「ロクスノ」はなぜつまらなくなったか|Tomahawk
2023年6月6日火曜日
ROCK & SNOWはなぜつまらなくなったのか
2022年6月2日木曜日
アルパインクライミングとバリエーションルートと本チャンの違い
ロープやクライミングギアを使うなど、普通の登山と比べて難しい登山行為をなんと呼ぶか。いろいろ呼び方はあるのだけど、そのそれぞれが人によって少しずつ認識がズレていることを感じる機会がしばしばあるので、ここで整理してみようと思う。
アルパインクライミング
急峻な岩場や雪、氷などが出てくる難しい山を登ること。
マッターホルンやアイガーなど、ヨーロッパアルプスの山がまさにこれに当てはまります。アラスカやロッキー山脈、南米のアンデス、ニュージーランドのサザンアルプスなどもそうですね。ヒマラヤでやっていることも大きくとらえればアルパインクライミングといえるのですが、8000mなど標高が高くなってくると独特の行動様式やスキルが必要になってくるので、そこは「高所登山」として分けて考えるほうがよいと思います。
日本でアルパインクライミングに相当するのは、まずは冬の岩壁登攀。「冬壁」などといわれるやつです。剱岳や穂高、谷川岳、八ヶ岳などが代表的。
剱岳の岩壁や岩稜は、夏でもアプローチにそこそこの雪上技術を要求されるので、アルパインクライミングといっていいと思います。一方で、瑞牆山のマルチピッチルートなどは氷雪要素ゼロなのでアルパインクライミングではない。夏の北岳バットレスや谷川岳一ノ倉沢などもアルパインとはいいにくいけど、わずかに簡単な雪渓があったりもするので微妙なラインといえなくもない。――という感じ。
バリエーションルート
ノーマルルートの対概念。
登頂しやすい一般的なルートがまず存在することが条件で、それ以外の登路をバリエーションルートと呼ぶ。
たとえば槍ヶ岳でいえば、もっとも登りやすいノーマルルートは、槍沢(もしくは飛騨沢)~山頂。それに対して北鎌尾根はバリエーションルート。登山道がなく、北鎌尾根でもない場所を千丈沢かどこかから適当に登ってもそれはバリエーションルート。
ここには、雪や氷があることとか、クライミング技術が必要とかの条件はありません。その意味では、沢登りは多くの場合、バリエーションルートに当たります。「多くの場合」と書いたのは、まれに、山頂に達するにもっとも容易なルートが沢登りになる山もあるからです。
ここで説明のために極端な例をあげましょう。
下の写真は私が昔登ったアフリカの岩山ですが(サントメ・プリンシペ民主共和国のピコ・カン・グランデ663m)、私たちが初登頂であり、いちばん簡単そうなところから登ったので、やってることはクライミングそのものではありますが、「バリエーションルートを登った」とはいえません。
近ごろ、欧米のクライマーが数パーティ訪れて私たちよりはるかに難しいルートで登頂に成功しています。彼ら彼女らが登ったのがバリエーションルートということになります。
逆の極端な例をあげると、高尾山北面の樹林をヤブこぎして山頂に達するのはバリエーションルートといえます。
本チャン
古い山ヤにしか通じない言葉かも。これはゲレンデの対概念です。
昔は、ゲレンデと呼ばれる近郊の岩場でクライミング技術の練習をしてから、剱や穂高、谷川岳などのルートに向かうのが一般的でした(関東では三ツ峠や越沢バットレス、関西では六甲堡塁岩などがゲレンデとして有名)。
「ゲレンデは卒業して、そろそろ本チャン行くか!」
なんて会話が行なわれていたものです。要するに、本チャン=本番という意味ですね。
ただし、フリークライミングの普及にともなってゲレンデという呼称がほぼ死語になったので、その対概念たる本チャンも自動的に死語となりました。
――となるのが本来であるはずなのだけど、なぜか本チャンだけは今でもけっこうしぶとく使われているようです。山岳会で登山を覚えた人とかが使っているのかな?
以上のことからまとめると
・アルパインクライミングは登山のカテゴリー
・バリエーションルートは登山ルートの種別
・本チャンはゲレンデの対義語
ということ。
それぞれまったく別のレイヤーの話なのです。
なのだけど、これを全部同じ意味でとらえている人も少なくないようです。私も言葉を扱う仕事をしていなければ、そんなにこだわらなかったと思いますし、難しい所を行くチャレンジングな登山を「アルパイン」とか「バリ」とか「本チャン」とかの言葉でざくっとひとまとめに言い表すのが便利であることも確か。
ただし、もともと意味が異なる用語なので、正しく使うにこしたことはない。人それぞれに認識のズレがある用語を使っていると、コミュニケーションにもズレが生じるし、これから登山を始めようとする人が混乱してしまうこともあるだろうしね。。
2020年1月9日木曜日
赤岳鉱泉でG5使ってみました。注目ブランドKAILASもあったよ
1月5日・6日で八ヶ岳に行ってアイスクライミングしてきました。上の写真は裏同心ルンゼ。10年ぶりくらいに行きました。どんな感じだったか、行く前はあまり思い出せなかったのだけど、現場に立ってみると風景はほとんど記憶にありました。
今回は取材仕事。泊まりは山小屋(赤岳鉱泉)で、初日はアイスキャンディで登りました。
ところで赤岳鉱泉では、ギアのレンタルを行なっています。これまで利用したことがなかったのですが、ちょうど試してみたい靴があったので、レンタルしてみました。
使ってみたのはこれ。
スポルティバのG5。
いやー、これ、いいですわ……。
とにかくめちゃ軽い。いま履いている靴(ネパールエボ)より200gくらい軽いだけなんだけど、なんだか数字以上に軽さを感じます。歩きもクライミングも明らかに軽快になれる。冬靴も軽くなったなあ。
あと、Boaシステムが便利。靴紐じゃなくてダイヤルで締め込む仕組みなのだけど、調整や脱ぎ履きがものすごくラクです。これはいい。壊れたときに現場で直せないという不安はありますが、このラクさには抗いがたい魅力がある。
あまりにも難点なのがその価格。消費税込みで93500円というのは、あんまりでございますよ。シャモニではスポルティバそんなに高くなかったので、ヨーロッパ行く機会があったらそこで買いたいなと思います。行ける機会がいつあるのか知らんけど。
さて、赤岳鉱泉のギアレンタル、初めて利用してみましたが、これいい仕組みだと感じました。冬ギアを実際に使って試すことができるところって、ここくらいしかないですからね。買うの迷ってるギアがあったら、一回ここ来て試してみる価値はあるんじゃないかと思いました。
レンタル品はこんな感じ。
【ブーツ】
・スポルティバ G5
・スポルティバ ネパールエボ(旧型)
・マムート ノードワンド
・スカルパ レベルウルトラ
・ミレー ダヴァイ
・(もうひとつあったけどメモし忘れた)
【アックス】
・ペツル ノミック
・ペツル クォーク
・ブラックダイヤモンド バイパー
・カシン Xドリーム
・クライミングテクノロジー ノースクーロワール
・ミゾー きら星
・ミゾー 北辰
・グリベル ノースマシンカーボン
・DMM スウィッチ
・コング ソウル
・サレワ ノースX
・カイラス エンテオスⅡ
・カイラス ダガー
【クランポン】
・ペツル 新型ダート
・ペツル リンクス
・ペツル サルケン
・グリベル G22
・グリベル G20
・グリベル ランボー4
・グリベル G14
・カシン ブレードランナー
・クライミングテクノロジー ハイパースパイク
・クライミングテクノロジー ライカン
・カイラス クランツ
アイスツールについては主要どころはほぼ揃っている感じ。
注目はカイラス。最近、マニアの間で話題になっていた中国のブランドです。というとクオリティに疑問を持ってしまいそうですが、これがよくできているというのです。私も現物は初めて見ましたが、質感は欧米ブランド品と遜色ないように感じました。
レンタルは1日500円。詳しい利用規程はここに書いてあったので、参考にしてみてください。
2019年11月3日日曜日
オリンピックのスポーツクライミングに大問題勃発
東京オリンピックのスポーツクライミング競技が大混乱に陥っています。
オリンピック代表選手の決定方法をめぐって、日本の協会(JMSCA/日本山岳・スポーツクライミング協会)と、国際スポーツクライミング連盟(IFSC)が食い違いを起こし、スポーツ仲裁裁判所という機関での法廷闘争に発展しようとしているのです。
現在、オリンピック代表入りを目指してがんばっている選手が何人もいますが、この騒動の行方次第では代表への道が絶たれてしまう選手もいるのだから、これは大きな問題です。
東京オリンピックの代表決定方法はけっこう複雑で、私も正確に把握しないまま、これまでJMSCAの発表を鵜呑みにしてきました。が、この機会にちょっと整理してみました。
まずは原典にあたる必要があります。以下は、IFSCが定めた、オリンピック選手選考システムの規約です。ここに書いてあることを前提にしながら、話を進めていこうと思います。
QUALIFICATION SYSTEM – GAMES OF THE XXXII OLYMPIAD – TOKYO 2020
第32回オリンピック競技大会(2020/東京)選手選考システム(上記の和訳)
東京オリンピックには何人出られるのか
・男女各20人が出場可能
・20人のうち1人は開催国枠
・20人のうち1人は三者委員会招待枠
・ひとつの国から最大2人(男女合わせて最大4人)出場できる
選手数規定の要点は上記のようなところです。
日本は開催国枠として男1人+女1人は出場できることがすでに確定しておりますが、これは各国ごとの上限人数に含まれるので、日本だけ5人以上出場できるということにはなりません。他国と同様、最大で男2人+女2人までです。
「三者委員会招待」というのは詳細が書かれていないのでわかりません。選考に漏れた選手のなかから、最終的にIFSC権限で出場させたい人を1人選ぶということなのかな?
どうやって出場選手を選ぶのか
選手は以下の大会のどれかに出場することが条件になっています。
1)世界選手権(2019年8月/すでに終了)
2)オリンピック予選大会(2019年11月28日~12月1日/フランス・トゥールーズ)
3)大陸別選手権(アフリカ・アジア・ヨーロッパ・パンアメリカン・オセアニアの計5エリアで、2020年2~5月に開催される)
各段階において、以下のように選考方法が定められています(男女とも同じ)。
1)世界選手権……上位7人までに入るとオリンピック出場権を得られる。
2)オリンピック予選大会……世界選手権でオリンピック出場権を得た選手をのぞいたワールドカップランキング上位20人がこの予選大会に出場できる。ここで上位6人に入るとオリンピック出場権を得られる。
3)大陸別選手権……優勝者がオリンピック出場権を得られる。優勝者が1か2ですでに出場権を得ている選手だった場合は、次点選手を繰り上げ。
7+6+5(大陸別選手権優勝者は5人いるので)=計18人
これに開催国枠1人と三者委員会招待枠1人を加えて、計20人が、オリンピック出場選手となります。
注意点としては、各国ごとの上限人数。たとえば世界選手権で7位以内に入っても、同じ国の選手が上位に2人いたらオリンピック出場権は得られません。実際、世界選手権で日本は男子・女子ともにそういう状況になりました。
JMSCAとIFSCの言い分
8月の世界選手権の結果は以下のとおりです。
男子 | 名前 | 国 |
1位 | 楢﨑智亜 | 日本 |
2位 | ヤコブ・シューベルト | オーストリア |
3位 | リシャット・カイブリン | カザフスタン |
4位 | 原田 海 | 日本 |
5位 | 楢﨑明智 | 日本 |
6位 | 藤井 快 | 日本 |
7位 | ミカエル・マエム | フランス |
8位 | アレクサンダー・メゴス | ドイツ |
9位 | ルドビコ・フォッサリ | イタリア |
10位 | ショーン・マッコール | カナダ |
女子 | 名前 | 国 |
1位 | ヤーニャ・ガンブレット | スロベニア |
2位 | 野口啓代 | 日本 |
3位 | ショウナ・コクシー | イギリス |
4位 | アレクサンドラ・ミロスラフ | ポーランド |
5位 | 野中生萌 | 日本 |
6位 | 森 秋彩 | 日本 |
7位 | 伊藤ふたば | 日本 |
8位 | ペトラ・クリングラー | スイス |
9位 | ブルック・ラブトゥ | アメリカ |
10位 | ジェシカ・ピルツ | オーストリア |
・上位7人まで
・ただし1国につき2人まで
という規約を文面どおりに当てはめると、この世界選手権でオリンピック出場権を得た選手は以下のようになります。
男子 | 名前 | 国 | 出場権 |
1位 | 楢﨑智亜 | 日本 | ◎ |
2位 | ヤコブ・シューベルト | オーストリア | ◎ |
3位 | リシャット・カイブリン | カザフスタン | ◎ |
4位 | 原田 海 | 日本 | ◎ |
5位 | 楢﨑明智 | 日本 | |
6位 | 藤井 快 | 日本 | |
7位 | ミカエル・マエム | フランス | ◎ |
8位 | アレクサンダー・メゴス | ドイツ | ◎ |
9位 | ルドビコ・フォッサリ | イタリア | ◎ |
10位 | ショーン・マッコール | カナダ |
女子 | 名前 | 国 | 出場権 |
1位 | ヤーニャ・ガンブレット | スロベニア | ◎ |
2位 | 野口啓代 | 日本 | ◎ |
3位 | ショウナ・コクシー | イギリス | ◎ |
4位 | アレクサンドラ・ミロスラフ | ポーランド | ◎ |
5位 | 野中生萌 | 日本 | ◎ |
6位 | 森 秋彩 | 日本 | |
7位 | 伊藤ふたば | 日本 | |
8位 | ペトラ・クリングラー | スイス | ◎ |
9位 | ブルック・ラブトゥ | アメリカ | ◎ |
10位 | ジェシカ・ピルツ | オーストリア |
これが、現在、IFSCが主張している結果です。日本人は男女ともにすでに上限の2人が埋まったので、これで最終決定といいます(JMSCAによれば「新解釈」と呼ばれるもの)。
それに対してJMSCAが主張しているのは、日本人で出場権を得たのは、男子は楢﨑智亜、女子は野口啓代のみで、他はまだ未定だとするもの。
これだけ聞くと、IFSCの言うことのほうに理があるように思えます。
このJMSCAの決定方法をIFSCが認めていた証拠もあります。
これは、男子10位のショーン・マッコールと、女子10位のジェシカ・ピルツが、世界選手権直後に更新したインスタグラム。「オリンピック決まったよ」と報告しています。
IFSCが主張するとおりなら、このふたりはオリンピックの出場権は獲得できていないはず。
つまり、少なくとも世界選手権直後の段階では、原田海と野中生萌の出場権は決定しておらず、JMSCAの主張のとおりに物事は進んでいたのです。
ねじれはどこにあるのか
いったいなぜこんなことになっているのか。
【2019/11/3追記】
上記の可能性はほぼないということが判明しました。
ともあれ、こうなった以上、行く末は、スポーツ仲裁裁判所の調停を見守るしかなさそうです。
それにしても、IFSCも、原田・野中が代表決定とあくまで主張するなら、ぬか喜びさせてしまったショーン・マッコールとジェシカ・ピルツへの対応はどうするんでしょうね。ふたりはすでに来年のオリンピックに照準を合わせていて、今月末のオリンピック予選大会の準備などしていないでしょうし。
今後の大会で結果を出してオリンピックに出たいとがんばっていた日本の他の選手も本当に気の毒です。じつはつい数日前、その対象選手のひとりにインタビューしたばかりで、オリンピックへの抱負をいろいろ聞いたところでした。その人がいま何を感じているかと考えると、私自身も気が重いです。
記者会見でJMSCAは「大人の事情で混乱させられ、出られるか出られないかわからない状況になった。選手には申し訳ない」とコメントしたそうです。個人的にこの言葉には、JMSCAの誠意を感じました。選手の情熱が空振りで終わることがないように、解決に全力を尽くしてほしいと願うばかりです。
2019年2月7日木曜日
NumberWebで連載始めました
登山とクライミングをテーマにしたコラム連載をNumberWebで始めることになりました。
基本的に1カ月に2回のペースで、登山ネタとクライミングネタを交互にやっていく予定です。Numberなのでスポーツ寄りのテーマが多めになるとは思いますが、初回からかなり山っぽいテーマなので、どうなるかは自分でもわかりません。クライミングは純粋スポーツクライミングからときにはアルパイン系ネタまで入ってくるんじゃないかと思います。
このブログでときたま書いていたオピニオンチックな話も、それなりに一般性をもつものはNumberで書くようにするかもしれません。逆にこのブログはNumberでは書けないようなマニアックな話を中心にしたいなと思っています。やたら突っ込んだ長文の道具レビューとか角幡唯介のおちんちんがどうしたとかいう話ですね笑
「こんなテーマ読みたい」などのリクエストがありましたら、コメントなどでお寄せください。ぜひ参考にさせていただきます。
よろしくどうぞ~
2019年1月30日水曜日
クライミングコンペ撮影の勘所
クライミング写真というのは、いい位置にポジション取りできるかどうかが、写真技術よりずっとクオリティを左右するもの。で、そのポジション取り自体も”技術”なのであります。— 森山憲一 (@kenichimoriyama) 2019年1月29日
昔、飯山健治というクライミングカメラマンが言っていたのだけど、飯山さんは下からルートを見ただけで、どこが核心か、そこのムーブはどうなるか、ベストの瞬間にクライマーの顔はどちらを向くかを瞬時に読み取り、そちら側に位置取りをするそうです。— 森山憲一 (@kenichimoriyama) 2019年1月29日
で、飯山さんはベストポジションにロープを張ってぶら下がるまでの作業スピードもすごく速かった。ポジションの読みとセッティングスピードの速さ。これはだれにでもできることではなくて、やはり技術なのです。— 森山憲一 (@kenichimoriyama) 2019年1月29日
日曜日にボルダリングジャパンカップを撮影しに行ったのだけど、報道各社のカメラマンの数がすごく増えていることに加えて、彼らもクライミング撮影に慣れてきて、いいポジションはすぐ取られてしまうようになったので、年々撮影がやりにくくなってきた。— 森山憲一 (@kenichimoriyama) 2019年1月29日
1、2年前までは、課題を見ていち早くベストポジションを取ることができたし、へんな場所に陣取っている報道カメラマンを見て「わかってないね、チミたち」と優越感に浸れたのだけど、もういまや無理。これからは人のねらわない独自の視点を見つけないと。— 森山憲一 (@kenichimoriyama) 2019年1月29日
クライミングコンペ撮影でいちばん重要なのは、ゴールホールドをどちらの手で取る設定になっているかを読み取ること。それによって、完登時のガッツポーズがどちらを向くかが決まるので。このへんのことも報道カメラマンにバレてきてしまっているので、もう黙ってる必要もなくなりましたw— 森山憲一 (@kenichimoriyama) 2019年1月29日
ふと思いついて、ツイートの転載という手抜きエントリーやってみました。すみません。
2018年6月11日月曜日
Youtuberとフリーソロイスト
そんなYoutuberがいるのか。私は知らなかったので、検索して発見。見てみました(かなり衝撃映像なのでリンクは張りません)。なんというか、こんなみじめな死に方ってあるのか、というのが見てすぐの感想でした。
が、その後、ちょっと考えてしまいました。このYoutuberと、クライミングのフリーソロで死んだ人の違いを、私は言葉にできなかったのです。いや、全然違うだろ、と心では直感するのですが、じゃあ、その違いを説明しろと言われたら、すぐにはうまい説明ができない。
ジョン・バーカーがYoutuberと同じ? そんなわけないだろ。しかし、その違いを、普通の人にもわかる理屈で説明しろと言われたら、けっこう難しいと思う。
ましてやダン・オスマンとなったら。この人なんて、ノリ的にYoutuberにかなり近いものもある。これもある意味衝撃映像かな。
おそらく両者の違いは、「目的とするもの」なのだろうが、自分の中で未整理で、まだシンプルな言葉にならない。ここらへんをきちんと考えて、わかりやすい言葉で提示するというのも、自分の仕事なのだろう。
ところで、先日、史上最強のフリーソロイスト、アレックス・オノルドの取材をしました。彼は、フリーソロをする前に、徹底的に準備をするそうです。
たとえば、件のビルパフォーマンスをオノルドがすることになった場合、少なくとも以下くらいは絶対やるでしょう。
・ビル屋上の手で持つ部分のフリクションを徹底的に確かめる
・チョークなど、効果的な滑り止めがあるなら使う
・この体勢で50回懸垂しても全然問題ないくらい懸垂を鍛えまくる
・万一のときに使える足置き場を探しておく
・可能なかぎりフリクション性能の高い靴を履く
・突風の有無など、自然現象の研究
こういうことを、Youtuberがやっていたかどうかは疑問です。だって、やっていたら、あんなに簡単に落ちないと思うんですよね。このへんにも違いはありそうな気がします。そこらへんもまだうまく言葉にできないんですが。
オノルドの記事はROCK & SNOW No.80に。興味のある方はぜひ。なんと表紙撮影私です。
2018年4月3日火曜日
2017年に取材したクライマー15人
年末にやっておこうと思っていながらのびのびになってしまって気になっていた企画がありまして、ようやくスキができたのでここで片付けておこうと思います。
2017年に取材させてもらったクライマー一覧。数えてみたら、1年間で15人(そのうち3人は2回)を取材していました。下は14歳から上は48歳まで(取材当時)。人工壁のスポーツクライマーからゴリゴリの岩場派まで多種多様。
クライマーの取材、いまいちばん楽しい仕事なのです。みんな「登りたい!」という純粋なモチベーションにあふれていて、そういう人に会うのは、こちらもすごい刺激になります。心が洗われるようです。
では、取材日順にいきましょう。
2月
伊藤ふたば
1月に行なわれたボルダリング・ジャパンカップで、野口啓代・野中生萌の2大巨頭を抑えて優勝し、2017年いっきに注目が集まった14歳。
この1年前にも取材させてもらっていたのだけど、そのときとは環境が激変。地元盛岡の山岳協会が取材を取り仕切るようになり、単独取材は許可が出ず、テレビや新聞などの記者が多数集まるなかでの合同取材でした。
この写真がいちばん現場の雰囲気を示してるかな。四方から無言でカメラを向けてくる無数の報道カメラマンに加えて、記者はというと、「好きな食べ物はなんですか」みたいな質問ばかり。クライミングに大して興味もないのに大人の事情で取材を続ける報道陣に囲まれて、ひとり置いてきぼりのような14歳の女の子。
これがオリンピックのホープの定めとはいえ、あんまりかわいそうに思えて、くだらない雑談含めて意識的に声をかけてあげるようにしていました。あれから1年。もうこういう状況には慣れたかもしれないけど、負けるな、ふたばちゃん!
記事はこれに
大場美和
こういう動画とか
「ファイト不発」のCMとか
で有名になった、19歳のユースクライマー。動画のイメージどおり、おっとりぽわんとした女性でした。取材は彼女がホームとしている横浜のクライミングジム、プロジェクトで。じつはここ、のちほど出てくる小山田大さんのジム。ほわっとした10代の女性と、世界最強ボルダラーの組み合わせは意外に思えましたが、行ってみて納得しました。
大場さんは小学生だか中学生だかのころに、地元のジムに来た小山田さんに接して、人柄に自分と通じるものを感じたそうです。小山田さんは、パブリックなイメージはストイックで気難しそうですが、素顔は子どものように無邪気な人物。その裏表のないところに惹かれて、進学先を決めるときにプロジェクトに近い大学を選んだということでした。
2016年は、コンペの成績に伸び悩んでいたようでしたが、秋に小山田さんに誘われてドイツの岩場ツアーに行き、岩場に新たな楽しみを見出したそうです。
小山田さん自身が、コンペから岩場に転身してクライマーとして開花した人物。スポーツ化が進む現在のクライミングは、競技者としていったん壁に当たると袋小路に入ってしまいがちですが、本来クライミングは多様なベクトルをもったもの。それを身をもって知る師匠に恵まれたのは、大場さんの大きな財産のように思えました。
記事はこちらで読めます(要PDFダウンロード)
村井隆一
外岩の若き刺客。「小山田大を超えるのはこいつだ」とささやかれるほどの才能。大学を卒業し、アルバイトしていたジムAPEXに春から就職するタイミングでの取材になりました。
2016年に岩場での大活躍で注目された村井さんですが、『インドアボルダリングブック』という本の取材だったので、聞く内容はジムのこと。ええ~、いま村井隆一を取材するなら岩場のこと聞かないとヘンでしょ~と思ったのですが、担当編集部員Nが村井さんのファンで、ぜひ登場させたいというのでジムのことを聞いてきました。村井さん初対面だったのですが、クレバーな人で、本の趣旨を理解してちゃんと意味あること語ってくれました。
村井さん、近ごろは岩場での活躍が圧倒的に目立っていましたが、もともと競技クライミングのナショナルチームの一員でもあります。今年2月には、久しぶりにコンペの場でも爆発。ボルダリング・ジャパンカップで楢崎智亜さんをも抑えて2位に入りました。やはり才能は底知れないです。
小山田 大
泣く子も黙る最強ボルダラー。国内外で初登した課題の難しさは他の追随を許さず、40歳となっても日本のボルダリング界に君臨しています。
この岩場の申し子になぜか、ジムのことを聞いてきました。理由は、これまた編集部の希望によるもの。ビッグネームを登場させたいという気持ちはわかるが、企画内容との相性というものもあるだろ~と思いつつ取材。が、岩場の申し子とはいえ、ジムの経営者でもあり、人工壁でクライミングを覚えた第一世代ということもあり、普段とは違った角度でいろいろ面白い話が聞けました。
室井登喜男
なんでこの人をインドアボルダリングムックで?3連発の3人目は、なんと室井登喜男。日本の岩場ボルダリングを現在のかたちに作りあげた人物といっても過言ではありません。
いま日本を代表するエリアのひとつになっている御岳は、この人が自費出版で作ったルート図集をきっかけに、人気エリアとなりました。もうひとつの一大エリア、瑞牆に至っては、訪れる人などだれもいなかった時代に、ひとりでコツコツと通って1000本以上の課題を初登することで現在の姿になったのであります。まさに伝説の男。
そんな男にジムのことを聞くのは気が引けましたが、素顔の室井さんって、やたら腰が低く、柔軟な人なんですよ(体も異常にやわらかい)。「岩場にはジムにない魅力があるし、ジムには岩場では体験できないおもしろさがある」という言葉が印象的でした。
3月
渡辺沙亜里
いまコンペで、いちばん”魅せる”クライミングをしてくれる女性クライマーはこの人でしょう。ガッツあふれる登りは思わず応援したくなります。天才少女として騒がれ、23歳で結婚・出産、25歳で再びコンペの第一線に戻ってきたという、激動のクライミング人生。
子どもをもつ身でありながら、アスリートとしても活躍する日々について、福岡まで行って聞いてきました。夫はこれまた有名強強クライマーの渡辺数馬さん。福岡でジップロックというジムを夫婦でやっています。
伊藤・村井・小山田・室井・渡辺さんの記事はこちらに収録
4月
倉上慶大
いまいちばんヤバい男。ただでさえ危険なことで名高い湯川の「白髪鬼」(5.13d R)というルートを、ソロで登る!(ロープは使用)ので写真撮ってほしいと頼まれて行ってきました。
これは何かの取材というわけではなくプライベート。しかしルートがルートだけに、こちらも気合と細心の注意をもって臨みました。結果は目を覆いたくなるようなグラウンドフォール。カムが3本くらい吹っ飛びました。
幸い足首のねんざだけですみ、2週間後くらいに早くも再トライして、白髪鬼のダイレクトフィニッシュとなる「燈明」(5.13d/14a R)というラインまで完成させてしまいました(このときは私は不在)。
倉上さんはヤバいクライマーとして知られていますが、素顔はきわめて常識人かつ、絵に描いたような好青年で愛すべき男。ところが自身でも制御不能なほどのモチベーションモンスターで、やりたいプロジェクトがまだまだいくつもあるそうです。大ケガだけはしないようにと見守るのみです。
この雑誌にこのときの写真が使われています。
それからアメリカのクライミングメディア「Alpinist」のウェブに記事が出ました。Alpinistといえば、世界でもっとも格調高いクライミング雑誌。ここに自分の名前が載ったというのは感激。倉上さんのおかげです。ありがとう。
澤田 実
アルパインクライマーであり山岳ガイド。澤田さんが使っているグレゴリーザックの広告企画として記事を書かせてもらいました。
澤田さんは私と同年代で、北海道大学探検部出身。同じく大学探検部出身の私は一方的に親近感を抱いておりました。探検部出身の登山家やクライマーはなんとなく共通した雰囲気があるような気がします。ひとことでいえば自由。それが悪いほうに出ると私や角幡唯介のようになり、いいほうに出ると澤田さんのようなキャラクターになるようです。
ところでこの記事、ちょっとした手違いがあり、一度完成していながらお蔵入りになってしまった別バージョンがあります。自分的にはそちらのほうが気に入っていたので、機会があれば公開したい。小川山レイバックギター初登(=ギターを背負っての初登。ついでに中間のレッジで尾崎豊を熱唱)の話も出てきますよ。
記事はこちら。
「その隔絶感、辺境感が最大の魅力」。山岳ガイド澤田実さんが挑み続ける冬の黒部横断の記録 | Akimama
5月
今泉結太
自分としても毎回楽しみな『Guddei research』(好日山荘情報誌)での次世代クライマーの連載。八王子で行なわれたワールドカップに16歳という男子最年少で出場した今泉結太くんを取材しました。ヤンチャな「ザ・男子高校生」という感じでしたが、なかなかイケメンで、侍ギタリストのMIYAVIになんか似てるなと思いました。
ところで今泉くん、基本は競技クライマーなのですが、将来的には岩場指向とのこと。彼のSNSも、最近はすっかり岩場の話が中心。次に出てくる青木達哉さんがクライミング師匠で、「ティミー、ティミー(青木さんの愛称)」とタメ口で慕う青木さんにくっついて、岩場によく行っているそうです。
世界的なアルピニストのいるジムなんてそうはなく、恵まれているといえるでしょう。どういうジムで育つかというのは、クライマーとしてのその後を大きく左右するのだなあとも感じました。
記事はこちらで読めます(要PDFダウンロード)
青木達哉
今泉くんの翌週に小川山で取材させてもらったのが、今泉くんのクライミング師匠、青木達哉さん。K2の日本人最年少登頂者、ピオレドール受賞者、つくばスポーレの店長など、さまざまな肩書きをもつクライマーです。
これはマムートの広告記事だったのですが、取材はマラ岩「ペタシマン」(5.13c)で本気トライ。登れませんでしたが、いいものを見せてもらいました。近ごろクライマー取材は自分で写真も撮ることが多いのですが、この取材では私はビレイ役。撮影は、スーパーアルパインクライマーとしても知られる高柳傑さんでした。
記事はこちらに
小山田大
再び小山田さんであります。今度は本業というべき岩場の話を聞きに行ってきました。取材地は、小山田さんがエリア開拓に中心的にかかわった、岐阜の笠置山。かなり暖かくて、本気で登るにはもう暑すぎるという時期でしたが、エリア整備作業のかたわら、現地の東屋でのんびりと話を聞きました。
「ぼくスポーツきらいなんですよ」という言葉が印象的で、この人は本当にスポーツマンではなくアーティスト気質の人なんだなという思いを強くしました。こういう人がトップに立っているというのが、クライミングというものの面白さや豊かさを表しているようにも思うのです。
6月
安間佐千
2012年・2013年とワールドカップ連覇を果たした「世界のサチ」。2015年ごろから活動の場を完全に岩場に移しています。あれほど実績を残した競技をすっぱりやめたのはなぜか、そして岩場の魅力はなんなのかということを聞きました。
ハイボルダーに興味があるという意外な話も聞けましたが、このときはどうも方向性に迷っているようにも見えました。が、その後、年末から今年にかけて、5.15a、5.15bと国内最難グレードを相次いで更新。新たな目標を見出して、最近はまたノリノリに見えます。
ところでこの取材、奥多摩の大沢ボルダーで行なったのですが、本当は瑞牆山でやる予定だったのです。
朝、瑞牆で集合して、さあ行こうかというときに、安間さんが「ああっ!!」と絶叫。なにかと思ったら、シューズを家に置き忘れてきたとのこと。なにか手立てはないか、いろいろ考えましたが、結局シューズを取りに帰るほかないという結論になり、そこから時間的に転戦できる場として、大沢ボルダーになったというわけです。次の村井さんも瑞牆だったので、エリアがかぶらずにすみ、結果的にはむしろラッキーでありました。
撮影は、photo山さんこと山本浩明さん。10年以上前からお世話になっているボルダリング写真の巨匠です。
村井隆一
そしてこれもまた二度目の村井隆一さん。瑞牆山で、フォトセッション的な取材をさせてもらいました。撮影は、初めて組むカメラマンの茂田羽生さん。
村井さんが取り組んでいる「Decided」という激ハード課題から、「インドラ」などの有名課題で撮影。茂田さん、クライミング撮影は経験がないと言ってましたが、インドラの写真などはかなり印象的に仕上がっています。
しかしこの取材、今度は私が大寝坊。村井さんと茂田さんを数時間も待たせてしまいました。取材に寝坊したなど近年記憶になく、すっかり油断していました。以来、それまで寝るときには仕事部屋に置いたままにしていた携帯電話は、枕元に置くようになりました。村井さんと茂田さん、その節はすみませんでした。
小山田・安間・村井さんの記事はこちらに収録。
どれも4~6ページあるので、読み応えあります。
8月
中嶋徹×橋本今史
アメリカ・ビショップにある「Lucid Dreaming」という激ムズ課題に、2年間通い続けて成功した中島徹さんと、その一部始終をムービー作品に仕上げた橋本今史さんの対談原稿を作りました。
詳細はリンク先を見てほしいのですが、原稿作成時に発見したことがひとつ。中島さんは声の通りがよく、話し方も論理的な一方、橋本さんはなんだかふにゃふにゃしています。だから対談を聞いていたときは、圧倒的に中島さんの発言が記憶に残ったのですが、文字に起こしてみると、説得力抜群に聞こえた中島さんの発言が思ったより内容が薄かったり、逆に、橋本さんがじつは深いことを言っていたりしたことを発見しました。同じ内容でも、しゃべるのと文字にするのでは、受け取り方が驚くほど変わるということにあらためて気づいた取材でした。
対談はこちら。SPECIAL TALK SESSIONというページに対談は収録されています。
原田 海
現在、世界最高の選手層の厚さを誇り、世界で勝つより日本で勝つほうが難しいといえるほどの男子ボルダリング界で、つい最近もオリンピック強化選手枠を勝ち取った19歳(取材時は18歳)。ルックスはなんだかチャラそうなのですが、実際に会ってみると、伏し目がちでおとなしく真面目そう。中身と見た目にギャップがあるタイプでした。
驚いたのは、4年くらい前までコンペの存在も海外の有名クライマーなどの名も知らなかったということ。外の情報をほとんど知らないままに、地元のジムでひたすらクライミングしていただけというのです。初めてのコンペが初リードだった(しかもそれで国体入賞)というのも驚き。
記事はこちら。
11月
小島果琳
岐阜に住む16歳。小学生時代にコンペで圧勝する姿を見たことがあり、そのときから注目していました。
4年ぶりに会いましたが、クライマーとしての成長、人としての成長など、とても考えさせられ、思いのほか深い取材になりました。記事を読んだお父様から、娘に対する思いあふれる、じーんとくる言葉をいただいたことも感激的でした。ホームジムの「グッぼる」もとてもいいジムだと思いました。あたたかく支えてくれる人は宝ですね。がんばれカリンちゃん。応援してますよ。
記事はこちら。
12月
中嶋 徹
そして再び中嶋さん。Lucid Dreaming成功へのメンタルについて詳しく聞きました。メンタルという言葉にしにくいものを、めちゃくちゃわかりやすくしゃべってくれました。もう、すばらしいのひとことです。中嶋徹最高。クライマーにとって大いにヒントとなる金言がつまったインタビューになりました。この記事は必読かと思います。
取材は、京都大学のクライミングウォール(通称京大ウォール)で。有名な吉田寮の横にあり、この吉田寮がまたインパクト絶大。日本とは思えない風景です。記事冒頭の写真もここで撮りました。
記事はこちらに
以上が2017年に取材させてもらった人たちです。
2018年の今年も、すでにふたりを取材済み。ひとりはこの人。
高校生クライマーの土肥圭太くん。この写真、カッコいいでしょ!? 近年一の自信作。土肥くん自身もかなりイケメンであり、人気が出そうです。つい最近、オリンピック強化選手枠にも滑り込みました。自信なさげなことを言っていながら、結果的にはデカいことをやってのける。記事で書いたことそのままを早くも地で行ってます。4月10日に好日山荘で発売開始の『Guddei research』に記事は載っています。
もうひとりは、なんとこの人であります。
驚異のフリーソロイスト、ヨセミテのエルキャピタンをボルダリングした男(実際に、「エルキャピタンは1000mのV7だね」と言ってました)、アレックス・オノルド。つい最近取材したばっかり。6月発売の『ROCK & SNOW』にがっつり記事が載るほか、PEAKSとかにもニュース的な記事が出る予定。ご期待ください。私も楽しみ。