぶん、ほかのふたつより柔軟な足使いが可能です。たとえば、岩稜を歩いていて、斜めになっている場所に足をおかないといけないようなケースってよくありますよね。

こういうやつ

レベルはこれが抜群にやりやすいのです。こういう「ごまかし」の足使いができるのが、レベルの大きな魅力です。単純な急傾斜はトランゴやエルブルースより劣りますが、あらゆる地形に対応しやすいという点では、レベルのほうが岩場での実用性は高いかもしれません。なんかクライミングシューズみたいな靴です。




グリップ性

感覚的にはレベル>トランゴ=エルブルースの順。とはいえどれも大差はないです。ラバーの質の違いはとくに感じず、パターンの違いによる性能差も感じません。レベルが靴全体がやわらかいぶんやや粘ってくれる感覚があるのと、足裏感覚がいいため、突然スパーンと滑ることが少ない感じがするくらいです。


ただしここはちょっと様子見。トランゴはソールが削れてくるとグリップ性が急激に落ち、末期は危険を感じたほどだったのです。とくに木の根が露出した路面や泥の路面に弱く、雨の日に甲斐駒ヶ岳の七丈ノ滝尾根というヤブ混じりの急な道を下ったときは非常に神経を使い、かなりヤバい思いをしました。レベルとエルブルースはこれほどではないんじゃないかとは思いますが、似たような傾向にはあると思います。

左からトランゴ、レベル、エルブルース。
トランゴのソールは一度張り替えてます。



耐久性

ここについては、トランゴ以外はまだわからないのですが、おそらく、というか、ほぼ間違いなく、いちばん長持ちするのはエルブルースでしょう。なにしろこれだけがオールレザー。ソールも形状的に偏摩耗しにくそうです。


一方で、はっきりいって、トランゴの耐久性は高くありません。アッパーはとくに問題ないのですが、ソールがすぐ減ってしまうのです。軽量化とクライミング性能向上のためにパターンの浅いアウトソールを使っているため、少し減ると、前述したように急激に性能が落ちます。靴底が硬いわりにフラットな形状なので、偏摩耗しやすいのも難点です。

こうなるともう全然ダメ。驚くほど滑ります。


レベルもおそらくトランゴと同程度の耐久性でしょう。アウトソールのブロックパターンがいちばん浅いので、ソールがダメになるのも早いように思われます。


トランゴやレベルは、ある程度耐久性や汎用性を犠牲にしてもトンガッた性能を求めて作られた靴なのだと思います。「良くも悪くもクセがある」というのはそういう意味です。その点、エルブルースはエッジーな部分を抑えぎみにしてあるので、より万人向け、よりオールラウンド向けになっていると感じました。


【関連記事】
スポルティバ・トランゴS EVOのソール張り替え



用途

大きくまとめると、3つの靴の使い分けは以下のようになろうかと思います。


岩が多いルート……レベル
雪が多いルート……トランゴ
土が多いルート……エルブルース


たとえば南アルプスに行くならばエルブルースを履くでしょう。剱や穂高ならレベルかな。履いてみて初めてわかったんですが、レベルはノーマルな土の路面もそこそこいけます。以前、丹沢でレベルを履いている人を見かけて「素人はわかってないな」なんて心の中で思ったことがあるのですが、すみませんでした。


トランゴは……じつはこの靴は一般登山道ではあまりフィットするところがないのです。私は残雪期やバリエーションルート専用機として使っています。ショップやスポルティバジャパンでは「縦走をはじめとしてオールラウンドに使える靴」として売り出していますが、日本の山ではそれは当てはまらないんじゃないかと前々から思っています。普通の登山道で履いて快適な靴では決してないし、本国スポルティバの開発意図もそこにはないはずだと思うのですが……。



夏の剱岳をベースに、3つのブーツが合うコースを考えてみました。


別山尾根(剱岳ノーマルルート)
雪はなく、厳しい岩場が続く。アプローチの室堂~剱沢はマイルドな登山道。レベルで決まりでしょう。

早月尾根
ここは登ったことがないのでわからない。体力ルートなので、重荷に強く、安定感の高いエルブルースが合っているのかもしれない。下りも安心だし。

源次郎尾根・八ツ峰
難しい岩稜主体のバリエーションルート。ここはレベルの軽さとコントロール性の高さが有利かと思います。

平蔵谷・長次郎谷
いずれも急傾斜の長い雪渓を登っていって、山頂からはノーマルルートを下る。これはトランゴがいいと思います。雪渓登りの安定性と、その後の急傾斜の登山道下りのバランスにいちばん優れているんじゃないかと。

北方稜線
岩場、ガレ場、草地、雪渓など路面コンディションは盛りだくさん。迷うところだけどトランゴかな……。

剱沢~仙人~欅平
ここはエルブルースがよさそうだ。剱沢の雪渓下りも安心。その後の長い登山道歩きや水平歩道も問題なし。テント縦走などで荷物が重いときならなおのことエルブルース。




まとめ

3足履き比べて、どれがいちばん気に入ったかというと……、やっぱり愛用機のトランゴでした。なんといっても、足型が自分にバッチリ合うこと。履いていて気持ちがいいし、微妙な足場でも不安を感じにくいのは、機能差というよりも足にフィットしているからこそだと思います。クセの強いじゃじゃ馬ではありますが、こういうピンポイントな道具というのが私は好きなのです。


レベルもかなり攻めた靴で好みではあるのですが、足型の不一致が難点。ここさえ合えば、勝負靴をトランゴからこちらに乗り換えてもいいかも。雪渓上での安定性はたぶんトランゴに劣りますが、岩場での軽快性はこちらのほうが上。微妙な脚さばきを可能にするコントロール性の高さがあり、フラット路面がトランゴより歩きやすいのもいいところです。


エルブルースは個人的な好みとしてはクセが足りない。私みたいに靴を何足も持っていて、行く山によってあれこれ履き分けている人にとっては、中途半端に感じてしまうのです。ただしそれは裏を返せば、もっともオールラウンドに使える靴ということであり、他人にはいちばんおすすめできる靴ということでもあります。




ところで、トランゴは今シーズン、ついに直系の後継モデルが出ました。その名もトランゴタワーGTX。雑誌の撮影で借りたときに一度足を入れてみたことがあるだけで、詳しいことはわからないのですが、S EVOと大きな違いは感じませんでした。素材やソールは変わりましたが、基本構造に大きな変更はないようです。S EVOの完成度が高くて、改良する箇所があまりなかったんじゃないか……という気がしますが、どうなんでしょうか?




【6月3日追記】

なんとなく違和感があったのですが、いま気づきました。エルブルースの本当の競合は、スカルパでいえばシャルモ プロ GTXでしたね。スポルティバにはズバリの競合がない感じ。強いていえば、トランゴ アルプ エボ GTXですが、これはトランゴS EVOとエルブルースの中間的な性格の靴。

トランゴやレベルにズバリ競合するアゾロの靴は、本国にありました。

Climbing boot FRENEY XT GV black/silver

640gとレベルより軽量。なかなかよさそうに見えるんですが、日本国内では展開がないのです。こうして見ると、アゾロって日本には厳選されたごく一部のモデルしか入ってきていないんですね。もったいない。