2021年2月16日火曜日

枻出版社が民事再生に

 

倒産速報 | 株式会社 帝国データバンク[TDB]

私の古巣のひとつ、枻出版社が民事再生になってしまった。ニュースが公になる前日にPEAKS編集部から聞いて知っていたし、年末にPEAKSやランドネが別会社に売却されたときのほうが驚きはむしろ大きかったのだが、元社員としてはやはり苦いものを感じる。

昨日、その債権者説明会があったので行ってきた(原稿料が2カ月分凍結されたので私も債権者)。説明によると、ここ数年、売上が急速に減少していたところに、予期せぬコロナ禍が致命傷になったようだった。

現在は出版不況の時代。そのなかでもっとも打撃を受けているのが雑誌。書籍(単行本)や漫画も売上は落ちているのだが、雑誌はそれと比べても落ち幅が激しい。そして枻出版社は雑誌中心の会社。書籍はあまり強くなく、売上の多くを雑誌で稼いでいた会社だ。

そのわりには持ちこたえているほうだと思っていたのだが、2017年ごろをピークに、わずか数年で転げ落ちるように売上を落としていたようだった。なんとか危機を脱出しようとギリギリであがいているところに、思わぬ方向から飛んできたコロナパンチがヒットしてしまった……というところか。



古巣のくせに他人事のように淡々と書いていて冷たいやつだ……と自分でも思うが、私は40歳を過ぎてからの中途入社で、しかもアウトドア専門要員だったので、枻出版社社員というよりもPEAKS編集部員だったという意識のほうが強い。さらに、所属していた会社の経営危機はこれで2度目(前回は2006年に山と溪谷社がインプレスホールディングスに買収されたとき)。こういうことはあるんだなと、へんに達観してしまっているところがある。

幸い、ひと足先に枻出版社から独立していたアウトドア雑誌(+ゴルフ、自転車、サーフィンなど)をはじめ、多くの雑誌は引き受け手の会社が次々決まっており、変わらず刊行されていくようだ。

実際、私も今週から来週にかけては、PEAKS次号の仕事ですでに埋まっている。原稿料凍結を食らっていながら人がいいなとこれまた自分でも思うが、つらい思いをしているのは私以上に編集部員。私もヤマケイが危機のときは肩身が狭い思いをしたし、部外者から理不尽ないじめを受けたりもしたので(あのときいじめたやつは一生許さん)、立場はよくわかる。私は愛社精神は希薄だったが編集部愛はあったので、ここは協力したい。



しかしそのアウトドア部門も、枻出版社社内では比較的落ち幅が少なかった(であろう)とはいえ、出版不況の荒波を前にして、会社が変わってこれでひと安心というわけにはいかないはず。旧来の出版ビジネスの枠組みはとっくに制度疲労を起こしている。今後、なんらかの抜本的な改革は必要なんだろう。

フリーランスになってからつくづく思うのだが、こういうときに出版出身者は本当にダメだなということ。なんらかの改革やパラダイムシフトが必要なときでも、既存の出版ビジネスの枠内でしか物事を考えられないのだ(もちろん私も含む)。一方で、ウェブメディアなど出版とは関係ない分野の人と話をすると、「えっ、そんなやり方アリだったのか」と、目を開かされることが多い。PEAKSやランドネも、そういう外部の異なる目線を入れていくことは絶対に必要だと思う。

その意味では、それこそ出版とは関連ゼロだったドリームインキュベータという会社がPEAKSの親会社になったことには、むしろ期待をしたいところ。出版脳ではないフラットな目線で、アウトドアメディアの可能性を掘り起こしてほしい。

一方で、出版社社員の立場を離れてから同時に感じているのは、コンテンツ制作能力は出版出身者は高いということ。これはウェブメディアと付き合っているとすごく感じる。「この人なんかデキるな」と感じてよくよく話を聞くと、じつは出版社出身ということが多いのだ。これはひいき目ではないと思う。人々が面白いと感じるものを的確にピックアップする嗅覚と、素材をより面白くする技術をたくさん持っている点において、出版出身者はやはりレベルが高いと感じる。



なので、出版出身でない人がビジネスの大枠を設計するプロデューサーとして機能し、出版出身者がそこに合ったコンテンツを提供していくという組み合わせがこれからの理想なのだろう。PEAKSの新会社(ピークス株式会社という名前。ややこしいが、社名はPEAKSとは関係なく、綴りはPEACS)もそこがうまく機能することを期待したい。

おそらくその過程では軋轢も起こると思う。これもヤマケイのときの経験上、なんとなく想像できる。よくあることだが、そのときに「出版文化」みたいなことを持ち出すと、話がそこでストップし、対立を深めるだけになると思う。なじんだしきたりはひとまず脇に置き、新しい環境を刺激的なものとして吸収していってほしい。……って、えらそうに上から目線で言っているが、おまえにそれができたのかと言われれば黙るしかないのだけど(笑)



明々後日はショップの人が集まる取材。絶対にこの話題で持ちきりになるはず。とりあえず「僕の考えはブログに書いておいたので読んでください」と言っておこう。





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