2016年4月26日火曜日

モアイフェース真の完成


昨年来、このブログでも何度も書いた瑞牆山モアイフェースのルート「千日の瑠璃」が完全版として登られました。4月23日に、下から全ピッチ通して登ったそうです。


初登として報じられた昨秋は、ピッチごとに区切ってそれぞれ別の日に登っていました。考えてみればこれは、ボルダリングの「ムーブばらし」に成功しただけで、「つなげ」はまだだったともいえるのです。


ピッチごとの成功でも「ルートの完成」として認められるにもかかわらず、「つなげ」にこだわった倉上くんの執念にあらためて敬意を表します。この歴史的なルートをピッチ完登で終わらせなかった意味はとても大きく、とくに今後に続くクライマーに大きなメッセージとなったはずです。



パートナーの佐藤裕介が昔、錫杖岳の「しあわせ未満」というルートをフリーで初登したときに、ピンクポイントで終わらせずにレッドポイントするまで通い続けたことに感心した覚えがあります。プロテクションの事前セットをしないレッドポイントこそ、「下から上に登る」クライミングの根本思想を体現したスタイルと思ったからです。


今回のワンプッシュクライミングにも同じこだわりを感じました。リスクの高いクライミングでこのこだわりを貫くのは、相当の覚悟がいることだと想像します。でもそれを貫き通したからこそ、ルートの完成度は飛躍的に高まったわけで、だからこそ「大きなメッセージ」になったと思うのです。


道を切り拓いたものが勇気をもって最後までやり通したのに、続くものがハンパなことをやるわけにはいかないと。




2016年4月22日金曜日

クライミングは運動靴でやれ


日本フリークライミング協会の会報誌『freefan』が届きました。


この冊子に「ローカル強強クライマー列伝」という連載があります。全国的には無名だけど、その地方では知る人ぞ知るというような人物を紹介するコーナーです。今回取り上げられていたのが、大学探検部時代の先輩であり、私にクライミングに教えてくれた人物でもある高橋洋祐さんでした。


高橋さんは現在は愛知県でプレイマウンテンというクライミングジムを経営しています。学生時代からクラブの中では突出してクライミングがうまく、当時から有名なクライマーといっしょに登っていたりして、その筋では知られていました。


私は学生時代に、アフリカのサントメ・プリンシペという国にある「ピコ・カン・グランデ」という岩塔を、高橋さんと後輩1人の3人チームで初登したことがあります。これも高橋さんがいっしょじゃなかったら絶対登れなかっただろうな。難しいピッチは全部高橋さんにリードしてもらいました。


Pico Cao Grande 663m



中央が高橋さん、右が私、左は縣直年という後輩。それにしても汚い写真ですな


ところで、freefanの記事を読んでいて私はショックを受けましたよ。それはこのくだり。


若林 岩と雪読んであこがれてましたよ。この登攀(ピコ・カン・グランデ)は。ところで昔は運動靴で登っていたと言ってたね? 
高橋 今でも道具にはあまり頓着しないんだけど、昔はもっとそうだった。「運動靴で登れなきゃ沢や洞窟で通用しない。ベストの靴は月星シューズ!」とか意気がってたんだけど、骨折で懲りてすぐにクライミングシューズ買った。


「運動靴で登れ」とは確かによく言われていました。クライミングシューズは岩ではいいけど歩けないから大きな山では実戦的ではないというのです。それに、登りにくい靴で練習していれば、靴に頼らない足さばきが身につくと。


それはそのとおりだ、理にかなってると、先輩の教えにしたがって私はふにゃふにゃのジョギングシューズで一生懸命登っていたわけです。当然ながら全然登れなくて、まったく面白くないわけですよ。しかしそれは私の精進が足りないからなんだと自己嫌悪に陥っていたものでした。


その後、クライミングシューズで登るようになって気がついたんですが、「登りにくい靴で練習したほうがうまくなる」というのはウソじゃないかと。登りやすい靴で登ったほうが明らかに技術が身につくんですよね。高橋さんの教えは間違っていたんじゃないか……?


ところがおそろしいことに、現在でも心のどこかで「クライミングシューズはズルだ」と思っている私がいます。もうとっくに高橋さんの教えが間違っていたことはわかっているんですが、頭ではわかっていても心が納得しないというか。高橋さんは私にクライミングのイロハを教えてくれた人。いわば歩き方を教えてくれた親です。親の教えというのは、どんなに間違っていても、当人にとっては真実として心に刻まれてしまうのですね。


その親があっさりと運動靴を否定している。それを信じて心に刻んでしまったおれの立場は……。





*ところで『freefan』の詳細はこちら。日本フリークライミング協会の会員(年会費3000円)になると送られてくるほか、クライミングジムなどで買うこともできます(500円+税)。

2016年4月3日日曜日

『外道クライマー』書評

もう本当にすばらしい。おれもこういう文章を書いてみたい。いや、『外道クライマー』のことではありません。その巻末に掲載されている「解説」のことである。筆者は角幡唯介


こみいった話をするする理解させる叙述力、品のある言葉のチョイス、絶妙のさじ加減に抑えたジョーク、すべてがすばらしい。登山や冒険の奥底の魅力というのは言葉ではとても表せないモヤモヤとしたものなのだけど、角幡の手にかかれば明快な理屈になってしまうので、本当に不思議だ。というか、うらやましい。


ここのところ、もうすっかりこの男の文章のファンである。こっそりマネさせてもらっているが、彼の新作をあらためて読むと、やはり全然およばないことに気づく。


角幡の文章をひとことで表すと、「端正」という言葉がいちばんしっくりくる。非常に的確な言葉だと思うのだが、残念ながらこれも私の言葉ではない。高野秀行の言葉である。さすがに文章でメシを食っている人は言葉のチョイスが違う。


高野と角幡は大学のクラブの先輩と後輩にあたるのだが、なんだかPL学園野球部で、先輩の清原や桑田、後輩の前田健太などの天才にはさまれた世代の上重聡のような心境だ。一応おれも甲子園(商業誌)には出たし、自分ではそこそこイケてるつもりだったのだがなあ。


つい最近、その『外道クライマー』を買って、冒頭の一章と巻末の解説だけ読んだ。どちらもたいへん面白く、これから先の読書を期待させてくれた。その解説だけ、ネットで読めるようになっていたことに気づいた。


『外道クライマー』スーパーアルパインクライマー宮城 解説 by 角幡 唯介


本に掲載されている解説と同じ文章(のはず)。ぜひ読んでみてほしい。


私的に最高に気に入っているのは、最後の1行である。本を読まないと意味がわからないかもしれないが、もう最高。角幡はこの1行を書きたいがために、えんえん文章を書き連ねてきたんじゃないだろうか。いや、きっとそうだ。強烈なオチになってます。


似たような1行オチで、私が絶品級に気に入っている文章がある。それがこれだ。


おちんちん


こうして記すのをはばかられるタイトルだが、これは角幡がつけているタイトルだから私にはどうしようもない。タイトルはひどいけど(でもこれでいい)、ブログに書くにはもったいないような名文です。ぜひこちらもお読みください。