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2022年8月18日木曜日

日本海~太平洋 大縦走コースをいろいろ考えてみよう

トランス・ジャパン・アルプス・レース(TJAR)2022が終了しました。

これまでもいろいろなところで書いてきましたが、このレースはもともと、「日本海から太平洋まで、山岳地帯をつないで歩き通してみたい」という、創始者の岩瀬幹生さんの思いから始まっています。

しかしそれは岩瀬さんのオリジナルな思いではありません。TJARのようにスピードを追求したりはしないものの、それ以前にも多くの人が独自にチャレンジをしてきた歴史があり、山好きなら一度は夢見る、いわば定番的「夢の縦走」でもあるのです。

日本海から太平洋、そこでどのようなコースをとるか。TJARのコースはその一例に過ぎず、ほかにも選択は無数に考えられます。これを考えることは実行することに劣らず面白い作業でありまして、そこには実行者それぞれの個性や工夫が如実に表れます。


そこで以下、さまざまなコース取りを机上で考えてみることにしました。



TJARコース


登山道総距離:188km

ロード総距離:206km

コース総距離:394km

標準所要時間:30日

通過する3000m峰:5(6)山

通過する日本百名山:9(11)山

*登山道総距離はヤマレコ(ヤマプラ)、ロード総距離はYahoo!地図で算出

*「3000m峰」は、国土地理院「日本の山岳標高一覧」に掲載されている21山を対象とした

*「標準所要時間」は、登山の一般的コースタイム+ロード区間は毎時3kmのスピードとし、1日の行動時間を7時間とした場合の所要日数

*以下同



ご存知、TJARのコース。いまや日本海~太平洋で、もっとも有名なコースがこれになるのでしょう。

しかしこのコースは、多くの日本海~太平洋縦走コースのなかでは、やや例外的といえます。その例外性が明確に出ているのが、早月川河口からの剱岳スタートとしているところ。このコース取りをしているのはTJAR以外では聞いたことがありません。

どうしてこうなったかというと、TJARコースは「可能な限りスピードが上がるコース」を追求して組まれたコース取りだから。

創始者の岩瀬さんはもともと、泊海岸から朝日岳に登り、後立山連峰を南下し、槍ヶ岳の後も西穂高岳まで縦走して上高地に下りるコースを試していました。しかしそれだと9日3時間かかっていました。さらにこれを短縮して1週間で踏破することができないか。それを模索した結果、現在のTJARコースに落ち着いたというわけです。

ところで、TJAR公式では総距離415kmと謳っていますが、私の計算では394kmになりました。まあ、このへんは誤差と思ってください。それから、「通過する3000m峰」を「5(6)山」としているのは、TJARでは槍ヶ岳の山頂直下を通るものの、山頂は通常踏まないから。3000m峰ではありませんが、黒部五郎岳も同様です。それぞれ往復30分~1時間かけて山頂を踏めば、「通過する日本百名山」も11山になるという意味です。





3000m峰踏破コース


登山道総距離:299km

ロード総距離:196km

コース総距離: 495km

標準所要時間:44日

通過する3000m峰:16山

通過する日本百名山:17山


日本海から太平洋を歩くにあたり、コース設定になんらかのテーマを設ける人が多いですが、そのなかでもっともポピュラーなテーマが「3000m峰をすべて踏破する」というもの。

それにはおおむね上の地図のようなルートが基本となりますが、細かいコース取りは人によってそれこそ千差万別。上の地図では親不知スタートとしていますが、これでは3000m峰の立山は通らなくなってしまうので、白馬岳から黒部川を渡って立山側にコースをつないだりする人もいます。

そのほかにも、上記モデルコースには、前穂高岳、仙丈ヶ岳、農鳥岳、悪沢岳の3000m峰が含まれておりません。 あくまで3000m峰全踏破を重視する人は、一筆書きルートにこだわらないとか、少し変則的なコース取りをするなどの工夫が必要です。





登山道重視コース


登山道総距離:326km

ロード総距離:143km

コース総距離: 469km

標準所要時間:40日

通過する3000m峰:12山

通過する日本百名山:16山


できるだけ車道を歩かずに、登山道を長く歩きたい。これは登山者として自然な感情。これをテーマとして設定されたのが上のコースです。

ポイントは、中央アルプスを通らずに八ヶ岳経由としているところ。北アルプスと中央アルプス、そして中央アルプスと南アルプスはそれなりに離れており、ここでどうしても長い車道歩きが発生してしまいます。そこを八ヶ岳経由にすると、前後の車道区間を最小限にすることができるわけです。上高地からは徳本峠を越えて松本に下りる設定にしているのもポイントのひとつ。

このコース、ワンプッシュ49日間で歩き通した人知っています(富士山には寄らないコースでしたが)。当時28歳、登山歴6年の女性。しかも単独。つまり、日本海~太平洋はTJAR戦士のような猛者だけのものではなく、時間さえかければだれでもできるということなのです。





変わり種パターン


変わったところでは、こういうのもあります。日本アルプスを一切通らずに、上信越国境主体で徹底的に山中を行くコースです。登山道とロードの距離などは調べていませんが、興味ある人は調べてみてください。おそらく驚異の登山道率(9割超え?)になるんじゃないかと思います。

コースは、新潟県柏崎海岸からスタートし、越後駒ヶ岳に入山。以降、新潟・群馬・長野・埼玉・山梨の県境を進むというものです。登山道があるところばかりではないので、ヤブこぎして進まないといけない箇所もあります。とくに、西上州付近はなかなか大変だろうことが予想されます。

ちなみにこれもやった人います。35年前にひとりの男性が完歩しています。しかしワンプッシュではなく、32区間に分けて、7年かけてつないでいます。こういうふうに、分割して少しずつ歩くという手もあるわけです。






私の知る究極の変態コースがこれ。東経137度線に沿ってまっすぐ進むというものです。

スタートは愛知県西尾市一色。そこから東経137度線の東西各1kmにおさまる範囲で、最後は能登半島輪島市白米町の海岸まで北上していきます(海洋上を通る能登島部分のみフェリー使用)。2kmの幅が許されているとはいえ、地形とはまったく関係ない地図上の直線をたどらなくてはいけないのだから、かなりの困難が予想されます。

これも実行者います。1980年、ひとりの男性が(部分的に同行者あり)ワンプッシュ39日間で歩いています。歩行中は「登山者というより浮浪者に近かった」そうです。




ということで、これらのほかにもまだまだ未踏のクリエイティブなラインが存在することと思います。地図を眺めながらあれこれ想定してみるのも面白いんじゃないでしょうか!?



2017年8月17日木曜日

TJAR写真集外伝・高橋香と岩崎勉の熱走


先日発売された写真集『TJAR』の巻末に、トランスジャパンアルプスレース(TJAR)とはなんたるかという文章を書きました。


その最後のほうに、こんなことを書いています。


だれもがレースの主役であり、その証として、ゴールを果たしたときに、優勝者よりも周囲の感動を呼ぶ人も少なくない。


これだけ読むとなんだかきれいごとのようにも聞こえますが、ここを書いたときには、あるふたりの人物を頭に浮かべていました。


ひとりは、2006年の第3回大会で完走を果たした高橋香さん。もうひとりは、2016年の第8回大会で完走した岩崎勉さんです。




伝説のラストラン、高橋香


高橋さんは、2004年の第2回大会に初出場して、無念のリタイヤ。8日目の21時32分、制限時間まであと2時間半のところで心が折れ、井川でレース続行を断念しています。


どうしても完走を果たしたい高橋さんは、2年後の第3回大会にもエントリー。この大会は、出走者6人のうち4人が早々に脱落する波乱の大会になりました。高橋さんも前回よりは速いペースで進んだものの、南アルプスを越えて井川に下りてきたときには、すでに最終日8日目の朝8時。それまでのペースを考えると、制限時間内の完走は微妙という時間でした。


しかしここから高橋さんは、周囲が驚く激走を見せます。このとき、選手に密着していたカメラマンの柏倉陽介や運営の方から届く報告に、私は心動かされました。


「高橋さん、井川に現われました。今日中のゴールは難しいかも…」

「高橋さん、すごい勢いで走ってます!」

「コンビニで買い物中。元気そうです!」

「現在××地点。これ、もしかしたらいけるかも!!」

「19時25分、大浜海岸に着きました!!!」


このときの優勝者は、同じ日の10時48分にゴールした間瀬ちがやさん。これは現在のところ唯一の女性優勝という貴重な記録なのですが、私は高橋さんがゴールしたときのほうが感激しました。間瀬さんには申し訳ないのですが、それだけ、最後の高橋さんの走りは鬼気せまるというか、どうしても完走したいという執念を感じさせるものだったのです。まさに熱走。


今回、写真集の文章を書くために過去の記録を見返していて、高橋さんがこのラストランをどれだけがんばっていたのかという裏付けを発見しました。井川から大浜海岸まで、高橋さんの所要時間は約11時間。現在とはチェックポイントの位置が違うので正確な比較はできませんが、これは、昨年、4日23時間52分という驚異の新記録で優勝した望月将悟さんの区間タイムとあまり変わらないのです!


ふだんの高橋さんはもの静かで、情熱を内に秘めるタイプでした。その高橋さんが見せた完走への執念。そこに私は感動したのです。


ところが、翌年、高橋さんは奥多摩で行なわれていたレース中に、心臓発作で帰らぬ人となってしまいました。この知らせには本当に驚いたし、今でも残念でなりません。


ご両親・ご家族は、高橋さんが情熱を傾けたTJARを知りたい、なにか力になりたいという思いから、その後、レースの手伝いなどをされていました。このことにも、私は胸が熱くなるものがありました。




10年越しの完走、岩崎勉


もうひとりは岩崎勉さん。


2014年、南アルプス兎岳で(森山撮影)



岩崎さんは2006年の第3回大会に出場している、TJARの歴史のなかでもかなり初期メンバーのひとりです。これまで4回出場をしていますが、なかなか完走を果たすことができていませんでした。


2006 菅ノ台でタイムオーバー
2008 不参加
2010 選考会で出場資格を得られず
2012 タイムオーバーとなったが走り続け、8日23時間23分でゴール
2014 西鎌尾根で、救援者支援のためレース離脱


高橋香さんが激走を見せた2006年は、中央アルプスを越えたところでタイムオーバー。2012年は、8日間という制限時間を超えても、自身のチャレンジとして走り続けて太平洋に到達。このときすでにレースは終了しており、深夜でもあることから、海岸にはだれもいないだろうと予想していたけれど、多くの人が待っていてくれて感激したといいます。


台風の直撃を受けた2014年は、運営からの要請を受けて、自らレースを離脱。大荒れの北アルプス稜線上で、救援者の支援にまわりました。この直前には、コース上でうずくまっている選手を見つけ、安全を確認したので先に進んだものの、どうしても気になり、戻ったりもしています。本当にいい人なのです。


2016年大会の最終日、ネットでレースの動向をチェックしていた私は、その岩崎さんが、時間内にゴールできそうなところを進んでいることを知ります。がんばれ!! 思わず画面越しに応援の声をかけそうになりました。


そして17時48分。




どうですか、この最高の表情。私はこれを見たとき、涙が出そうになりました。TJARのゴールシーンというのは、だれもが最高の顔をしているのですが、わたし的には、この岩崎さんの顔がTJAR史上ベストです。


で、そう感じたのは私だけではなかったようです。


ここに私が大好きな一枚がありまして、残念ながら写真集には使えなかったのですが、ぜひ見てもらいたいので掲載しておきます。




ゴールに向かって砂浜にデカデカと書かれた「イワサキ」ロード。みんなが岩崎さんのゴールを心待ちにしていて、その瞬間がついにやってきた。もし私が岩崎さんだったら、これを見たら泣いちゃうと思います。


この年の大会は、望月将悟さんが大記録で優勝したのですが、少なくとも私にとっては、その優勝シーンよりも感動したゴールがこれでした。そしてそれは、私だけではなかったはずだと思うのです。






……と、選手の話を書き始めたらやっぱり長くなってしまいました。ともすればきれいごとに聞こえるわずか3行の文章の背後には、こういうストーリーがあったのです。


きっと、私の知らないところで、私の知らないストーリーもたくさんあると思います。写真集のゴールシーンを見ていたら、そんなことを感じました。思いが迫ってくるような見応えある写真の連続。






ということで、『TJAR』写真集、ぜひ見てみてください。高いのでなかなか手を出しにくいですが、ビクトリノックスの原宿神宮前店で、8月27日まで写真集見本の展示をしています。貴重な立ち読み可能な場所です。ほか、パネル写真の展示もしています。







さらに。
ただいま、北~中央~南アルプスのコース上にある山小屋全39軒に、写真集を背負って届けるというプロジェクトも敢行中です。1冊1.7kgあるので、「これ、手持ちで全部届けるのは無理だろ!?」と言っていたのですが、TJAR出走経験者が12人も協力してくれることになりました。これ以上ない強力な飛脚の登場により、今シーズン中に全冊配布を終えられそうです。一部の小屋にはすでに置かれています。ここも貴重な立ち読み可能な場所ですので、登山で寄った際にはぜひ見てみてください。





写真集「TJAR」 | tjar photo book on the BASE

TJAR Photo Book Facebookページ

2017年7月25日火曜日

TJAR Photo Bookできました

ここのところなにかと忙しく、ブログの更新もすっかり間があいてしまいました。この間、前回・前々回に書いた栗城史多さんの記事がプチ炎上状態でたいへんでした。会う人会う人から「読みましたよ」と言われ、ついには「栗城史多」で検索すると、このブログが1ページ目に表示されるという事態に。


じつはこの間、栗城史多さん本人にも会いました。あるメディアが興味をもってくれて、取材をしようとしたのですが、記事化は断られ、「会うだけなら」ということで、本当に会うだけ会って、1時間半ほど話をしてきました。


感想としては、前回・前々回のブログはとくに修正の必要はないな、ということ。そして、取材として受けてもらえない以上、これ以上こちらにはできることはないので、この件は自分的には終了というか、一段落という感じです。




で、まるで別件。


この間、すごい本の制作にかかわっておりました。15000円の写真集です。トランスジャパンアルプスレースという、世界一過酷な山岳レースを4人のカメラマンが追ったものです。箱入りハードカバー/布張り金箔押し/オールカラー160ページという、出版社勤務時代にもやったことのない超豪華な製本。私は巻末の文章執筆を担当しました。



2002年に始まったこのレース、当時から興味を持っていて、自分自身、取材をしたり、関係者に会ったりしたことも何度もあります。レースにかかわっている人たちがとにかく純粋で、レース云々もさることながら、その人間的魅力に惹かれました。おっと、ここを書き出すと10000字くらい止まらないので、そのへんの詳しいことはまた別の機会に。


写真集の発売は8月11日(山の日)。
発売に合わせて、出版イベントをやります。収録写真のパネル展示やスライドショー、トークタイムなどもやりますので、興味のある方はぜひお越しください。



日時:8月11日(金・祝・山の日) 10時~16時

会場:ビクトリノックスジャパン株式会社 1Fショールーム
   東京都港区西麻布3-18-5

スケジュール
10:00 オープン
10:30 カメラマンあいさつ&トークショー
12:00 スライドショー
13:30 TJARについてQ&A(岩瀬幹生・飯島浩ほか予定)
15:00 選手・主催者トークショー
16:00 閉会
*10時開場〜15時入場終了/16時閉会


予約や入場料は不要で、好きな時間に来て好きな時間に帰っていただいていい、フリー入場スタイルです。会場では写真集の展示即売のほか、収録写真のパネル展示などもありますので、好きに見ていってください。イベント内容については変更等もありえますので、最新状況は以下でチェックしてみてください。



写真集はただいまこちらで予約受付中。15000円の本を中身も見ないうちから予約する人はかなり稀だと思いますが、こちらもどうぞ見てやってください。



【追記】
タイトルに「できました」と書いてしまいましたが、まだできておりません。ただいま絶賛印刷・製本中であります。校了したというだけで、現物はわれわれもまだ見ていないのです。