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2022年6月2日木曜日

アルパインクライミングとバリエーションルートと本チャンの違い

ロープやクライミングギアを使うなど、普通の登山と比べて難しい登山行為をなんと呼ぶか。いろいろ呼び方はあるのだけど、そのそれぞれが人によって少しずつ認識がズレていることを感じる機会がしばしばあるので、ここで整理してみようと思う。



アルパインクライミング

急峻な岩場や雪、氷などが出てくる難しい山を登ること。



マッターホルンやアイガーなど、ヨーロッパアルプスの山がまさにこれに当てはまります。アラスカやロッキー山脈、南米のアンデス、ニュージーランドのサザンアルプスなどもそうですね。ヒマラヤでやっていることも大きくとらえればアルパインクライミングといえるのですが、8000mなど標高が高くなってくると独特の行動様式やスキルが必要になってくるので、そこは「高所登山」として分けて考えるほうがよいと思います。

日本でアルパインクライミングに相当するのは、まずは冬の岩壁登攀。「冬壁」などといわれるやつです。剱岳や穂高、谷川岳、八ヶ岳などが代表的。

剱岳の岩壁や岩稜は、夏でもアプローチにそこそこの雪上技術を要求されるので、アルパインクライミングといっていいと思います。一方で、瑞牆山のマルチピッチルートなどは氷雪要素ゼロなのでアルパインクライミングではない。夏の北岳バットレスや谷川岳一ノ倉沢などもアルパインとはいいにくいけど、わずかに簡単な雪渓があったりもするので微妙なラインといえなくもない。――という感じ。


瑞牆山のマルチピッチルート


夏の谷川岳一ノ倉沢


これは夏の剱岳八ツ峰




バリエーションルート

ノーマルルートの対概念。

登頂しやすい一般的なルートがまず存在することが条件で、それ以外の登路をバリエーションルートと呼ぶ。

たとえば槍ヶ岳でいえば、もっとも登りやすいノーマルルートは、槍沢(もしくは飛騨沢)~山頂。それに対して北鎌尾根はバリエーションルート。登山道がなく、北鎌尾根でもない場所を千丈沢かどこかから適当に登ってもそれはバリエーションルート。

ここには、雪や氷があることとか、クライミング技術が必要とかの条件はありません。その意味では、沢登りは多くの場合、バリエーションルートに当たります。「多くの場合」と書いたのは、まれに、山頂に達するにもっとも容易なルートが沢登りになる山もあるからです。


ここで説明のために極端な例をあげましょう。

下の写真は私が昔登ったアフリカの岩山ですが(サントメ・プリンシペ民主共和国のピコ・カン・グランデ663m)、私たちが初登頂であり、いちばん簡単そうなところから登ったので、やってることはクライミングそのものではありますが、「バリエーションルートを登った」とはいえません。

近ごろ、欧米のクライマーが数パーティ訪れて私たちよりはるかに難しいルートで登頂に成功しています。彼ら彼女らが登ったのがバリエーションルートということになります。




逆の極端な例をあげると、高尾山北面の樹林をヤブこぎして山頂に達するのはバリエーションルートといえます。




本チャン

古い山ヤにしか通じない言葉かも。これはゲレンデの対概念です。

昔は、ゲレンデと呼ばれる近郊の岩場でクライミング技術の練習をしてから、剱や穂高、谷川岳などのルートに向かうのが一般的でした(関東では三ツ峠や越沢バットレス、関西では六甲堡塁岩などがゲレンデとして有名)。

「ゲレンデは卒業して、そろそろ本チャン行くか!」

なんて会話が行なわれていたものです。要するに、本チャン=本番という意味ですね。

ただし、フリークライミングの普及にともなってゲレンデという呼称がほぼ死語になったので、その対概念たる本チャンも自動的に死語となりました。

――となるのが本来であるはずなのだけど、なぜか本チャンだけは今でもけっこうしぶとく使われているようです。山岳会で登山を覚えた人とかが使っているのかな?




以上のことからまとめると

・アルパインクライミングは登山のカテゴリー

・バリエーションルートは登山ルートの種別

・本チャンはゲレンデの対義語

ということ。

それぞれまったく別のレイヤーの話なのです。


なのだけど、これを全部同じ意味でとらえている人も少なくないようです。私も言葉を扱う仕事をしていなければ、そんなにこだわらなかったと思いますし、難しい所を行くチャレンジングな登山を「アルパイン」とか「バリ」とか「本チャン」とかの言葉でざくっとひとまとめに言い表すのが便利であることも確か。

ただし、もともと意味が異なる用語なので、正しく使うにこしたことはない。人それぞれに認識のズレがある用語を使っていると、コミュニケーションにもズレが生じるし、これから登山を始めようとする人が混乱してしまうこともあるだろうしね。。



2017年9月22日金曜日

雑誌とウェブの文章の違い

近ごろウェブに文章を書く機会が増えた。雑誌と決定的に違うのが文章量の制限。雑誌は文章量のしばりというのはかなり厳しく、1行単位できっちり合わせていかないといけない。「3000字」という原稿があったとしても、それはWordとかで文字カウントした3000字ではなく、「16字×187行」だったりするわけである。この場合、許される誤差はプラスマイナス7文字程度となり、かなり精度の高い文字数管理が必要になる。写真のキャプションなんかは1文字2文字単位で字数調整をしなくてはならないこともしばしば。一方ウェブは、おおまかな目安はあっても、基本的にアバウトであり、3000字の依頼のところを5000字書いてもそんなに問題はない。雑誌原稿の場合、文字数を気にして端折った説明にならざるを得ないことも多かったので、書きたいだけ書けるのはいいなあと感じている。だけれども、こちらに慣れてしまうと文章が冗長になりがちという落とし穴があることにも最近気づいた。雑誌原稿のように制限があると、限られたなかでいかに密度濃く伝えられるかということに心を砕く。それはしんどい作業ではあるのだけど、考えて工夫せざるを得ないだけに、表現の幅や語彙は増えたような気がする。新聞などは雑誌よりもっと文字数制限が厳しいので、そこで日々文章を書いている新聞記者が簡潔でわかりやすい文章を書けるようになるのは当然のことといえよう。ところが、新聞記者あがりの作家・角幡唯介が言っていたのだけど、新聞記者をやっていると、文章があまりに簡潔になりすぎて、味わいのある文章とか長い文章が書けなくなってしまうのだという。となると、制限はあったほうがいいのか、ないほうがいいのか、どちらなんだ。ということがよくわからなくなったところで本日の文章は終わり。(732字)

2017年9月18日月曜日

驚異のハイフリクションシューズ




感動した!!


いやもう、すんごいのであるフリクションが!!!!


登山道具でこれだけ劇的な効果に感激したのは、パタゴニアのナノ・エア・フーディ以来でであろうか。モンベルの沢登りシューズ、サワートレッカーRS。もっと正確にいえば、それに使われている「アクアグリッパー」というソールの威力にである!!!



これがアクアグリッパーソール



先週、群馬のナルミズ沢に沢登りに行った。沢登りに行くのは久しぶりで、私の沢用シューズはもうぼろかったので新調することにした。そこで選んだのがサワートレッカーRS。前々からラバーソールを備えた沢用シューズを試してみたいと思っていたので、これにしてみたというわけである。


とはいえ、ラバーソールの沢靴なんて使えるのか?という疑問というか不安も大きく、買って失敗という結果も半分覚悟していた。周囲で使っている人からは「けっこういい」という評判を聞いてはいたものの、沢といえばフェルトソール絶対世代の自分にとっては、ラバーソールがいいと言われたって、とてもじゃないけど信用できなかったのである。


ところが!


ホントにこれが滑らない。濡れた岩を踏んでも滑らないラバーソールなんて!! なんだこの感覚。信じられない!!! 最初はおそるおそる歩いていたが、こいつは信用できるぞ!


さらに驚かされたのは、滝を高巻いたとき。泥やヤブの急斜面の安定感たるや! フェルトソールの弱点はここで、濡れた岩の上ではいいけれど、高巻きで不安定になるのだけど、サワートレッカーRSはめちゃくちゃ安定して歩ける!


たとえばこういうシーン。トラバース斜面で笹の茎を斜めに踏みつけていかざるを得ないようなとき。登山で遭遇するあらゆる路面のなかで、もっともやっかいな一瞬といっても過言ではありません。が! ここでもグッと踏ん張ってグリップしてくれるのです。こんな靴初めて。これは驚きの体験であります。





一般登山道でも、道に横たわる木の根を踏んで、ズベッと横滑りしたこと、登山をしている人なら必ず一度は体験しているんじゃないでしょうか。だからそういうところは不用意に踏まないようにしているはずですが、このアクアグリッパーは、そんなところでもグリップしてくれるのである! これは革命ですよ、革命!

こういうところ




さらにさらに、これまたフェルトソールが苦手とするエッジングもやりやすい! だから傾斜のある滝が登りやすい!


エッジングというのはこういうやつ。小さな角にソールのエッジだけで立つこと


こういうシーンでじつに頼りになるのである



検証・フリクション


さて、問題はそれ以外の部分。沢歩きの大半を占める、ツルツルした岩にベタ置きしたときのフリクション。ここはもちろん、フェルトソールにはかなわない。とくに、コケに覆われていたり、ヌメリがある岩では、フェルトと明らかな差がある。モンベルではこんな比較表をカタログに載せています。



ただし、コケやヌメリのある岩は見ればわかるので、問題は大きくないと感じた。それに聞いていたほどコケに弱くはなく、個人的体感としてはこんな感じか(ウールフェルトは履いたことがないのでわからない)。




実際にどんなところまでOKだったか、体感を載せてみる。


これくらいの傾斜と濡れ具合なら十分いける


楽勝


左(濡れている)はOK。右の色が濃い部分は注意が必要


コケの部分を踏まなければOK


これは滑る。注意深くいけば大丈夫だけど、これ以上傾斜が強いときびしい




こんな感じかな。伝わりますでしょうか?




総評


ラバーソール、沢登りで十分使えると感じました。コケなどフェルトに劣る部分はもちろんあるのだけど、草付や泥路面での強さ・エッジングのしやすさ・一般登山道の歩きやすさは、すべてにおいてフェルトを大きく上回る。行程トータルでの安定性・快適性はフェルトより上だというのが私の感想です。


ただし、フェルトより足の置き場を正確に選ぶ必要があるので、どちらかというと中上級者向けなのかな。――と、遡行中は思っていたのだけど、あとで考え直しました。沢登りでいちばん危険なのは高巻きであり、ここでスリップして落ちて死亡という事故はあとを絶ちません。河原でツルンと滑るのはケツを打って痛いとか、せいぜい打撲や捻挫ですみますが、高巻きでのスリップは致命的です。ここで圧倒的な安定感をもつラバーソールは、むしろ初心者向けなのではないでしょうか。


ところでこのアクアグリッパー、実際に作っているのはTRAX(トラックス)というソールメーカーらしく、このメーカー、イボルブのクライミングシューズにソールを提供している会社でもあるんですよね。フリクション命のクライミングシューズ業界で生き残ってきただけに、驚異のフリクションも納得です。




ただし懸念ポイントがふたつ。


フリクション性能と耐久性がトレードオフの関係にあるのは、クライミングシューズでは常識。ゴムはやわらかく粘りをもたせればフリクションが高くなるけれど、減りが速くなる。さわってみればわかるけど、アクアグリッパーもすごい粘りのあるゴムです。どこまでもつかはわからない。ただ、フェルトだって耐久性は大して高くないのだから、ここはそんなに問題にはならないような気もする。


もうひとつは、ナルミズ沢にはマッチしていたけど、ほかの沢でどうかということ。ナルミズ沢はコケ少なめの沢だったのです。奥多摩あたりのヌルヌルコケコケの沢ではきびしかったという話も聞きます。まあ、このへんはしばらくフェルトも併用しつつ、ようすを見るという感じかな。




ラバーソール沢シューズ、別に新製品というわけではなくて、何年も前から登場しているわけで、すでに使っている人からすれば、なにをいまさらという感じかもしれないけど、あまりに感動したので興奮ぎみの文章もご容赦を。


以上、ナルミズ沢からお伝えしました!