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2023年6月12日月曜日

【スマートウォッチレビュー】Amazfit GTR4を登山で使ってみたところ…

現在所有しているスマートウォッチ。左から、Amazfit T-REX2、Amazfit GTR4、Amazfit Stratos3、Garmin Forerunner 955、TicWatch Pro 3 Ultra、Amazfit Band7。Amazfitが多いですが、T-REX2とGTR4はメーカー提供品


2021年から登山でスマートウォッチを使い始めて以来、すっかり凝ってしまって、今では6本も所有するようになってしまった(導入第一号だったOPPO Watchは人に譲ってしまいました)。

そもそもは、「腕時計で地図を見たい」という動機だけで導入したのですが、使ってみると、心拍数や移動スピード、移動距離などが測れたり、睡眠の状態を計測してくれるなど、身体の状態を数値で確認できることが楽しくなり、現在では登山に限らず24時間365日身に付けている状況です。



山では比較テストのためにもっぱら両手時計スタイル。「ケイスケホンダのようだ」と同行者に言われました。



過去にも以下のような記事を書きました。

登山で使えるスマートウォッチを研究したい


【スマートウォッチレビュー】Amazfit T-REX 2は登山で使えるか



今回は新たに、最近よく使っているAmazfit GTR4というモデルをレビューしてみようと思います。

これがAmazfit GTR4(社外品のカバー付けてます)



これはT-REX2と同様、メーカーからの提供品。とくにアウトドア仕様というわけではないので関係ないかなと思っていたのですが、登山で使ってみたところ意外と使いやすいと感じたので以下レビューします。

GTR4は、Amazfitの核となるいちばんメインのモデル。定価はT-REX2のほうが上になるのですが、Amazfitブランドの本流王道を受け継ぐモデルとなると、こちらGTR4といえるでしょう。

外観はまったく普通の腕時計に見えますが、内部的にはT-REX2と同等で、使える機能はほぼ同じ。以下、主な仕様を比較してみます。


T-REX2GTR 4
定価35,800円33,000円
サイズ47.1 x 47.1 x 13.65 mm46×46×10.6mm
重量66.5g60g
ケース素材ポリマーアルミ合金
耐衝撃性MIL規格
防水性10気圧5気圧
操作タッチパネル/ボタンタッチパネル
ディスプレイAMOLED 1.39インチAMOLED 1.43インチ
GPS(GNSS)6
センサー3.04.0(最新)
OS1.02.0(最新)
駆動時間24日14日
GPS駆動時間最大58時間最大52時間





T-REX2と比べると、耐衝撃性と防水性、そしてバッテリー性能がやや劣るのですが、本体がコンパクトながら画面が大きくて見やすいところがメリットといえます。デザイン的に日常ユースがしやすいところも利点といえるでしょう。

以下、特によいと感じた部分を解説してみます。




薄いことは重要だ

センサーの突部を含む厚みは、実測でGTR4が12.8mm。一方、T-REX2は15.8mm。数字で比べてもあまりピンときませんが、山での使用上、GTR4の薄さはけっこう重要に感じました。


こうして比べてみると、数字以上に厚さの違いがよくわかると思います。



薄いことがなぜいいかというと、ひとつは、袖に引っかかりにくくなること。

寒い時期は腕時計は服の袖で覆っていることになるのですが、時計を見ようと腕を上げたとき、厚い時計は袖に引っかかりやすいのです。山用のウエアは、袖口がゴムシャーリングになっていたりベルクロが付いていたりすることが多いのでなおさらです。この引っかかり、行動中にはわりとストレスです。

T-REX2は厚めであることに加えてゴツッとしたデザインなので比較的引っかかりやすかったのですが、GTR4では明らかに引っかかることが減りました。



もうひとつのいい点は、体感が軽くなること。こちらは、Garmin Forerunner 955との比較をご覧ください。


バンドを含まない本体重量はどちらも35gで同等。しかしGarmin 955は厚さがあるぶん、重心が腕から離れるので、GTR4より振られや重さを感じます。さらにGarmin 955は写真でわかるように角張っているので、ここが袖に引っかかりやすい。


この薄型ボディ、使用時の快適性にかなり貢献していると感じます。薄いこと大切。




ディスプレイが見やすい

GTR4のディスプレイサイズは1.43インチ。これは現行のスマートウォッチのなかでは最大級。スマートウォッチは画面に表示される情報が多くなるので、ディスプレイは大きいほど有利で、このへんはスマートフォンと同様です。

T-REX2も1.39インチと大きめで不満はなかったのですが、GTR4はそれよりさらに見やすい印象。


こうして写真で見るとそれほど大きさに違いを感じませんが、フィールドで使った印象では、T-REX2より見え方がひとまわり大きく、ディスプレイサイズ0.04インチの差は感じられました。

登山中はそんなにまじまじと画面を見つめるわけではないので、ちらっと見ただけで必要な情報がわかる視認性の高さはGTR4の便利な点と感じています。




気負わず使えるスマートウォッチ

薄いこととディスプレイが大きいこと以外にも、GTR4は最新のセンサーやOSを積んでいるなど、T-REX2より進化している点があります。しかしそれらは実用上、体感できるような差はありませんでした。

バッテリー持ちについては、スペックどおり、T-REX2のほうが長持ちします。1泊2日の登山で使った場合、T-REX2は30%ほどしかバッテリー残量が減りませんが、GTR4では40%ほど減ります。とはいえ、充電なしで5日程度の山行に対応する計算なので、ほとんどの場合はこれでも十分でしょう。

ということで、日帰り登山などでは、気軽に使えるGTR4を持ち出す機会が最近は増えています。T-REX2は、パネルタッチだけでなく物理ボタンでも操作できるという優位性もあるので、手袋をしている時期や雨のときなどの使いやすさを考えると、やはりT-REX2のほうがなにかと安心ですが、気負わずさっと使えるという点ではGTR4も悪くありません。




山ではカスタムして使おう

ところで私は、GTR4を山で使ううえで、2点、カスタマイズをしています。

ひとつはカバー。登山では、岩にこすったりして腕時計はけっこう傷つきます。T-REX2みたいなアウトドア時計はキズがついてもそれがひとつの味となってあまり気にならないのですが、GTR4みたいなクリーンなデザインの時計は気になります。

そこで、Amazonで見つけた以下のカバーを付けるようにしました。これ、着脱が簡単なのに装着時はしっかりフィットしていい感じです。山でGTR4を使うならおすすめ。



もうひとつのカスタムポイントはボタン。公式ページを見ていただければわかるように、GTR4のボタン(竜頭)は本来、右上に付いています。しかし、右側に付いていると山では不都合な場合が少なくありません。


こういうふうに岩などに手をついたとき、手の甲でボタンが押されて意図しない操作が行なわれてしまうことがあるのです。

そこで私は、画面設定で表示を180度反転させて、ボタンが左下にくるようにして使っています。


これだと不意にボタンが押されて誤操作されることがなく、ストレスなく使えるようになりました。こういうのはスマートウォッチならではの利点です。ただし、この画面反転設定ができないスマートウォッチもあるので、そこはご注意。



Amazfit GTR4、日常から登山まで1本のスマートウォッチですませたいという人には、けっこういい選択なのではないかと思います。地図を見たり、GoogleやAppleなどのアプリを追加したりすることはできませんが、そのぶんシンプルで使いやすいです。私の持っているスマートウォッチのなかでは、操作のスムーズさ、安定性、スマホアプリの使いやすさなどはベスト。機械としての完成度が高いと感じています。





【付録】

以前、Garmin Forerunner 955とGTR4を比較したツイートをしていたのでご参考までに。




2023年3月22日水曜日

ニトリの3000円のテントで雪山登山してみた

ニトリがなんと約3000円という破格のテントを販売しています。


1~2人用テント(HC)


近ごろはAmazonなどで中国製の格安テントが多く販売されていますが、それでも6000~7000円くらいはします。約3000円というのはさすがに聞いたことがない。



これを見つけた知人がこうツイートしていたのを見かけました。




興味を引かれた私はすぐさま反応。



なにしろ3000円であります。使えなくてすぐ捨てる羽目になっても惜しくない金額。その場でポチって注文してみました。




ニトリ3000円テントのスペック


早速届きました。ホームセンターなどで売っているキャンプ用品でよく見るような箱入りでした。


まずはスペックをチェックしてみよう。


フロアサイズ:短辺120cm×長辺200cm

天井高:110cm

重量:約1.4kg

付属品:張り綱4本、ペグ8本、収納袋


サイズ的には1~2人用といったところ。フライシートはなく、いわゆるシングルウォール設計です。天頂部に小さな「屋根シート」なるものが付いていますが、これはフライシートとはいえないでしょう。



箱から出してみるとこんな感じ。細長い収納袋にテント本体とポールが入っています。下は付属の張り綱とペグ。ペグは格安キャンプ用品によくある、曲げただけの丸鉄棒。



テントのフロア部分はブルーシートのような素材でした。昔、アメリカで8000円くらいで買ったコールマンのキャンプ用テントが同様な仕様でした。ちょっと硬くてガサガサするので収納性が悪いですが、防水性とか耐久性はとくに問題ありません。



ポールはこんな感じ。グラスファイバーのロッドを金属製の継ぎ具で連結させるタイプ。これも格安コールマンと同じ仕様なので個人的にはなじみがあります。



重量を測ってみたら1.34kgでした。カタログスペックは1.4kgなので、公称より軽いということになります。重量的にはアライテントの定番品「エアライズ1」と同じくらいなので、この手の格安テントにしてはかなり優秀。登山で使えるレベルの重さに抑えているといえます。



ただしこのままだとパッキングしにくいので、手持ちの収納袋に替えて、同時にしょぼいペグも手持ちの軽量なものに交換しました。




-10℃の八ヶ岳で実戦投入


やって来たのは3月中旬の八ヶ岳・黒百合平。標高は約2400m。テントを入手してからすぐに出かけることができなかったので厳冬期ではなくなってしまったし、北アルプスでもないけれど、まだまだ雪山という環境なのでまあいいでしょう。



ちょうど天気がよく、ほぼ無風でもあったので、日中は暖かさすら感じるほどだったのですが、日が陰ると急速に冷え込み、最低気温は-10℃ほど。



オーソドックスなクロスポール構造で、フライシートもないシングルウォールなので設営は簡単なのですが、少々問題も。テントのスリーブにポールを通す際、継ぎ具が引っかかりやすくてスムーズに通せないのです。これはこの形式のポールあるある。設営時に風が吹いていたりして余裕がない状況だと、けっこうイラつくポイントでしょうね。

一方、普通の登山用テントのポールはこういう段差のないスムーズな表面になっています。工作コストがかなりかさむと思うのですが、そうすることでスパッと一撃でポールを通せるので、コストをかけるだけの価値はあるというわけです。



天頂部はひもでポールを結んで固定。登山メーカーのテントはフックをかけるだけなどのワンタッチになっていることが多く、ここもやはり格安ならではの使い勝手の悪さが出てしまうポイントです。



テントのサイドウォールには「PAIR DOME TENT Montagna」という文字が。Montagnaというのはブランド名? それとも製品名? と思って調べてみたらこんなページが。ロゴが同じなので、作っているメーカーはここだと思われます。この会社がニトリに納品しているということなのでしょうか。



これが天頂部に付く「屋根シート」。なんでこんなパーツが? 



内側から見ると、テント本体の天頂部はメッシュになっています。ここから雨が直接居室内に入ってきてしまうので、屋根シートはそれを防ぐ役割を担っているわけです。



テント内部はこんな感じ。横幅が120cmあるので、ソロで使うにはかなり余裕があります。荷物が多くなりがちな雪山登山でも問題なし。靴を中に入れても邪魔にはなりません。



中から入口側を見たところ。スペースに余裕があって居心地はけっこういいです。



シングルウォールなので気になるのは防水性。ゴアテックスなどの防水素材が使われているわけではなく、どこまで濡れを防いでくれるのかは不明。縫い目にはシームテープが貼られているので濡れには配慮してあるようなのですが、フルコートしてあるわけではなく、中途半端なところでシームテープが途切れていたりしてやや不安。




フロアのブルーシート素材とサイドウォールの継ぎ目はシーム加工がありません。ここが防水されていないのはけっこうキツい。大雨になったらここから浸水してくるものと思われます。




撥水加工はされているようで、水は弾いてくれます。基本的に雨が降らない(雪になる)雪山環境であれば、防水性はそれほど問題にはならないでしょう。




が、雪山で使うことを考えると、問題は防水性よりもむしろ保温性です。

このテント、入口はメッシュパネルとメインパネルの二重になっており、メッシュパネルはフルクローズできるのですが、



メインパネル下側にはなぜかファスナーがなく、開けっぱなしになっています。なので矢印のような隙間ができてしまい、ここから外気がどんどん入ってきます。通気性良好とはいえるのですが、雪山では寒くてまったく具合が悪いことになってしまいます。




通気性がよすぎてスースーするところをのぞけば特に居心地は悪くなく、こんなところで-10℃の一夜を過ごしてみました。





一夜明けての感想

それなりに気温が低いことをのぞけば天気はきわめておだやかでほぼ風もなく、無事に朝を迎えることができました……と言いたいところなのですが、実際は寒くて夜24時前に目が覚めてしまい、その後は寒さで眠れなくなってしまいました。

が、これはテントのせいではなく、寝袋のせい。間違えてなんとハーフシュラフ(下半身だけの寝袋)を持ってきてしまったのです。ダウンジャケットは持っていましたが、それほど分厚いものではなかったのでさすがに不十分。久々に寒さで眠れないという体験をしてしまった。ちゃんとした雪山用寝袋を持ってきていれば、普通に朝まで熟睡できたことと思われます。



これは目が覚めた夜中に撮ったテント内部。サイドウォールに盛大に霜がついています。しかしシングルウォールテントならこんなもの。このニトリテントが特に霜が付きやすいわけではありません。

寒さに耐えられず、2時過ぎには寝ることを諦めて、朝食を作ることにしました。バーナーに火をつければ暖房にもなると思ったのです。

しかしバーナーの火をつけてもどうも暖かくならない。テントの通気性が良すぎて、暖気がどんどん外に逃げているようなのです。寒さに震えながらラーメンを作り、それを食べているうちにようやく身体が温まってきました。



【念のため注意】
テント内でバーナーを使用するのは、雪山登山では一般的に行なわれていることではありますが、実際に行なうときは換気に十分注意してください。一酸化炭素中毒で死亡したという事故が実際にありますし、私の知人の範囲でも死にかけたという話を何件か聞いたことがあります。テント内でのバーナー使用は厳禁としているテントメーカーも多く、十分な注意が必要です。




結論

こうして雪山で使ってみたわけですが、「ニトリの3000円テントは雪山で使えるか」と問われれば、「使えないことはない」という答えになります。だって、現に私は深刻なトラブルに陥ったわけでもなく、こうして無事に下山しているわけですから。

極論を言ってしまえば、雪山で使えないテントはないとも言えます。軽量化を追求して雪山でもツエルトで寝泊まりする人だっているくらいです。私も-20℃の南アルプスでツエルトひとつで座りビバークしたことがあります。死ぬほどつらかったですが、死にはしませんでした。それに比べれば、ニトリのテントは間違いなくはるかに快適です。

しかし、「おすすめするか」と問われれば、「おすすめはしない」と言わざるを得ません。登山で使うことを考えると、やはり防水性が気になります。このテントで大雨に降られたら、かなり悲惨な一夜を過ごすことになると予想されます。そのつらさは「3000円なんだから文句はいえない」というレベルではないと考えます。

登山用のツエルトやシェルターの類も雨や風への弱さという点ではニトリと同じかそれ以下なのですが、引き換えに圧倒的な軽量性というメリットがあります。その点ニトリは1.34kg。値段を考えればかなり健闘していますが、特別に軽いわけではありません。いかに格安といえど使用上のメリットがなく、結局買い換えてしまうことになると思われるのです。


ただし、キャンプなら別です。特に、雨が降ったら車やキャンプ場の施設にすぐ逃げ込めるような環境であれば、このテントでもアリだと思います。

というか、そもそもそういう用途のためのテントなのでしょう。登山で使うことを想定したものではないだろうし、ましてや雪山で使うなんてことは考えてもいないはずです。そんな酔狂なテストをした私が悪いということであります。


興味本位でやってみた実験、当たり前といえば当たり前な結論になりましたが、頭でわかっていることでもやらないよりはやってみたほうがいいんじゃないかというのが信条。何かの役に立ったでしょうか……???




【追記】

Amazonにも売ってました。たぶんこれ同じものだと思います。Amazonではカラーがいくつか選べるうえ、より小さいサイズ(横幅95cm)もあります。値段もわずかに安い。



2022年10月5日水曜日

【スマートウォッチレビュー】Amazfit T-REX 2は登山で使えるか

久しぶりの読者様還元レビュー(意味はこの記事冒頭に)。



先日、このような記事を書きました。

登山で使えるスマートウォッチを研究したい



すると、記事を読んだAmazfit(アマズフィット)PR担当の方から連絡があり、一度アマズフィットのスマートウォッチを使ってみてもらえないかとのこと。使用にあたってとくに縛りはなく、気に入ればなんらか記事にしてもらえるとうれしい程度の条件だったので、喜んで使わせていただくことにしました。


該当機種はAmazfit T-REX 2。今年発売された新型スマートウォッチで、アウトドア使用を意識したモデルとのこと。ガーミン・インスティンクト2スント5ピークの競合になりそうなモデルです。


これを1カ月、ほぼ付けっぱなしで使ってみました。使い心地などだいたいわかったので、以下詳しくレビューしてみたいと思います。





その前に。

スマートウォッチは、現状、大きく分けて以下の3つがあります。

アップルウォッチ
グーグル Wear OS系
その他(独自OS系)

はiOSとAndroidみたいなもので、本質的な違いはないのですが、は決定的に異なるポイントがあります。それは原則的にアプリの追加ができないということ。

はスマホのようにさまざまなアプリを自由にインストールできる一方、はできません。つまり、ヤマレコやYAMAPなどの登山アプリを使うことはできないわけです。そしてT-REX 2はに当たります。

もうひとつお断りを。スマートウォッチは機能がものすごく多岐にわたり、使い方次第で評価はがらりと変わるので、ひと口にいいとか悪いとかいいにくいものでもあります。この記事ではあくまで「登山で使ったときにどうか」という観点でレビューしていますので、その点ご留意を。




機能全部盛り

アマズフィットはアウトドア界ではなじみがありませんが、スマートウォッチ界隈では知られたブランド。シャオミのスマートウォッチ(スマートバンド)も中身はここが作っていたりするそうで、技術力には定評のある会社のようです(Amazonのニセモノのように聞こえるので、ブランド名はどうかと個人的には思うけど)。

T-REX 2はこのアマズフィットのフラッグシップにあたり、最新の機能がこれでもかと詰め込まれています。

登山では長らくABCウォッチ(Altimeter=高度計、Barometer=気圧計、Compass=コンパスを備えた腕時計)が定番とされてきましたが、T-REX 2はこのABC機能に加えて、GPS、心拍計、歩数計、パルスオキシメーターまで備えた「全部盛り」的な腕時計になっています。





これは登山中の表示画面。現在時刻、気圧、心拍数、標高が表示されていますが、これは私の設定で、ほかにも表示するデータは好みに応じて自由に変えられます。

歩行距離とか歩行時間、歩行スピード、歩数、傾斜角、消費カロリーなどまで選べます。個人的には血中酸素飽和度の数値も表示させたいのだけど、それは選べないみたい。

画面はスマホにもよく使われているAMOLEDという有機ELディスプレイで、普通の液晶よりコントラストが高く、かなり見やすいです。





光の強い晴天下では液晶画面は見にくくなってしまうことがありますが、AMOLEDディスプレイならかなりマシ。コントラストが下がりますがこれくらいには見えます。

要はスマホ画面と同じようなものなので、夕方や夜間でもまったく問題なく画面を確認できます。山での見やすさは十分と感じました。





ちなみに、通常時の文字盤画面は好みでいかようにも変えられます。私は冒頭の写真の文字盤で使っていますが、そのほかにも現時点で100種類以上選択肢があります。このへんはスマートウォッチならではというところ。

こういうクラシックなデザインも

いかにもデジタルガジェット風

こんなのも選べる






ルートナビゲーションは使えるか?

T-REX 2の売りのひとつに、ルートナビゲーション機能があります。ルートから外れたときに警告を出してくれたり、正しいルートへの復帰を示してくれるというものです。




これは問題なくルートをトレースできている場合。緑の線は歩きたいルート、白い線が歩いてきたライン、そして矢印が現在地を示しています。地名や等高線は表示されないので、正確な現在地がわかるわけではありませんが、歩きながらパッと見て、問題なく登山ができているか確認するくらいには使えます。





これはルートを外した場合。緑の線から明らかに離れていっていますよね。コースロストしているのが視覚的にわかりやすい。





ルートを外れると、電子音とバイブレーションで知らせてくれます。画面もこんな具合になるのでわかりやすい。これらは正しいルートに復帰するまで5分間隔くらいで定期的に知らせてくれるので、気付かないということはないでしょう。

なお、画面に「逸脱追跡」とありますが、これは「ルート逸脱」のこと。「正しいルートから0.09km(90m)離れていますよ」という意味です。このように日本語化がいまいち甘い部分があります。これについては後述。





こうして無事、本来のルート(緑線)に復帰。めでたし。




こんな感じで使えるので、道迷いが心配な初心者や、コースロストしやすいルートに行くときなどには便利かと思います。

ただし個人的には「あれば確かに便利だけど、そこまで劇的に貴重な機能ではない」というのが感想です。

というのは、スマホのヤマレコやYAMAPアプリでも同じことはできるから。T-REX 2でないと実現できない機能というわけではないのです。T-REX 2のアドバンテージがあるとすれば、手首にバイブレーションで知らせてくれるので、スマホよりコースロストしたことに気づきやすいということくらいでしょうか。

もうひとつの難点は、事前にルートデータを設定しておかなければいけないこと。デジタルガジェットが苦手な人は、ここが面倒に感じるかもしれない。あと、当然ながら、山中でルートを変更したときはこのナビゲーションは機能しません。現場でルートデータを設定し直すこともできなくはありませんが、あまり現実的ではないでしょう。

ただし以上は普通の登山での話。トレイルランニングでは絶大な威力を発揮するだろうと感じました。トレランでは悠長に地図読みをしている余裕がないので、腕時計だけでナビゲーションをコントロールできるのはものすごく便利なはず。とくに、コースが決まっているレースなどでは必須の装備といってもいいんじゃないでしょうか(トレランレースでは公式でコースのgpxデータを配布しているそうなので、やってる人の間ではすでに常識なのかも)。

あと、ディスプレイのクオリティが高いので、ナビゲーション画面がガーミン等の液晶より見やすいのもいいところですね。





さて、以下は、1カ月使ってみての私の全体的な感想を述べてみます。



【いいところ1】バッテリー持ちがよい

T-REX 2でもっとも気に入ったところがこれ。

スマートウォッチの最大の泣き所がバッテリーであります。アップルウォッチは原則的に毎日充電が必要だし、Wear OS系も、最強クラスのTicWatch Pro 3 Ultra GPSやGalaxy Watch 5 Proでもせいぜい2日まで。3日は持ちません。

それに対してT-REX 2はメーカー公称で24日間バッテリーが持ちます。まあ、これは機能をほとんど使わない最大値みたいなもので、実際に使っているとそこまでは持ちませんが、私の場合で15日間は持ちました(デフォルト設定で24時間付けっぱなし。2日に1回1時間ほどランニングなどをした)。日常生活でもこれだけ持ってくれれば十分と感じます。

登山では長時間GPSを動かすので15日も持ちませんが、1週間くらいまでの登山なら対応できそうです。

具体的に言うと、GPSを動かして8時間歩いたときのバッテリー消費は13%でした。GPSをオフにすればバッテリー消費は劇的に少なくなるので、登山での1日(24時間)の標準的な消費量は計算上約17%。登山で普通に使って6日は持つ計算です。

なお、デフォルトではGPSが高精度設定になっています。この設定で7時間山を歩いたら24%減りました。上に書いた13%は、低精度に設定したときのもの。通常の登山であれば、この設定でも全然問題ないくらいの精度が出たので、低精度設定で使うことをおすすめします。




【いいところ2】物理ボタンでも操作可能

T-REX 2は、100m相当の防水性、-30℃でも動作する耐寒性、米軍MIL規格準拠の耐衝撃性など、アウトドアで役立つタフネス機能を全面に売りにしています。もちろんそれらは登山の現場でありがたい機能なのですが、個人的にもっとも便利に感じたのは、物理ボタンで操作可能になっているところでした。

スマートウォッチはスマホのように画面タッチで操作するものが多いのですが、山では、画面や指が濡れていたり、手袋をしていたりなどして、タッチ操作ができないことがよくあります。

その点、T-REX 2には物理ボタンが4つも付いていて、ほとんどすべての操作をボタンでもできるようになっています。これはとくに雨の日や冬山で便利に感じるポイントなのではないかと思われます。


逆にコンディションのいいときなら普通にタッチで操作したほうがラク。状況に応じてどちらの操作方法も選べるのがT-REX 2ならではのいいところと感じます。




【いいところ3】デジタル機器としての完成度が高い

これはあくまで私が使ったことのあるスマートウォッチと比較しての話なので、アップルウォッチとかはもっといいのかもしれませんが……。

とりあえず、OPPO WatchとTicWatch Pro 3 Ultra GPSと比べると、T-REX 2の使用感の高さは断然上でした。タッチ操作がスムーズで、各種項目の表示も見やすくデザインされており、そのうえバッテリー持ちもいいときて、ストレスに感じるところがほとんどありません。

スマートウォッチを使うにあたっては、ペアリングするスマホアプリの出来も重要なのですが、こちらもとても使いやすい。さすがスマートウォッチ界で評価の高いメーカーと感じました。




【悪いところ1】デザインがごつい

外観のデザインはGショックとかプロトレックを彷彿とさせるもので、まさにヘビーデューティでミルスペックなイメージ。男子大好きという感じです。

カシオ系よりはシックにまとまっていると思うのですが、ごついことには変わりなく、好みは分かれそう。とくに女性受けはほぼ期待できないと思われます。

ライバルのガーミン・インスティンクト2もごつめではありますが、もっと角が丸いし、女性向けのカラーも選べます。T-REX 2も、もうちょっとユニセックスなデザインでもよかったんじゃないか……。




【悪いところ2】日本語化が甘い

上に書いた「逸脱追跡」のように、日本語表記が最適化されていないところがたまにあります。ほとんどは推測できてしまうので実用上の問題はあまりないのですが、積極的に変えてほしいところもあります。

そのひとつがこれ。


ワークアウトモードの選択画面なのですが、「クライミング」と「ハイキング」が並んでいます。クライミングは岩登りのことかと思いきや、内容はハイキングと同じでした。おそらくMountain Climbing(登山と同義)をカタカナ化してしまったものだと思われます。ここはちょっと混乱するので変えてほしいな。

まあ、こういう部分はスマホと同様、アップデートで修正できるのがスマートウォッチのいいところでもあるので、アップデートを期待します。




【悪いところ3】値段が高い

43,780円。これは正直、微妙な値付けと感じます。

もちろん、アップルウォッチやガーミン・フェニックスなどはもっと高く、どちらも十数万円なんてとんでもないものもありますが、それはこれまでに築いてきたブランドの信頼感あってこそ。アマズフィットというよく知らないブランドに4万超えをヒョイッと払えるかといわれると、普通は苦しい感じがします。

ガチンコのライバル機となるガーミン・インスティンクト2と価格差があまりないのも痛い。内容的には決してインスティンクト2に負けていないと思うのですが、相手はなにしろアウトドア界で圧倒的な知名度を誇るガーミン。ならばこちらはせめて3万円台、できれば3万円台前半であればよかったのですが……。

と、ここまで書いてきたところで調べてみたら、Amazonのタイムセールではこれまで2度、37,213円で売られていました。この価格なら納得できます。タイムセールは8月と9月の月末に行なわれていたので、購入を考えている人は月末をねらうことをおすすめします(10月以降もタイムセールやるかどうかは知りませんが)。



【2023.1.15追記】

Amazonやヨドバシカメラなどではだいぶ販売価格が下がってきていて、2万円台でも買えるようになっています。この価格なら文句の付けようがなし。圧倒的にコストパフォーマンス高いと思います。




総評

文句も書きましたが、総じて気に入りました。そもそも私がスマートウォッチを使い始めた理由でもあるヤマレコアプリが使えないという大難点はありますが、それを差し引いても使い勝手のよさが上回った印象です。

結果、私のメイン山時計はこれにチェンジすることにしました。せっかく買ったTicWatch Pro 3 Ultraはどうしようということになるのですが、シビアな地図読みが必要な山行専用機として生かそうと思います。



最後に、おそらく比較する人が多いガーミン・インスティンクト2との比較表を置いておきます。

インスティンクト2は使ったことがないので細かいことはわかりませんが、スペック的にはほぼ互角。ディスプレイのクオリティとタッチ操作可能という点でT-REX 2、軽量コンパクト性とSuica対応、そしてカラーやサイズバリエーションの多さという点でインスティンクト2というのが大きな違いでしょうか。あと、1万数千円高くなりますが、インスティンクト2にはソーラー充電が可能なタイプもあります。これはガーミンならではの圧倒的な魅力ですね。



Amazfit T-REX2Garmin Instinct2
本体サイズ47.1 x 47.1 x 13.65 mm45.0 x 45.0 x 14.5 mm
重量66.5g52g
ディスプレイカラーAMOLEDモノクロMIP液晶
ディスプレイ解像度454×454pix176×176pix
操作タッチパネル/ボタンボタン
防水10ATM10ATM
GPS5GNSS4GNSS(北斗非対応)
心拍計
高度計
電子コンパス
血中酸素
Suica×
ナビゲーション
駆動時間24日28日
GPS駆動時間最大58時間最大70時間






【2022.11.7追記】

T-REX2とインスティンクト2の登山での使い勝手を詳しく紹介している記事発見。細かい設定など参考になります。

アウトドアウォッチの人気機種「Amazfit T-Rex 2」と「Garmin Instinct 2」を徹底比較してみた


2022年8月31日水曜日

登山で使えるスマートウォッチを研究したい

 



昨年から登山でスマートウォッチを使うようになりました。理由は、「歩きながらすぐに地図を見たい!」

そんなの紙地図かスマホを胸ポケットあたりに入れておけばいいんじゃないのと思われるかもしれませんが、それだと、①ポケットから取り出す ②画面ロックを解除する(紙地図なら広げる)と、少なくとも2アクションが必要になります。一方、腕時計だと、手首をひねるだけの1アクション。しかも両手がふさがっていたとしても問題ありません。

私は行動中に頻繁に地図を見ないと落ち着かない人間で、できれば15分に1回は見たい。「地図を見る」という些細な動作でも、15分に1回やるとなると、できるだけ省力化したいわけです。そこで、スマートウォッチを活用することを思いつきました。



まずはOPPO Watchを購入

そこで昨年入手したのが、OPPO Watch(41mm)というやつ。いま(2022年8月末)はディスコンになっていますが、私が買った2021年9月には13,000円くらいで新品が買えました。



これを選んだ理由は単純。Wear OSで動くもののなかでいちばん安かったからです。スマホがiPhoneだったらApple Watchを買えばいいのですが、私のスマホはAndroidなので、それに対応したWear OSモデルしか選択肢がありませんでした(私が見たいヤマレコマップは、Wear OSかApple Watchでしか動作しない)。


で、1年近く使ってきましたが、結論を言えば、使い心地はイマイチ、というかあんまりよくありませんでした。

よくなかった理由は2つあります。

ひとつは、画面が小さくて表示が見にくいこと。これは通常使用ならそれほど問題にならないんじゃないかと思いますが、老眼にはキツイ! 私は山では老眼矯正が弱めのコンタクトレンズを使っていることもあって、肝心の地図が見にくいのです。

もうひとつはバッテリー。30時間くらいしか持ちません。日帰り登山なら問題ないのですが、1泊の山行となると、2日目の行動中にバッテリーが切れてしまいます。モバイルバッテリーを持っていれば充電も可能ですが、専用のケーブルが必要だったりして面倒くさい。



TicWatch Pro 3 Ultra GPSに買い換え

そこで最近、冒頭の写真のモデルを買い直しました。TicWatch Pro 3 Ultra GPSというやつです。


実を言うと、新しく出るGalaxy Watch 5 Proがバッテリー持ちがいいらしいという噂だったのでその発売を待っていたのですが、どうも価格が6万円くらいになるようなので見切り、TicWatchを買いました。Mobvoiという聞いたことなかった中国メーカー製ですが、スマートウォッチ界隈ではすでに定評ある会社みたいです。




ご覧のとおり、OPPO Watchに比べて画面が大きく、地図の見やすさは確実に上がりました。なので見やすさ問題は解決。

さらにこの機種は、バッテリー持ちのよさが売りでもあります。バッテリー容量は、OPPO Watchの300mAhに対して、こちらは577mAh。2倍近いです。メーカー公称では72時間もつと言っています。山での実使用では72時間はキツイ感じですが、50時間くらいは十分もつ印象です。これでもまだまだ足りませんが、私の山行は1泊以下が8割を占めるので、実用上はとりあえずよしとしました。



とはいえいろいろ問題もある

ということで、TicWatchにはひとまず納得しているのですが、不満はもちろんあります。

せめて1週間くらいはバッテリーがもってほしいし、使い勝手や機能的な面でも洗練されているとはいえず、それまで使っていたカシオのプロトレックなどに比べると、常用機械としての完成度は比べものになりません。なんだか10年くらい前のAndroidスマートフォンみたいなスキだらけの製品です。ただしこれはTicWatchのせいではなく、Wear OSのせい。Wear OSというのは、まだまだ発展途上のものなのだと感じます。

私はヤマレコの精度の高い地形図を見たかったのでWear OSモデル一択だったのですが、地形図は必要ないという人なら、HuaweiXiaomiのスマートウォッチ買ったほうがよっぽどいいんじゃないかなと思います。これらはシンプルな独自OSで動くので、バッテリーが1週間とか2週間とか余裕でもつそうです。ヤマレコなどのアプリは入れられませんが、歩数や心拍、血中酸素飽和度、睡眠計測などの機能は十分備わっています。それでいて安いしね。



情報募集します

スマートウォッチのことを調べていて気づいたのですが、登山でのスマートウォッチの使い方や選び方などは、意外と情報がありません。とくにWear OSについては情報が乏しいです。

スマートウォッチに対応している登山アプリはヤマレコとYAMAPのみ。YAMAPはカシオの古いスマートウォッチでしか動作せず、Apple Watchに対応したのもつい最近の話です(この8月から)。そもそも使っている人が少ないのかもしれません。

なので、「これを使ってます」とか「ここがダメでした」とか「こういう使い方をオススメします」とか、なにかご意見ご感想をお持ちの方は、下のコメント欄に書いてもらえるとうれしいです。

スマートウォッチって多機能すぎるうえにメーカーも乱立していて、私もよくわかっていないんですよ……。ガーミンのInstinctとかよさそうだなと思うのですが(ヤマレコには対応していないですが)、具体的にどういいのかはよくわかりません。使っている方は感想いただけると助かります。

現状はいろいろ問題はあれ、スマートウォッチには可能性を感じてもいるのです。数年後には、プロトレックやスントが築いた登山用ウォッチの圧倒的牙城を突き崩す存在になり得るとも思うので!



【追記】

Amazfitの最新モデルを提供いただいたので詳しくレビューしてみました。

【スマートウォッチレビュー】Amazfit T-REX 2は登山で使えるか

【スマートウォッチレビュー】Amazfit GTR4を登山で使ってみたところ...



【追記 2022.11.2】

登山で使える時計についてさまざまな記事を読みあさっていましたが、いまのところ最も優れた記事はこれです。情報量がものすごく多く、しかしどれも「登山で使えるか」というところにフォーカスして語られているので参考になります。唯一の難点は、紹介されている時計が高価なハイエンドモデルばかりだということ。値段もひとつの判断材料として論じてほしかったな。

一度着けたらもう外せないアウトドアウォッチの賢い選び方と、実践的おすすめの6本【あると無いとで山登りが変わる】 - Outdoor Gearzine "アウトドアギアジン"



【追記 2023.8.17】

TicWatch Pro 3 Ultraの後継機種が出ました。Pro 3 Ultraで不満に感じていたところがかなり解消されていて、完成度が高まっております。こちらでレビューを書きました。

地形図が見られる最新スマートウォッチ、TicWatch Pro 5を登山で使ってみた!



2021年7月12日月曜日

6月の北アルプスで使える道具

 

6月の北アルプスは危ない


この記事を書いたあとに思ったのだけど、6月の北アルプスみたいな中途半端なコンディションのときって、どんな靴を履いていくべきか迷いますよね。本格的な雪山用ブーツは重すぎるし、かといってトレッキングブーツだと雪の斜面が出てきたときに心許ないし。


私もずっと正解がわからなくて、結果、リーボックのローカットシューズなんて履いていってしまいました。


考えてみれば、「6月の北アルプスに向いている道具」なんて解説される機会はほとんどありませんでした。ここに情報のエアポケットが生じていることに気づいたので、どんな道具がいいのか以下解説してみます。




1)ある程度ソールが硬い

2)かといって雪山用ブーツよりは硬くない

3)ある程度軽い(600~800gくらい)


こんなところが条件かなと思います。「ある程度」とか基準がわからない条件ばかりですみませんが、まあざっくりと、「雪山用ブーツ以下、トレッキングブーツ以上」と考えてもらえれば。


1)は、雪の上を歩くときに重要な要素。靴に剛性がないと雪面にがっちり蹴り込めず、歩行が不安定になってしまうのです。ふにゃふにゃにやわらかいリーボックでヤバい思いをした私がいい例です。もうひとつ、ソールが硬くあるべき理由は、アイゼンを付けたときに安定しやすいこと。ソールがやわらかい靴では歩行中にアイゼンが外れてしまったりするからです。


↑こんなふうに雪にしっかり食い込ませられる靴でありたいわけです



2)は、とはいえガチガチに硬いと、通常の登山道が歩きにくくなってしまうから。北アルプスといえど6月ならば、雪の上を歩く区間は全行程の1割程度(コースにもよりますが)。鉄板のように硬い靴では、普通の登山道が歩きにくいですからね。


3)は2)と同じような理由。歩きの軽快感もそこそこ重視したい。この時期は雪はあるけど気温はそれほど低くありません。なので冬用ブーツのような保温性は不要。むしろ足が暑くなってしまうので、アッパーは比較的軽量に作られているもののほうが具合がよいです。


ひとことで言ってみれば、「ゴツめのトレッキングブーツ」という感じの靴。代表的なモデルをあげるとすれば、以下のようなところ。



スカルパ・リベレHD




ローバー・チェベダーレ PRO GT




アゾロ・フレネイEVO GV




スポルティバ・トランゴアルパインGTX

価格的には5万円以上のものが多く、どうしても高めにはなってしまいますね。ただし、厳冬期の雪山と真夏、そして低山をのぞけばけっこう活躍範囲は広いし、作りがしっかりしているので長持ちするし、1足持っておいて損はないんじゃないかと思います。


ちなみに私は、アゾロのエルブルースGVという靴を履いています。がっしりしているのに一般登山道の歩行感も悪くなく、気に入っております(現在廃番)。






アイゼン

チェーンスパイクで対応できる場合もあるけれど、原則的には10本爪以上のアイゼンが必要です(4本爪とか6本爪の軽アイゼンはこの時期に使うには力不足)。


靴に装着さえできれば、冬に使っている12本爪フルスペックのアイゼンでもかまいません。耐久性や雪上での制動力はそれがいちばん高いので、重さが問題でなければ冬用アイゼンを使うのがベスト。


ただし上にも書いたように、6月となれば、雪上を歩くのは全行程の1割程度しかありません。そのときのために1kgくらいあるフルスペックアイゼンを持ち歩くのは面倒だ。そういう人は、軽いアルミ製とか、作りを少し簡易的にしているタイプがいいかと思います。


私が残雪期専用機として使っているのはこれ。グリベルのエアーテックライトというアルミ製のものです。


岩の上を歩くと一撃ですり減るし、制動力もスチール製に比べるとイマイチですが、スチール製の3分の2ほどの軽さは捨てがたく、もっぱらこれを使っています。


一方、作りを簡易的にしているタイプというのは、主に10本爪タイプなど。12本爪フルスペックアイゼンとアルミ製アイゼンの中間くらいの重さです。爪はスチールなので強度・耐久性ともにしっかりあるのが魅力。製品としてはあまり選択肢が多くありませんが、たとえばこのへん。


カンプ・アッセントユニバーサル 


ここで注目したいのはセンターバー(リンキングバー)。上にあげたカンプも、私のエアーテックライトも、ここがガチガチではなく、しなるようになっています。



これはどういう意味があるかというと、こういうこと。




ソールが曲がる靴にガチガチセンターバーのアイゼンを付けると、歩行中に外れやすくなるのです。以前、ガチガチセンターバーのアルミアイゼンをやわらかいトレッキングブーツに無理やり付けて登っていた私の知人が、突然バチンとアイゼンが外れて、目の前で滑落していったこともありました。


あまり注目されることがないパーツですが、ソールが多少なりともしなるブーツに取り付けるときは、ここけっこう重要ポイントです。


ちなみにグリベルやペツルは、しなるセンターバーを別売りパーツとして販売しています。手持ちのアイゼンを手軽にカスタムできるので、これは親切な対応かと思います。




ピッケル

アイゼン同様、重ささえ気にならなければ、冬の雪山登山で使っているものを使ってもかまいません。大は小を兼ねる。


ただしこれもアイゼンと同じく、行程の一部分でしか使わないのに重くかさばるものを持ち歩くのは少々ストレス。そういう人は、残雪期専用として以下のようなピッケルを使うといいかと思います。


1)軽い(350g以下くらいが目安)

2)短め(50cm前後)


多くのメーカーが、軽さを重視したこういうモデルを出しています。ポイント的に使うなら、こういう軽量モデルでも十分使えます。ただし、ヘッドがアルミ製で極端に軽量化したものは避けたほうがよいかも。これはエクストリーマーとかバックカントリースキーヤーなど「わかってる人が割り切って使う物」で、強度的に少々不十分だからです。


ということでおすすめはこのへん。


ブラックダイヤモンド・レイブンプロ



ペツル・グレイシャーライトライド 




ブルーアイス・アキラアッズ




ちょっと高いけど、ブルーアイスとか個人的にシブい選択かなと思います。持ってる人少なくてレアだし、仕様的にアルパイン系にもかなり使えそうです。



ちなみに私が使っているのはこれ。


左が、ブラックダイヤモンド・レイブンの軽量バージョン「レイブンウルトラ」。右がペツル・ライド。後者はスチールヘッドなのに240gと振り切った軽量性を誇ります。ただしピックが短めで全体に軽すぎるので、急斜面ではちょっと不安です。使わないかもしれないけど念のためとか、ワンポイント的に使うときだけライドを持っていきます。


靴・アイゼン・ピッケル以外は、6月の北アルプスで特筆すべきことはありません。サングラスと日焼け止め忘れずに、くらいかな。気温はもうけっこう高いので、ウエア類は夏山に準ずるようなもので大丈夫です。冬用のハードシェルは少々大げさ。レインウエアのほうがなにかと便利かなって感じです。以上。



【2025.6.23修正】

例にあげた製品が古くなってしまったので、商品情報を更新しました。