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2022年8月31日水曜日

登山で使えるスマートウォッチを研究したい

 



昨年から登山でスマートウォッチを使うようになりました。理由は、「歩きながらすぐに地図を見たい!」

そんなの紙地図かスマホを胸ポケットあたりに入れておけばいいんじゃないのと思われるかもしれませんが、それだと、①ポケットから取り出す ②画面ロックを解除する(紙地図なら広げる)と、少なくとも2アクションが必要になります。一方、腕時計だと、手首をひねるだけの1アクション。しかも両手がふさがっていたとしても問題ありません。

私は行動中に頻繁に地図を見ないと落ち着かない人間で、できれば15分に1回は見たい。「地図を見る」という些細な動作でも、15分に1回やるとなると、できるだけ省力化したいわけです。そこで、スマートウォッチを活用することを思いつきました。



まずはOPPO Watchを購入

そこで昨年入手したのが、OPPO Watch(41mm)というやつ。いま(2022年8月末)はディスコンになっていますが、私が買った2021年9月には13,000円くらいで新品が買えました。



これを選んだ理由は単純。Wear OSで動くもののなかでいちばん安かったからです。スマホがiPhoneだったらApple Watchを買えばいいのですが、私のスマホはAndroidなので、それに対応したWear OSモデルしか選択肢がありませんでした(私が見たいヤマレコマップは、Wear OSかApple Watchでしか動作しない)。


で、1年近く使ってきましたが、結論を言えば、使い心地はイマイチ、というかあんまりよくありませんでした。

よくなかった理由は2つあります。

ひとつは、画面が小さくて表示が見にくいこと。これは通常使用ならそれほど問題にならないんじゃないかと思いますが、老眼にはキツイ! 私は山では老眼矯正が弱めのコンタクトレンズを使っていることもあって、肝心の地図が見にくいのです。

もうひとつはバッテリー。30時間くらいしか持ちません。日帰り登山なら問題ないのですが、1泊の山行となると、2日目の行動中にバッテリーが切れてしまいます。モバイルバッテリーを持っていれば充電も可能ですが、専用のケーブルが必要だったりして面倒くさい。



TicWatch Pro 3 Ultra GPSに買い換え

そこで最近、冒頭の写真のモデルを買い直しました。TicWatch Pro 3 Ultra GPSというやつです。


実を言うと、新しく出るGalaxy Watch 5 Proがバッテリー持ちがいいらしいという噂だったのでその発売を待っていたのですが、どうも価格が6万円くらいになるようなので見切り、TicWatchを買いました。Mobvoiという聞いたことなかった中国メーカー製ですが、スマートウォッチ界隈ではすでに定評ある会社みたいです。




ご覧のとおり、OPPO Watchに比べて画面が大きく、地図の見やすさは確実に上がりました。なので見やすさ問題は解決。

さらにこの機種は、バッテリー持ちのよさが売りでもあります。バッテリー容量は、OPPO Watchの300mAhに対して、こちらは577mAh。2倍近いです。メーカー公称では72時間もつと言っています。山での実使用では72時間はキツイ感じですが、50時間くらいは十分もつ印象です。これでもまだまだ足りませんが、私の山行は1泊以下が8割を占めるので、実用上はとりあえずよしとしました。



とはいえいろいろ問題もある

ということで、TicWatchにはひとまず納得しているのですが、不満はもちろんあります。

せめて1週間くらいはバッテリーがもってほしいし、使い勝手や機能的な面でも洗練されているとはいえず、それまで使っていたカシオのプロトレックなどに比べると、常用機械としての完成度は比べものになりません。なんだか10年くらい前のAndroidスマートフォンみたいなスキだらけの製品です。ただしこれはTicWatchのせいではなく、Wear OSのせい。Wear OSというのは、まだまだ発展途上のものなのだと感じます。

私はヤマレコの精度の高い地形図を見たかったのでWear OSモデル一択だったのですが、地形図は必要ないという人なら、HuaweiXiaomiのスマートウォッチ買ったほうがよっぽどいいんじゃないかなと思います。これらはシンプルな独自OSで動くので、バッテリーが1週間とか2週間とか余裕でもつそうです。ヤマレコなどのアプリは入れられませんが、歩数や心拍、血中酸素飽和度、睡眠計測などの機能は十分備わっています。それでいて安いしね。



情報募集します

スマートウォッチのことを調べていて気づいたのですが、登山でのスマートウォッチの使い方や選び方などは、意外と情報がありません。とくにWear OSについては情報が乏しいです。

スマートウォッチに対応している登山アプリはヤマレコとYAMAPのみ。YAMAPはカシオの古いスマートウォッチでしか動作せず、Apple Watchに対応したのもつい最近の話です(この8月から)。そもそも使っている人が少ないのかもしれません。

なので、「これを使ってます」とか「ここがダメでした」とか「こういう使い方をオススメします」とか、なにかご意見ご感想をお持ちの方は、下のコメント欄に書いてもらえるとうれしいです。

スマートウォッチって多機能すぎるうえにメーカーも乱立していて、私もよくわかっていないんですよ……。ガーミンのInstinctとかよさそうだなと思うのですが(ヤマレコには対応していないですが)、具体的にどういいのかはよくわかりません。使っている方は感想いただけると助かります。

現状はいろいろ問題はあれ、スマートウォッチには可能性を感じてもいるのです。数年後には、プロトレックやスントが築いた登山用ウォッチの圧倒的牙城を突き崩す存在になり得るとも思うので!



【追記】

Amazfitの最新モデルを提供いただいたので詳しくレビューしてみました。

【スマートウォッチレビュー】Amazfit T-REX 2は登山で使えるか

【スマートウォッチレビュー】Amazfit GTR4を登山で使ってみたところ...



【追記 2022.11.2】

登山で使える時計についてさまざまな記事を読みあさっていましたが、いまのところ最も優れた記事はこれです。情報量がものすごく多く、しかしどれも「登山で使えるか」というところにフォーカスして語られているので参考になります。唯一の難点は、紹介されている時計が高価なハイエンドモデルばかりだということ。値段もひとつの判断材料として論じてほしかったな。

一度着けたらもう外せないアウトドアウォッチの賢い選び方と、実践的おすすめの6本【あると無いとで山登りが変わる】 - Outdoor Gearzine "アウトドアギアジン"



【追記 2023.8.17】

TicWatch Pro 3 Ultraの後継機種が出ました。Pro 3 Ultraで不満に感じていたところがかなり解消されていて、完成度が高まっております。こちらでレビューを書きました。

地形図が見られる最新スマートウォッチ、TicWatch Pro 5を登山で使ってみた!



2022年8月18日木曜日

日本海~太平洋 大縦走コースをいろいろ考えてみよう

トランス・ジャパン・アルプス・レース(TJAR)2022が終了しました。

これまでもいろいろなところで書いてきましたが、このレースはもともと、「日本海から太平洋まで、山岳地帯をつないで歩き通してみたい」という、創始者の岩瀬幹生さんの思いから始まっています。

しかしそれは岩瀬さんのオリジナルな思いではありません。TJARのようにスピードを追求したりはしないものの、それ以前にも多くの人が独自にチャレンジをしてきた歴史があり、山好きなら一度は夢見る、いわば定番的「夢の縦走」でもあるのです。

日本海から太平洋、そこでどのようなコースをとるか。TJARのコースはその一例に過ぎず、ほかにも選択は無数に考えられます。これを考えることは実行することに劣らず面白い作業でありまして、そこには実行者それぞれの個性や工夫が如実に表れます。


そこで以下、さまざまなコース取りを机上で考えてみることにしました。



TJARコース


登山道総距離:188km

ロード総距離:206km

コース総距離:394km

標準所要時間:30日

通過する3000m峰:5(6)山

通過する日本百名山:9(11)山

*登山道総距離はヤマレコ(ヤマプラ)、ロード総距離はYahoo!地図で算出

*「3000m峰」は、国土地理院「日本の山岳標高一覧」に掲載されている21山を対象とした

*「標準所要時間」は、登山の一般的コースタイム+ロード区間は毎時3kmのスピードとし、1日の行動時間を7時間とした場合の所要日数

*以下同



ご存知、TJARのコース。いまや日本海~太平洋で、もっとも有名なコースがこれになるのでしょう。

しかしこのコースは、多くの日本海~太平洋縦走コースのなかでは、やや例外的といえます。その例外性が明確に出ているのが、早月川河口からの剱岳スタートとしているところ。このコース取りをしているのはTJAR以外では聞いたことがありません。

どうしてこうなったかというと、TJARコースは「可能な限りスピードが上がるコース」を追求して組まれたコース取りだから。

創始者の岩瀬さんはもともと、泊海岸から朝日岳に登り、後立山連峰を南下し、槍ヶ岳の後も西穂高岳まで縦走して上高地に下りるコースを試していました。しかしそれだと9日3時間かかっていました。さらにこれを短縮して1週間で踏破することができないか。それを模索した結果、現在のTJARコースに落ち着いたというわけです。

ところで、TJAR公式では総距離415kmと謳っていますが、私の計算では394kmになりました。まあ、このへんは誤差と思ってください。それから、「通過する3000m峰」を「5(6)山」としているのは、TJARでは槍ヶ岳の山頂直下を通るものの、山頂は通常踏まないから。3000m峰ではありませんが、黒部五郎岳も同様です。それぞれ往復30分~1時間かけて山頂を踏めば、「通過する日本百名山」も11山になるという意味です。





3000m峰踏破コース


登山道総距離:299km

ロード総距離:196km

コース総距離: 495km

標準所要時間:44日

通過する3000m峰:16山

通過する日本百名山:17山


日本海から太平洋を歩くにあたり、コース設定になんらかのテーマを設ける人が多いですが、そのなかでもっともポピュラーなテーマが「3000m峰をすべて踏破する」というもの。

それにはおおむね上の地図のようなルートが基本となりますが、細かいコース取りは人によってそれこそ千差万別。上の地図では親不知スタートとしていますが、これでは3000m峰の立山は通らなくなってしまうので、白馬岳から黒部川を渡って立山側にコースをつないだりする人もいます。

そのほかにも、上記モデルコースには、前穂高岳、仙丈ヶ岳、農鳥岳、悪沢岳の3000m峰が含まれておりません。 あくまで3000m峰全踏破を重視する人は、一筆書きルートにこだわらないとか、少し変則的なコース取りをするなどの工夫が必要です。





登山道重視コース


登山道総距離:326km

ロード総距離:143km

コース総距離: 469km

標準所要時間:40日

通過する3000m峰:12山

通過する日本百名山:16山


できるだけ車道を歩かずに、登山道を長く歩きたい。これは登山者として自然な感情。これをテーマとして設定されたのが上のコースです。

ポイントは、中央アルプスを通らずに八ヶ岳経由としているところ。北アルプスと中央アルプス、そして中央アルプスと南アルプスはそれなりに離れており、ここでどうしても長い車道歩きが発生してしまいます。そこを八ヶ岳経由にすると、前後の車道区間を最小限にすることができるわけです。上高地からは徳本峠を越えて松本に下りる設定にしているのもポイントのひとつ。

このコース、ワンプッシュ49日間で歩き通した人知っています(富士山には寄らないコースでしたが)。当時28歳、登山歴6年の女性。しかも単独。つまり、日本海~太平洋はTJAR戦士のような猛者だけのものではなく、時間さえかければだれでもできるということなのです。





変わり種パターン


変わったところでは、こういうのもあります。日本アルプスを一切通らずに、上信越国境主体で徹底的に山中を行くコースです。登山道とロードの距離などは調べていませんが、興味ある人は調べてみてください。おそらく驚異の登山道率(9割超え?)になるんじゃないかと思います。

コースは、新潟県柏崎海岸からスタートし、越後駒ヶ岳に入山。以降、新潟・群馬・長野・埼玉・山梨の県境を進むというものです。登山道があるところばかりではないので、ヤブこぎして進まないといけない箇所もあります。とくに、西上州付近はなかなか大変だろうことが予想されます。

ちなみにこれもやった人います。35年前にひとりの男性が完歩しています。しかしワンプッシュではなく、32区間に分けて、7年かけてつないでいます。こういうふうに、分割して少しずつ歩くという手もあるわけです。






私の知る究極の変態コースがこれ。東経137度線に沿ってまっすぐ進むというものです。

スタートは愛知県西尾市一色。そこから東経137度線の東西各1kmにおさまる範囲で、最後は能登半島輪島市白米町の海岸まで北上していきます(海洋上を通る能登島部分のみフェリー使用)。2kmの幅が許されているとはいえ、地形とはまったく関係ない地図上の直線をたどらなくてはいけないのだから、かなりの困難が予想されます。

これも実行者います。1980年、ひとりの男性が(部分的に同行者あり)ワンプッシュ39日間で歩いています。歩行中は「登山者というより浮浪者に近かった」そうです。




ということで、これらのほかにもまだまだ未踏のクリエイティブなラインが存在することと思います。地図を眺めながらあれこれ想定してみるのも面白いんじゃないでしょうか!?



2019年7月25日木曜日

登山地図を見るために(だけじゃないけど)機種変更しました




最近、スマホを機種変更しました。ずっと使っていたiPhone SEから、Galaxy A30という機種に。iOSはとても気に入っていたのだけど、のっぴきならぬ事情からAndroidに復帰です。


機種変更の最大理由は画面サイズ。iPhone SEは4インチという、いまどき珍しいほどの小ささ。片手におさまるコンパクトサイズはとても使い勝手がよかったのだけど、だけど……、画面が小さくて見えなぁーーい!(バサーッ!!)


老眼が進んでつらくなってきたのです。年配の方が電車内などでタブレットを使っている理由がわかりました。


新しい機種は、画面サイズ6.4インチ。もういっそのこと、いちばんデカいやつにしてやれと思い、現行品のなかでは最大クラスのGalaxy A30にしました。iPhoneにもXS MAXという画面6.5インチのモデルがあるのですが、いかんせん高すぎる。12万円くらいします。それに対してA30は3万円ほど(UQモバイルで購入)。


画面拡大効果は上の写真を見てもらえば一目瞭然で、地図の見やすさ・情報量が圧倒的。これだけで変えてよかったと思えます。画面の面積比でいえば、A30はSEの2.2倍ほどもあります。すなわち2倍以上の情報が表示できるわけです。山でスマホ地図を見るとき、これまでは狭い窓からのぞきこんでいるような窮屈さを感じていたのですが、だいぶマシになりそうです。


あとは防水機能。山で使うことを考えると、やはり防水性は欲しいです。iPhone SEは防水機能がないので、雨のときに取り出すのは躊躇していました。auとかUQモバイル版のA30はけっこう強力な防水性を備えているので(SIMフリー版は防水防塵機能がないので注意)、雨のときも安心して使えそう。それからホントかどうか知らないけど、防水・防塵機能を備えていると、低温にも強くなると聞いたことがあります。私のSEはバッテリーがへたっていることもあるけど、冬山に持っていくとあっという間に落ちたりして困ってました。A30がどうかはまだわからないけど、冬山でのバッテリー持ちも期待しています。


が、ひとつ問題が。




A30はデカすぎて、いつもスマホを入れているショルダーポーチに入らないのです。




歩行中にもスマホやカメラをすぐ取り出せるショルダーポーチは自分的には必携装備。いくつか持っているのですが、そのどれにも入りませんでした。


そこで、ショップ店頭で実際にA30を片っ端から入れてみて、入るものを探したのだけど、このサイズになると入るものが少ない! 選択肢は実質的に2つくらいに限られました。


最終的に選んだのがこれ

ミレーのヴァリエポーチというやつ。




今まで使っていた同じくミレーのヴォヤージュパッデッドポーチ(右)と比べると、えらくデカくなってしまった。A30を入れることだけを考えると、もう少しコンパクトなほうがいいのだけど、なにしろ選択肢が少ないのでしかたがない。




デカいぶん、Galaxy A30も余裕で入ります。2ポケットタイプなので、コンパクトカメラも同時に入れられます。エナジーバーなどの行動食なども入りそう。しばらくはこの組み合わせでやってみます。



あ、ちなみにiPhone SEも引退はしてません。LINEモバイルのいちばん安いプランのSIMカードを入れて予備として利用しています。A30はau回線で、LINEモバイルはドコモ回線なので、山での通話可能範囲が補え合える。2台あれば、1~2日の山行ならモバイルバッテリーを待たなくても行けそうなので、わりといい運用方法なのではないかなと思っています。



2018年8月23日木曜日

道迷いを防ぐ地図の使い方



8月11日の山の日、八ヶ岳の赤岳天望荘で、ちょっとしたトークショー的なことをやりました。じつは2年前にもやっていて、今回が2回目(前回のテーマは写真撮影のノウハウ)。せっかくスライドまで作ったので、ブログにも置いておこうと思います。




小屋の貼り紙には「地図読み」とありましたが、実際に話したテーマは「山での地図の使い方」。等高線を読んだりコンパスを使ったり以前の、基本中の基本みたいなことにしぼりました。ちょっと基本的すぎてつまらないと言われるかな~と心配もしたのですが、結果としては、それほど退屈することもなく聞いていただけたようでよかったです。


お客さんというか聴衆は、当日、天望荘に宿泊していた方々。トークショーは夕食をはさんで2回やったのですが、どちらも30~40人くらいで、計70人前後でしょうか。当日の宿泊客は180人くらいだったので、半分近くに出席していただけた感じかな。


夏の八ヶ岳って最近あまり行っていなかったのだけど、若い人が多くて驚きました。中心的な年齢層は30代って感じで、しかもカップルで来ているような人が多い。宿泊客も同様で、山小屋にこんなに若い人が泊まっているのは他の山域ではあまり見られない光景。一方で、身につけている道具や歩き方を見ていると初級者っぽい人が多く、「高い山エントリーは八ヶ岳」というイメージはがっちり定着しているのだなと感じました。




地図、持っていますか?

お客さんの登山レベルを測るために、まずはこんなことを聞いてみました。




持っていると答えた人には、どんな地図を持っているかも聞きました。


結果は以下のような具合:

『山と高原地図』などの登山地図……7割
観光マップ的なもの……2割
持っていない……1割


そして25000分の1地形図は、2回約70人中、なんと1人! まあ、夏の八ヶ岳だから、しかも山小屋泊まりだからだとは思いますが、それにしてもたった1人とは。地形図の存在自体を知らない人もけっこういました。少なくとも夏の一般登山においては、地形図というのは存在意義を失いつつあるのだなとあらためて感じた次第であります。


電子地図については、聞くのを忘れました。スマホで地図を見ている人もそこそこいたはずだと思うのですが、うっかりしてました。後悔。





次に聞いたのはこれ。


行動中、地図をどこに携帯しているかということ。


結果は以下のような感じ:

シャツやズボンのポケット……4割
ザックのウエストベルトポケットやショルダーポーチなど……3割
ザックの中……3割


後述するのですが、地図は見たいときにすぐに見られるようにしておくことがとても重要で、歩きながら簡単に取り出せる所に携帯するのは鉄則。ザックの中(雨蓋ポケットの中も同様)というのは論外なのであります。




ちなみに私が入れているのはもっぱらここ。


ザックのショルダーベルトに付けられるポーチの中です。ポーチを使わないときは、シャツの胸ポケットかズボンのサイドポケットに入れてます。ズボンのサイドポケットとは、カーゴポケットのように太もも部分横に設けられたポケットのこと。かさばらない地図ならば、意外と歩行のストレスにはなりません。


私の場合、ポーチはスマホ入れ(ときにはコンパクトデジカメ)がメインの用途なのですが、このミレーのポーチは2ポケット構造になっていて、片方にスマホ、もう片方に地図や行動食などと使い分けられる便利なもの。類似製品があまりなく、気に入ってます。







ザックのウエストベルトポケットももちろんいいんですが、大型ザックをのぞけば、地図を入れるにはやや容量不足で、使いにくい場合が多いかな~


余談ですが、写真に写っている地図は、国土地理院地形図をパソコンでプリントしたものを、ファイントラック・ドライレイヤーのパッケージに入れたものです。パソコンプリントの地形図は濡れや擦れに弱いので、袋に入れる必要があるのですが、ドライレイヤーのパッケージ袋が、サイズといい強度といい、ちょうどいいので愛用しています。ジップロックでもいいのですが、ドライレイヤー袋のほうが耐久性で勝るので繰り返し使えてGood。数年前に買ったものなので、ファイントラックがいまもこのパッケージを使っているか未確認ですが、オススメです。





事前に地図を見ておくことがすべて



さて、ここからが本題。


道迷いを防ぐための基本その1はこれです。「その1」というか、これさえしっかりやっておけば、道迷い対策の半分以上は終了といっていいくらい。もっとも基本であり、もっとも大切なことです。


やることは単純。地図上で、予定のコースを目で追ってみるだけです。



たとえば今回、私は、美濃戸口から入って、美濃戸→赤岳鉱泉→行者小屋→地蔵尾根→というコースで、赤岳天望荘に行きました。帰りは、赤岳→阿弥陀岳→御小屋尾根→美濃戸口というコースで下山です。


このコースを、出かける前に地図上で追ってみるのです。とはいえ、漫然と地図を眺めればよいというわけではありません。地図上を歩いているつもりで、スタートからゴールまでじっくり見ることが大切です。



たとえばこのように。


美濃戸口をスタートして、まずは美濃戸山荘や赤岳山荘のある場所(美濃戸)まで。ここをじっくり見てみると、いろいろなことがわかります。

・美濃戸口から歩き出すと、ほどなくして川を渡る
・美濃戸口から1時間歩くと、美濃戸に着く
・そこまでは車道表記があるので、車も通る道のようだ
・美濃戸には山荘が3軒あって(やまのこ村、赤岳山荘、美濃戸山荘)、駐車場もあるらしい





次の区間、美濃戸から赤岳鉱泉まで。ここでわかることは:

・美濃戸を出たら、道がヘアピンカーブ状に曲がっているところがある(ショートカットもできそうだ)
・50分ほど歩くと、「堰堤広場」という所に着く
・そこで道は二手に分かれ、自分が行くのは左手の道
・堰堤広場から1時間10分歩くと、赤岳鉱泉に着く
・地図の地色がだんだん濃くなっているので、登り傾斜の道であろう
・赤岳鉱泉の標高は2220mであるらしい
・赤岳鉱泉にはテント場もある





次は、赤岳鉱泉から行者小屋まで。

・35分ほど歩くと「中山乗越」という所に着く
・そこからは、「中山展望台」という所に行く道が分岐している
・中山乗越から10分ほどで行者小屋に着く
・行者小屋にはテント場もある
・行者小屋は、四方から登山道が交わる交差点のような場所になっている
・さらに地色が濃くなってきたので、標高もかなり上がっているのだろう





最後、行者小屋から赤岳天望荘まで。

・地蔵尾根という所を1時間25分登ると、「地蔵の頭」に着く
・そこから赤岳天望荘までは5分ほど




――帰りの道は省略しますが、こういうことを全行程にわたって行なっておくのです。予定コースの長さにもよりますが、じっくりやれば、15分くらいはかかると思います。15分かからずに見終わってしまったとしたら、それはたぶん見方が足りていない。腰を落ち着けて、再度集中して、地図に書いてあることを丹念に追ってみてください。現地の風景や登山道のようすを想像しながら行なうとさらによいです。


この作業が終わったら、地図はしまってOK。地図で見たことを無理に記憶する必要はありません。細かいことは忘れてしまっても、大まかなコースイメージが頭の中にできあがっているはずです。これが重要なのです。




行動中も地図をひんぱんに見る


基本その2はこれです。


要するに、行動中もひんぱんに地図を見るクセをつけようということです。トークショーなので、記憶に残りやすいように「30分」と記しましたが、この数字にこだわる必要はないです。地図をちゃんと利用していれば、平均的にそれくらいの頻度で地図を見ることになるはず、という目安と考えていただければ。


歩いているときに、「地図に書いてあったあの分岐はまだかな」とか「なんかへんだな」と感じたら、すぐに地図で確認。これを面倒くさがらずにやるべし。


基本1は、事前に正しいイメージを作ることで、現場でズレたときに「なんかへんだな」という違和感を察知するために必要な作業であり、基本2は、その違和感が気のせいなのか、それとも本当にコースロストしたせいなのかを確認する作業というわけです。


確認の頻度は高ければ高いほどミスの早期発見につながるので、苦にならなければ、30分といわず15分でも5分でもいいです。私は平均的に15分に1回くらい。以前、取材でいっしょに山を歩いたことのあるアドベンチャーレーサーの田中正人さんなんぞは、それこそ15秒に1回くらい見てました(道のないヤブ山でしたが)。


歩きながらでもすぐに取り出せる場所に地図を携帯すべしというのは、このために重要なのです。なにか確認したいことがあっても、地図をザックの中に入れていたら、よほどのことでないかぎり、わざわざザックを下ろして地図を取り出す気にはなりませんよね。「まあ、いいか」と確認しないまま歩き続けることがほとんどだと思います。で、いつの間にか道迷いの泥沼にはまっていく……というのが、よくあるパターンなのです。





やるべきことは以上です


私がトークショーで伝えたかったのは、この2つだけ。あまりにも単純ですが、しかし、これこそが「地図読みの極意」だと私は考えています。


事前に地図を見てコースのイメージを頭に入れておき、
行動中に違和感を覚えたらすぐに地図で確認する。


これだけです。


地図読みがうまい人もやっていることは結局これなんです。事前に「ルートプラン」を立てて、行動中に「アジャスト」し続ける。等高線で微妙な傾斜を読み取ったりして、それをより精度高くやっているだけです。


ところが、こんな単純なことでも、これまで私がいっしょに山に行ったことがある人のうち、この2つをやっていた人は3分の1くらいしかいませんでした。私は職業柄、山慣れた人と行くケースが比較的多いと思うのですが、それでも3分の1です。残りの3分の2は、この基本中の基本をやっていませんでした。


仮に、世の登山者の全員がこの2つを実行したとしたら、道迷い遭難は現在の半分になるのではないかと思っています。それくらいの効果は余裕であるはず。それに対して、さまざまな地図読み技術やコンパス技術が道迷い防止に寄与する割合は、せいぜい2割くらいに過ぎません。だれでもできて5割の効果があることと、習得が難しくて2割の効果しかないことのどちらが重要か。


ーーそういうことが、トークショーで伝えたかったことです。





スマホGPSを使おう

が、これだけのことでも、やらない人、できない人はいるだろうとも思っています。


地図読みって、才能があると思います。才能というより、向き不向きというか、好き嫌いというか。地図に向いていない人、どうしても興味がもてない人っています(私の妻とか)。そしてそれは、登山の技術レベルの高低と必ずしも一致はしていなくて、登山がうまい人でも地図読みは下手という人は珍しくありません。


私は地図得意なのですが、考えてみれば、子どものころから地図が好きでした。学校の社会の時間とか、授業聞かずに地図帳をずっと眺めているような子どもでした。今でも、無味乾燥な国土地理院地形図1枚を、飽きることなく30分は余裕で見ていられます。


一方で、天気図はいまだに読めません。天気図から気圧配置を読み取って今後の天気を予想することは、地図読みと同じくらい登山に重要な技術と昔からいわれていますが、なぜか興味が持てず、そのためにいまだに気象のことはよくわからないのです。


地図読みもこういうことなのだろうなと思います。重要だとわかっていても、興味が持てないことにはどうしても取り組むことができない。仕事ならともかく、登山なんてしょせん趣味(私は仕事でもありますが汗)。楽しく感じられないことにやる気が起きない気持ちは、天気図のことを思えば私もよくわかります。




がしかし、やらないことによって生じる問題は解決したい。ならどうするか。


そういう人はGPS(スマホアプリ)に頼ればいいんだと思います。



以前は、GPSに頼るのは現実的な解決策ではなかったので、私も、どんなに地図が苦手な人でも、山に登る以上、上述の2ポイントだけはやってくれというスタンスでした。しかしここ数年、スマホの普及とアプリの発達によって考えを変えました。


これにも書きましたが、登山用のスマホアプリは、いまやカーナビ並みの性能と使いやすさになっています。「道迷い遭難を防ぐ」という観点に立てば、イヤイヤ地図の使い方をマスターしようとするくらいなら、素直にGPSに頼ったほうが、はるかに得られるものは大きいです。実際、地図の読み方がほとんどわからない人でも、スマホアプリを使うだけで、道迷い遭難のリスクは半分になると思います。それくらいの威力は絶対あります。


もはや「地図読み」は終わった技術なのかもしれない


それと、ほとんど指摘されることがないのですが、電子地図にはもうひとつ大きなメリットがあります。老眼にやさしいということです。私も2~3年前から老眼が進んできて、地形図の細かい等高線を読むのがきつくなってきました。薄暗い樹林帯などではなおさらです。その点、電子地図なら拡大が自由自在のうえ、つねにバックライトで照らされているので、暗い場所でも見やすい。これは中高年には見逃せない大きな利点となるはずです。




登山者によく使われているスマホアプリは上の4つが代表的なところでしょうか。「山と高原地図」以外は無料で使えます。それぞれ一長一短ありますが、大差はないようなので、好きなものを使えばいいと思います。

山と高原地図
YAMAP
ヤマレコMAP
ジオグラフィカ


私は「山と高原地図」を使っています。職業柄、山と高原地図は必携資料なので、定額制の「山と高原地図ホーダイ」に入っており、全国の地図が使えるので、ならこれ使うかというだけの理由。ログをとったり地図上でルートを作成したりなどの機能は一切使っておらず、現在地確認に使っているだけです。


山と高原地図アプリの画面。「コレ」と記した青いマークが現在地表示です



ただし、スマホアプリには当然、弱点もあります。最大の問題はバッテリー切れ。地図を読めない人が山中でスマホのバッテリーが切れたら、その瞬間に丸腰状態、無力になるわけですから、バッテリー切れはなんとしても避けなければなりません。



そのためにするべきことがこのふたつ。スマホアプリは、電波圏外でも機器内蔵GPSで作動してくれるので、山中では「機内モード」など、バッテリーを節約する設定にすることをおすすめします。もうひとつは、モバイルバッテリーを持ち歩くこと。見落としがちなのが接続ケーブル。バッテリーは持っているけどケーブル忘れたとか、ケーブルが断線していたなどのトラブルはあり得ます。私はそうしたトラブル防止のために、バッテリーを入れている袋に、ケーブルを常に2本入れておくようにしています。あと、もちろん、スマホやバッテリーの防水にも気を遣う必要がありますね。


以前は、軽くはないモバイルバッテリーをスマホだけのために持ち歩くことには抵抗があったのですが、最近はヘッドランプやデジカメも充電式が増えたので、それらの予備バッテリーも兼ねると考えれば、気にならなくなりました。ただしそれぞれ端子が違う場合はアダプターも忘れずに。詳しくは知らないのですが、電圧等による相性?もあるようなので、無事に充電できるか事前のテストもこれまた忘れずに。


ところで、「機械に頼ると、壊れたりバッテリーが切れたときにどうするんだ」ということが登山では昔からよくいわれます。そう聞くたびにモヤモヤしたものを感じていたのですが、以前、GPSの記事を書いたときに、ジオグラフィカの開発者とツイッターでやりとりしたことがあり、それを通じて、「どうするんだ」に対する反論が私の中では明確に整理されました。











……ここまでで、トークショーで話したことの半分。この後にオマケ的な道迷い防止の小ネタをやりました。しかしえらく長くなってしまったので、そちらは次回にまとめます。それにしてもトークの情報量ってすごいですね。ここまでで30分ほどだったのですが、文字量にするといったい何字になっているのでしょうか。


ところで、私のトークショーとはまったく関係がなく、たんなる偶然なのですが、いま発売中の『山と溪谷』で、読図入門特集をやっています。この特集、これまでになく電子地図に踏み込んだ内容で、画期的といえると思います。








【2018.8.29追記】

こんな記事を発見しました。上に紹介した4つのスマホアプリをかなり詳しく比較しています。


登山用のGPS地図アプリを徹底比較!特徴とおすすめポイントを解説!


さらに、PEAKSの2018年9月号と、山と溪谷の2017年9月号では、実際に山でスマホアプリを使い比べてみた記事が載っています。現場の使い勝手やバッテリー消費のことなど参考になります。